第7話

 それからボクと西渡はそれぞれ分かれた。理由は簡単で二手に分かれて任務を果たすため。ボクはりんご飴を買い、西渡は綿あめを買いに行った。ボクはりんご飴を二つ手に入れると待ち合わせ場所であるベンチに向かった。既に西渡は買い終わっていたようで綿あめを両手に持っていた。ただどこか苦しそうな表情をしている。食べたいのに食べることを許可されていないワンちゃんのように。


「……食べないの?」

「わ!」


 ボクが声を掛けるとびっくりして西渡は立ち上がった。あまりの動揺振りに思わず笑ってしまう。


「なんだよぉ、盗み見とは趣味が悪いんですけど? なんてね。ありがと!」

「うん」


 ボクはちょっと躊躇したけれど、西渡はあまり気にしていなさそうな様子だったからボクも気にせずに隣に座ることにした。


「やっぱり糖分だよね。祭りと言えば」

「太るぞ」

「おい。今日ぐらいはいいだろって」

「普段の西渡を知らないから」

「…………」

「ん、どうしたの?」


 急に西渡が黙った。大好きなお菓子を前にしてんのに口を付けようとしない。流石に女子に対して太るぞ発言が地雷だったかもしれない……。


「西渡、えっと、一日ぐらい食べても太らないぞ?」

「いや、そんなことは気にしてない」

「あ、そう……」


 なんだ。なんか様子が変な気がするけど。

 すると、西渡はぼそぼそと呟き始めた。小さくて何を言っているのか初めのうちは聞こえなかった。


「なんて?」

「だから!」


 こっちを向いた西渡は頬を若干赤らめている。


「文化祭が終わっても……」

「ん?」

「……ね、携帯持ってきてる?」

「? あるけど」

「…………」

「?」

「あのさ。あなたの秘密をばらされたくなければ来いって言ったじゃん。私」

「言ったけど?」


 なんだからしくない。さっきまでの元気はどこへ行ったんだ。りんご飴落とさないか心配になる。そんなボクの気持ちなどおそらく気にしていないであろう西渡。とりあえず彼女の言葉に集中する。


「——文化祭が終わればさ、多分、もう話すことはないよね?」

「まあ、もともと友達でもないしね。ボクとしてはようやく解放させてもらえるって感じだけどね」

「……連絡先交換しない?」

「え」

「あ、えっと。その、あーもしもバラされたくなければ私と友達にならない、かな、って」

「…………」

「あ、いや、別に嫌ならいいんだよ。その、ちょっとした冗談っていうか」

「——確かに文化祭に来なければバラすって約束しただけだから、バラさないとは言ってない……」

「え」

「だから、その、連絡先交換すれば今度こそバラさないんでしょ?」

「う、うん」

「えっと、じゃあこれボクの連絡先……」

「あ、ありがとう」

「——阿木くん。また今日みたいに遊ぼうね?」

「——今度は恰好つけられると良いね」


 思い返してみれば想像以上に文化祭を楽しんでいた自分に気づいた。もしも自分一人だったら多分ここまで楽しいとは思わなかったと思う。西渡がいたからきっと楽しかったんだろう。ボクと似たような趣味の西渡がいたから楽しかった。

 これからももっと楽しいことがあるといいな、西渡の連絡先を見ながらボクはそう思うのだった。

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「明日の文化祭も絶対に女装して来てね。じゃないとみんなにバラすよ?」 真夜ルル @Kenyon_ch

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