第5話 不治の病への第一歩
昔、ひいおばあちゃんが僕によく言い聞かせてくれたことがある。
「良い子にしていたら神様が現れて不治の病すら治してしまうんだよ」と。
ただの迷信で子供に言うことを聞かせるようにするための言葉だと思っていたがうちの家系は先祖代々神に仕えていたらしい。だが今の僕には超能力などの力はないし神を見た事さえない。確信はないがきっと霊感は強い方で幽霊みたいなのは見たことが数回あるがきっと何かの見間違いに違いない。
―――――――――――――――
入院中、志希くんはよく僕に話しかけてくる。
「親父、もし超能力があったらなんの力が欲しい?」
中学生らしい可愛い質問だと思いながらも少しだけ真剣に考えてみると僕が意外と強欲なのかもしれないと思った。でもその中でも特に叶えたいことを伝えた。
「志希くんの病気が治せる力かな?」
「確かに、超能力なら治せそうだよね、ちなみに俺は!好きな子を惚れさせる力かな!」
「お?志希くん好きな子いるのか〜?」
おちょくるように語尾をあげると志希くんは頬を赤らめて「別にいないから!!」とわかりやすい嘘をついてなんて可愛いんだと思った。
「そうか〜いないのか〜」
ニコニコしながらそう言うと「そうだよ!」と強く返された。志希くんといると自然に表情が柔らかくなる気がする。笑った顔が山野さんにそっくりだと思う反面、情けないほど嫉妬してしまう。だが山野さんも志希くんも同じぐらい好きで複雑な気持ちだった。でも今僕がしなければいけないのはそんな浅はかな事じゃない。志希くんが幸せに生きていけるようにすることだけ。きっと無駄だろうと思いながら僕はとある人の所へ足を運んだ。
そこは某都内の神社で昔からの繋がりがある人がそこの神主をしている。
鳥居へ踏み入ると足音に気づいた神主がこちらを見て驚く。
「よく来たねあっくん」
純白な髪色をした神主は僕より背が低く僕を見上げた。
「ご無沙汰しております。」
「随分と歳をとったようだね」
「ははは、さすがに37になればもう若い時のような力はありませんよ」
「そういう意味じゃないんだよ。あっくん。何か酷く疲れているようだね」
そう言われて最近は志希くんのことで忙しくてしばらく自分の顔を見る暇などなかったと気づいた。
「最近は息子が不治の病にかかってしまって。毎日見舞いに行っているんです。」
「不治の病か」
神主は何かを考えるように一点を見つめる。
「今日来たのもそれが理由なんです。」
「なるほど。確かに不治の病は神威的なものだと一説はあるだろうね。確か祖父の代に不治の病を治したという書物があったはず。少し探してくるから客室で待ってておくれ。」
「ありがとうございます!!」
良かった。やっと手がかりが掴めそうだ。まだ見つかったわけじゃないが力が入りっぱなしだった肩に力が抜けた気がする。
20畳ほどの客室へ使用人に案内され氷の入った麦茶を1口飲んだ。
5分ほど辺りを見渡しながら待っていると分厚い書物を抱えた神主が現れた。
「神威的病の本をできるだけ持ってきたよ手分けして読んでみよう。」
「はい!」
こうして僕は志希くんを治すための第1歩を踏み出したのだ。
シキ 雨読弧々 @cocosan0
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