第6話 拉致
「ロイきゅん会いたかったわぁ!」
「ちょ……ちょっと……レナ姉ちゃん……息が…………」
俺は強く抱きしめられて、息ができなくて抗議する。
「ああ、ごめんね。ロイ君どうしたのこんなところで?」
「彼が助けてくれた冒険者ですよ、姉さん」
ティアが説明する。
「ロイ君が……どうすごいでしょ、私のロイ君は!」
レナは得意げにふんすーっと鼻息を吐きながら言う。
「すごかったのだ。ドラゴンが一刀両断なのだ」
「かっこよかったっすよ。僕惚れちゃいそうっすもん」
「え?」
レナは氷の微笑を浮かべながらフィオナに言う。
「あら、フィオナはあたしのロイ君に手を出す気なの?」
「ぼ、ぼ、僕は…………別に……そんなことないっす!」
余程レナが怖いのかフィオナはすぐに引き下がった。
そこで俺はフラっとよろめく。
「っ……!」
そういえば町を出てからろくに食事を取ってなかったな。
たちくらみにより自分がひどく空腹であることを自覚した。
「ロイ君どうしたの?」
レナがふらふらな俺に寄り添ってくれる。
そこで、ぐぅーーーっと大きな腹の虫が鳴った。
「お腹空いているのロイ君?」
「う、うん……」
俺は正直に告白する。
するとレナはぱぁあっと花咲くような笑顔を浮かべる。
「じゃあロイ君、私の家に行こうか! 美味しいものお腹一杯食べさせて上げるね!」
「え、そんないきなり悪いし……」
「何を遠慮してんのよ。私はロイ君のこと弟みたいに思ってるんだから。何も遠慮なんかしなくていいし、気兼ねのしなくていいのよ。ほら、いこう!」
レナは俺の右腕を取り強引に歩き出す。
その時――
「姉さん、ロイ君はドラゴン討伐したんで部位の持ち帰りが必要っすよ」
「…………」
レナは立ち止まり一時の無言の後、フィオナたちの方へと向き合った。
「悪いけど、討伐部位はあんたたちが持ち帰ってロイ君の手柄として報告してくれない? 手数料は弾むからさ」
「そんな、悪いですよ。レナ姉さんに手数料出してもらうのも、フィオナさんたちに討伐部位を持ち帰ってもらうのも」
「ロイ君、あなた分かってないけど顔色も悪いよ。何かあったのロイ君?」
「いや、別に……」
俺は浮気の事実をすぐに告白するのは抵抗感があった。
言えないよ、2年も離れ離れになって強く思ってた彼女に浮気されてたなんて。
「…………まあいいわ。ここはお姉さんたちに甘えておきなさい。悪いけど頼むわねあんたたち」
「分かったっす、姉さん。ロイ君はゆっくり休むといいっすよ」
「……すみません」
俺の様子から、嫌なことがあったのだろうということをきっと汲み取ってくれているのだろう。
彼女たちの優しさに胸がジンとする。
「あの、それだけだと申し訳ないんで討伐料の1割くらい受け取ってください。それを手間賃にしてもらえると」
「いやいや、ドラゴンの討伐料っすよ。手間賃でそんなにもらえないっすよ!」
フィオナはブンブンと首を振り、大げさとも思えるようなリアクションで拒否する。
「え? そうなんですか……」
「気持ちだけ受け取っておくっす!」
「じゃあ、帰ろっかロイ君。みんなよろしく頼むわね!」
「まかせてくれっす!」
こうして俺はレナの自宅へと拉致されることとなった。
レナの優しさは嬉しい。
だけど俺は怖れていることがあった。
それは以前から師匠に注意されていたことであり、姉弟子のレナと俺が離れることになった要因でもある。
そしてその怖れていることは、すぐに現実となった。
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