第3話 意味の無い治療

カラフルなポスター。白い壁。度々聞こえる幼い子供の泣き声。クセのある薬品の匂い。

もう全てが慣れたが注射の針が入る瞬間だけは怖かった。あと何度血を抜かれるのだろうか。

もうこんだけ抜かれたのなら俺の血だけで輸血とか出来るんじゃないだろうか笑

治療法がないと言われて1ヶ月が過ぎた。

世の中は真夏日とテレビで散々騒がれていたが病院のクーラガンガンの中を一日中過ごしている俺にとって実感などなかった。あれから数日経ったある日、高熱が急に治まり比較的元気だった。

毎日お見舞いに来る親父は決まって

「志希、調子はどうだい?」と言う。

「大丈夫だよ、熱もないしめっちゃ元気!早く遊びに行きたいな〜、」

もう何日も外に出られていないし運動が好きな俺は体が鈍りそうで何がなんでもどこか遊びに行きたかった。

「でもなぁ、柳谷先生が言うには今の志希はいつ体調が変化するか分からないから外出は控えてねって」

柳谷先生と言うのは俺の主治医だ。優しくて女神のような女性。他の先生よりもずっと若いのに沢山の知識を持っていて病院の偉い人の前で自分の意見をはっきり過ぎるほど伝えられる意志の強さもある。そんな姿がかっこよくて俺の憧れの人だ。

「そっか、、、はぁ、もうなんなんだよこの身体!」

だんだんイライラが増え硬いベットを拳で殴りつけた。親父は何も言わずにただ俺を見つめる。健全でなんでも手に入る親父も正直憎かった。目に見えない病への怒りを親父にぶつけたところでしょうがないことなどわかってる。だけど不安と怒りを消すにはこうするしかない。どんだけ嘆いたところで誰もどうすることも出来ない。

もし俺が異世界の人間だったなら魔法が使えてこんな病気なんてイチコロなのに。その前に病気にかからない身体にしてみせる。だが現実は何もかも描いてる夢よりも残酷だ。父が亡くなる前、父の誕生日にケーキを買おうと必死でお小遣いを貯めたがそれも全て意味がなくなってしまったように夢など願ったところで全て無駄に終わる。それなら最初から願わなければいいだけ。

この意味のない治療も。

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