第4話 親としての願い
玄関の郵便受けに入っていた葉書を手に取った。
昔命を救って貰ったことがある山野義と書かれた死亡通知状であることに気づいた。
まだあの時の恩も返せていないのに。
そして何より身寄りのない中学二年生の息子を残して逝ってしまったことを葬式場で知らない人達が話していることを盗み聞きした。
この言葉を聞いて僕は今が恩を返すチャンスだと思い児童養護施設のスタッフや周りの力になりそうな人達にその子を引き取りたいと申し出た。親族でもない人達に子育ては楽じゃないと何度も止められたがそんなこと承知の上だと言い返し僕はその子に会うことが出来た。
公園で待ち合わせしていると山野さんによく似た160cmくらいの男の子が歩いてきてすぐわかった。近くに寄りとびきり優しい声を出す。
「やぁ、初めまして、君が志希くんだね?」
志希くんは少し俯いて「はい。」とだけ呟いた。
父を亡くしてすぐなのはわかっているがとても元気がなくどう接したらいいか分からなかった。人と関わるのは仕事以外でないしましてや思春期真っ只中のデリケートな中学2年生にどう声をかけたらいいのかも分からずとりあえず自己紹介をして警戒心を解くことにした。
「僕の名前は南川篤志。37歳の会社員だよ」
自己紹介と言っても至ってシンプルでまた同じような返事しか返ってこないだろうと思っていたがそれを聞いた瞬間、志希くんは驚いた顔をして僕の年齢に驚いた。見た目より年齢の方が上でとても褒めてくれた。そんな褒めても何も出せないのに。その話から他の話へと軌道に乗りキラキラとした子供らしい笑顔を見せてくれた。その笑顔に僕は生涯かけて守って志希くんを幸せにしてあげようと誓った。結婚も子育てもしたことの無い僕のことを親としてくれた志希くんに悲しいことが降りかかろうがどうかこの笑顔を絶やさないほど幸せに生きて欲しい。
そのために僕が何がなんでも幸せにしてみせる。
ーーーーーーーーーーーー
最近志希くんの体調が優れない。会社のこともあって体調の変化に気づけなかった。こんな些細なことにも気づけないなんて親として情けない。ただの風邪だと思い病院に行って薬をもらって良くなると思っていたが一向に良くならない。それどころが高熱がもう3日も続いている。インフルエンザの検査もしてみたが結果は陰性。咳のような風邪症状が無くなったあとも高熱が続き比較的大きい病院に行ったが原因は不明。もしかしたら東京の病院なら何かわかるかもしれないと言われフラフラで今にも倒れ込んでしまいそうな志希くんを抱え紹介状をもって東京へ行った。
すると衝撃的なことに志希くんの病の原因は不明と言われたが志希くんと同じ症状を持った患者が過去にいたと言われ少しの希望を持つが言い渡されたのは治療法がない、その上その患者は発症してから1年で死亡した。
志希くんと病気が同じなら同じルートを辿ることになるだろうと言われ僕は絶望した。まだ出会って1年と少し。治療法がないなら足掻くことすら意味がない。だがただでさえ不安定な志希くんにはそんなことは言うことが出来なかった。できることがあるならば眺めのいい部屋で最期を過ごさせてあげること。それ以外は志希くんのためにはならない。あとは医学の進歩のために志希くんの身体を利用するだけ。志希くんの身体がこの先、何人もの人を助けることができるならばなんて素晴らしいことだろうか。もしそうなっても少なくとも僕も志希くんは死んでも恨んでいるに違いないが。僕がイライラしたところで何も意味がない。今できるのは志希くんから不安を取り除きあるか分からない生きる為の方法を手探りで探すだけ。それぐらいは親としてしてあげたい。
どんなに苦しい思いをさせて治療をしても「大丈夫だよ」と声をかけることしかできないとき僕は「もう辞めてもいいんだよ」と言いそうになる。毎日のように辛い顔を見るなら楽に父親のところへ逝かせてあげた方が幸せなのかもしれないとまで思ってしまう。だけど志希くんの希望を捨てない心を無駄にしたくない想いもある。葛藤と心配で頭がぐちゃぐちゃになって全てから逃げ出したい。あの時と同じだ。何もかもから逃げたくて飛び降りようとしている時と。あの時は山野さんが僕を止めなければ今頃この子は天涯孤独だったろうに。でも志希くんの強さなら1人でも平気そうだが。
「親父、どうしたの、?」
志希くんの声を聞いてはっと我に返る。
「あ、いや、なんでもないよ!ちょっと考え事してただけだよ」
この子には嘘をつかないと決めたのに。咄嗟に嘘をついてしまった。だがこのまま言ってしまえば志希くんは不安で病死する前に自殺してしまう程だろう。そんな悲しい終わり方はさせない。
僕の願いはただ1つ。
「幸せに生きて欲しい。」
それだけ。
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