第4話 大捜索隊の編成
【続リリスside】
「嘘よ! ロイが秘匿階級者だなんて!」
思わず立ち上がり抗議する。
秘匿階級者とはSランク以上で、そのランクを公的に隠したいものたちを総称した呼び名だった。
Sランク以上になれば強力な便宜が図られるが、その分、注目されるし、命を狙われる危険も増大する。
冒険者はSランクに到達した後に、自身を秘匿階級者にするかどうか選択することができるのだった。
「信じられねえか。リリスとか言ったが、お前は人を見る目がなかったな。ロイはこの町に師匠のロザリアに連れてこられてからメキメキと実力を伸ばしてたった1年で、Eランクから一気にAランクへ駆け上がっていったぞ」
「そんな信じられない……あのロイが……」
記憶にあるロイは鈍臭く、飲み込みも悪く、そして臆病でお世辞にも冒険者に向いているとは言えない男だった。
「ロイは秘匿階級者として、
「Sランク以上の魔物ぉ!?」
今度はバンデラスが驚きにより大声を出す。
Sランク以上ともなると軍が出動するレベルの魔物になる。
「ちょ、ちょっとなんでそんなとんでもない魔物がいる情報が、王都まで回ってきていないんですか?」
「そんな情報、安々と流せる訳がないだろうが。変な考えを持ったものたちが、そのSランクの魔物を駆り立てるような良からぬことを考える者いないとも限らないからな。最も、他国の上層部にはこの情報は公然の秘密として伝わってはいるがな」
ゼフィアスは難しそうな顔をして腕組みしながら答えた。
「ロイがこの町からいなくなったとすれば、Sランクの冒険者を複数人この町に配置しなければならないということになる。それが一体どれほどの支出になるか貴様もギルマスをしているなら分かるだろう」
「あ……え……はい……」
そう答えたバンデラスは、青いを通り越して白くなった顔色を浮かべていた。
Sランクの冒険者を複数人ともなれば下手すると小国の国家予算を超えるような報酬が必要になる可能性もあった。
更にSランクの冒険者を複数人と必要ということは、まさかロイは単純にSランクではなく、Sランクを更に超えるSSランクか或いは……。
それは吐き気がするような事実だった。
逃した魚は余りにも大きすぎる。
思わず、「おえっ」とえづく。
今度はエルドラン王が神妙な顔して話しはじめた。
「まあ、支出については本来は必要なものだからしょうがない。だが、もしロイが他国に流れたとしたら? 世界の軍事バランスは一気に崩れるぞ! そして今回のことをきっかけに、もしもロイがエルドラン王国の反目へと回ったとしたら? そうなれば我が国の存亡の危機じゃ!! 王国親衛隊長及び、各騎士団長へ命ずる!」
王の号令によって各長は駆け足で壇上前へと集まる。
それぞれが強者のオーラを纏い、威厳のあるものたちばかりだった。
「各地の貴族と連携してすぐに捜索隊を結成してロイを捜索しろ! もし、ロイが他国へ流れるようならなんとしてロイを引き留めろ! 金に女に権力に、ロイが望むものがあれば金に糸目はつけずになんでも用意する! いいか、我が国は現在存亡の淵にあり、ロイの捜索は戦争だと思え! なんとしてもロイを見つけて、確保するのじゃ!!」
王は鬼気迫る様子で指示を飛ばした。
「御意にて!!」
それに対して、各長の気合の入った大きな声が町に響く。
「グランドマスターよりギルドマスターへ告ぐ!」
今度はゼフィアスが大声を張り上げた。
「今回のギルド評議会は最重要秘匿階級者の失踪により中止とする! 各ギルドも王国と連携して、ロイの捜索をしろ! これは緊急で最優先案件だ!」
「了解!!」
集まっていた人たちはゾロゾロとその場を離れていく。
どうしよう……。
とんでもない話になってしまった。
私はこんな所で終わっていられない。
田舎の村から出てきたのはこんな所で終わるためじゃない!
ロイはきっとまだ私に未練があるはずだ。
なぜなら私はロイと付き合って上げたんだから。
本来ならロイなんかは私と付き合える男ではなかった。
気が優しくて私の言う事をなんでも聞きそうだから付き合って上げたに過ぎない。
まだ私と付き合えると分かられば泣いて喜ぶだろう。
「あ、あの、私がロイを引き留めます! だから――」
エルドラン王とグランドマスターのゼフィアスの冷たい視線が私に突き刺さる。
「もしそれができるのであれば、当たり前じゃ!」
「言っとくけど失敗しました、ごめんなさい。で済む話じゃないからな。ランクの降格だけじゃ済まない。ギルドからの永久追放もありえるぞ!」
王とゼフィアスは強い口調で私に言った。
「そんな…………そんなの冒険者として死ねって言っているのと同然じゃないですか!」
「そうだよ! だがら死ぬ物狂いでやれ!」
あまりの剣幕に怯んで下を向く。
横暴だ。だが流石にギルドの最高権力者グランドマスターに表立って逆らうわけにはいかない。
言うことを言うと王とゼフィアスもその場から離れていった。
隣のバンデラスをちらりと見ると、抜け殻のようになっていた。
肝心な時に役に立たない。
思わず「ちっ」と舌打ちが出る。
なんでこんなことに……。
別に私は悪くない。
より優秀な男に言い寄られたらそちらになびくのは当然だし、悪いのは私と離れた時に実力がなかったロイの方だ。
しかもバンデラスは私の将来の夢であるギルマスへの推薦までしてくれるとまで言った。
そんな事言われたら、そちらに鞍替えするのは当然の事だ!
今度ロイに会ったら叱ってやろう。
そんなに実力があるのだったら、なんでそれを早く私に伝えなかったのかと。
そうであれば、こちらもロイの扱いを変えてやったのに。
まあ、ロイは所詮、気の優しいお人好しだ。
涙の一つでも見せて、後は色仕掛けでもすればすぐに落ちるだろう。
あっちの方も童貞に毛が生えた程度のテクニックしかなかったし。
大人の男に開発された私が骨抜きにしてあげよう。
まあ、あの時はお互いまだ幼かったというのはあるけど……。
後はこの隣にいる役立たずのバンデラスをどうするかだ。
今は腑抜けのようになっているが、そのうち復活するだろう。
とは言っても彼の将来の出世の芽は今回の失態で摘まれたと言っていいだろう。
ならばいっそのこと切るか……。
いや、もう少し様子を見よう。
今回の件で彼の失脚は間違いないだろうが、彼は
どう転ぶか分からないうちは、何もしないのが吉だろう。
「見てなさいよ。私はこんな所では終わらないんだから……」
私は誰に聞かれることもないような小さな声で、ボソリと呟いた。
空はいつの間に曇天となっており、今にも雨が降りそうな空色をしていた。
この日よりエルドラン王国では大規模なロイ捜索隊が編成され、王国中へと展開されることとなった。
その中で
彼らが言うには樹皮ゴブリンに狂乱のオーク。
それに白狼などのSランクの規格外の魔物たちの死体が積み重なっていたとのことだった。
驚くべきはそれだけではない。
更にSランクすら超える伝説級の魔物の
更に鉄製の大斧であっても傷一つ入れられないと言われている、
それがまるで最初からなかったかのように広範囲で、大地がまるで隕石でも落ちたかのように大きく削れて荒野と化していたとのことだった。
捜索隊も最初は我が目を疑ったらしい。
各地より様々な情報はもたらされているが、ロイの発見へはまだ至っていない。
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