少女物語
日暮
少女物語
子供の頃から、少女漫画が好きだった。
漫画の主人公である彼女たちは、みな誰かに恋をしていて。
キラキラしていた。
輝いていた。
読んでいるこちらもドキドキするぐらいに。
だから、自然と、惹かれた。憧れた。
私も、いつか。
そう。私も、いつかこうなるんだ———。
「………なのに、高校生になっても、ぜんっぜんその気配がないというね!!!」
昼休み。とある公立高等学校の片隅でそう叫ぶ少女がいた。
彼女は友人である2人の少女とともに机をくっつけて、女子高生の平均的な食事量からはやや多すぎると思われる量のお弁当に箸を付けていた。
「はあーあ。はーあ」
「ため息ばかりつくな。幸せが逃げるぞ」
中性的な話しぶりで彼女を嗜めるのは、眼鏡の似合う、ゆるくパーマをかけたボブカットの少女。
「そうよ。せっかくご飯なんだからちゃんと味わいなさい」
もう1人、綺麗な黒髪ロングの少女もそう言って嗜める。
「う、うう〜…。でもさあ…でもさ…私の人生、いくらなんでも華の女子高生とは思えないよ」
最初に叫んだポニーテールの少女が机に顔を伏せて全身で遺憾の意を表明する。
「2人も知ってるでしょ?こないだの———『演劇王子毒殺未遂事件』」
その言葉に、ボブカットの少女がぴくりと反応する。
「もちろん知っているぞ。夏休みに行われた、演劇部の合宿中に起きた事件だろう」
眼鏡をかけ直しながら答えるボブカットの少女に、黒髪ロングの少女も追随する。
「ああ、確かイケメンで人気者の先輩の水筒に、毒が入ってて、危うく死にかけたってやつ」
「そう。顔良し、成績良し、運動神経良し。おまけに演劇の才能あり。ついたあだ名は『演劇王子』そんなむかつくやつが死にかけた、あれだ」
「あ、あなたの先輩に対する僻みはともかくとして………確か、示談が成立したとかで、ニュースとかでは取り上げられなかったのよね」
「そうだ。でも、生徒の間にはやはりと言うべきか、すぐに噂が広まって話題になった。………そして、噂によると、事件が迷宮入りするのを鮮やかに防いだ生徒がいるだとか」
ちらり、と2人はポニーテールの少女を見やる。
ポニーテールの少女は今にも泣き出しそうな潤んだ瞳でその視線を受け止めていた。
「だってだって!演劇部の友達にたまたま差し入れを持って行った時に起こったんだもん!話を聞いていたら怪しい人間関係とかアリバイとか浮かび上がってきて!だったらさすがに見て見ぬふりできなくない!?」
「その通りだ。偉いな」
ボブカットの少女はポニーテールの少女の頭を優しく撫でて健闘を讃える。しかし、ポニーテールの少女は不服そうだ。
「はあぁ〜………。私も早くキラキラした恋がしたい………。漫画の主人公みたいになりたいよ〜………」
と、その時。
隣のクラスの生徒が、ぱたぱたと上履きを響かせ困り顔で少女たちの元へやってきた。
「ごめんなさい…邪魔して。探偵さんってあなたよね?探し物を頼みたくて………」
ポニーテールの少女は、先ほどまでの弱り顔を一変させ、「いいよ。詳しく聞かせて」と頷きつつ席を立った。
「ごめんね2人とも。また後でね」
依頼人の生徒とともに立ち去る後ろ姿を見送りつつ、黒髪ロングの少女がため息をつく。
「入学直後から、大小様々な事件をそのずば抜けた推理力で解決してきた………」
ボブカットの少女もそれに続いて呟く。
「ついたあだ名が『少女探偵』」
「まったく、もうすでに漫画の主人公じみてるっていうのにね。羨ましい限りだわ」
「人は自分が持っているものには疎いものなのさ」
少女物語 日暮 @higure_012
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