第7話 初めて知る事実

木目調の廊下を歩き神主さんが用意してくれた洋室に入った。そこにある丁寧に整えられた真っ白なベットに寝っ転がる。病院のベッドよりもふかふかだった。入院生活で体が衰えた俺にとって数分で眠りに落ちることが出来るほど天国だった。

次の日、看護師からのモーニングコールで目が覚めるのではなく鳥のさえずりで目が覚めた。部屋から出ていい匂いのする方へ誘われるがまま入ると神主さんに「おいで」と手招きされ席についた。味気のない入院食ばかり食べていたから俺の舌は豪華な朝食に踊らされている。嫌いな野菜ですら美味しく感じる。こんな美味しい朝ご飯は初めてだった。母親のご飯すら記憶にない俺は不器用な男が作る朝ごはんしか食べたことがなかった。愛が籠っていてどれも美味しかったがこれに勝るのはない。どんな天才シェフを雇っているのだろうか。

だけど何かが足りなかった。もう十分満足なのに心の中で何かがかけているようだった。心にもやがかかったような気すらする。

廊下を歩きながら考える。いつも聞く優しい声、笑いかける優しい笑みをした親父に会いたいと初めて思った。毎日一緒にいて、いない方がおかしいくらいだった。たかが1日会っていないだけなのにどうしようもなく悲しかった。でも会いに行けばまた病院で辛い治療を耐えなければならない。こんなにも元気なのに誰かが生きるための犠牲になるために。だけど俺は自分のために生きたい。もうどうしたらいいか分からない。

頭でぐるぐる悩んでいた俺は頭を抱えながらその場に座り込んで俯いた。親父には会いたいけど病院には戻りたくない。そもそもこっぴどく怒られるだろうしここのまま誰にも気づかれずに隠れていたい。だんだん言葉がまとまらなくなってくる。

すると誰かが正面から歩いてくる音がして顔を上げた。そこには神主さんがいて「どうしたんだい?」とにこやかな笑顔で俺を見つめた。俺は数秒無言になったあと口を開いた。

「親父に会いたいのですが、どうしたらいいですかね、」

神主さんはうーんと首を傾げて

「会いたいなら会えばいいんじゃないかな?」

と正論をぶつけてきた。確かにそうだが違う。

「会ったら病院に戻される気がして嫌なんですよ!もうどうしたらいいかわかんない、」

取り乱したように泣き出す俺を神主さんは困った顔をしながら手拭いを懐から取り出した。

「まぁまぁ、落ち着きたまえ。病院には話をつけているから無理やり戻されることはないだろうね」

「話?どうやって?俺管とかに繋がれてたんだよ?」

衝撃の事実に思わず敬語を外してしまった。だがそれを気にせず神主さんは「本当は志希くんの病気は病気じゃないんだよ」と続ける。

「え?」

1ヶ月悩まされていた病は病ではなかった?

「どういうことですか?」驚きと興奮で立ち上がる。

本当に病じゃないならもうあの苦しい意味のない治療もしなくて済むということだし俺は本当の自由の身となれる。多少の疑問は抱くがそんなことどうでもよく思えるほど嬉しかった。初めて知る事実に俺は胸が弾み「なんでわかったの?」「なんでなんで?」とキラキラとした瞳で神主さんを見つめると優しい笑みを浮かべながらゆっくりと俺に説明してくれた。

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