第3話

 居酒屋の個室を抜け出して、化粧室の近くの廊下まで来た所で、私は国崎くんを壁側に押しやって、じりじりと詰め寄った。



「……さ、さっきの、どういうつもり?」


「どういうつもりも何も。この前から言ってるじゃん。俺が好きなのが萌香モカだって」


「……は!? えっ!?」



 カフェモカの事を言ってるんだと思ってたのに……あの時、私の名前を言ってたって事……!?



「く、国崎くんは、研究にしか興味ないんじゃないの……!?」


「研究……みたいなものじゃない? だって俺、萌香の事を研究したくなった。萌香の好きな物は全部知りたい」


「なっ……!?」



 不意打ちに腕を引っ張られ、ほろ酔いの私の身体は、いとも簡単に反転する。


 あっという間に壁側に背中を預ける形になり、私は国崎くんの腕に囚われていた。壁ドンだ。



「……だから、これからもっと教えて?」



 そのまま抱きしめられて、耳元で囁かれる。


 アルコールのせいではない熱が、じわじわと顔に広まっていく。悔しいけど、自分がもう既に、国崎くんに惹かれている事を自覚してしまった。



「……萌香が好きそうなコーヒーミルク、俺も同じのを頼んだのに。まだ飲めてないや」



 頭上から、そんな呟きが落ちて来る。



「あっ、ごめ……」



 私が突然連れ出したからだと、慌てて謝ろうと顔を上げた時。


 国崎くんの顔は思ったよりもすぐ近くあって。


 私が驚いて目を見開いたまま固まっていると、国崎くんはまだお酒を飲んでいないはずなのに、妖艶に微笑んだ。



「ねぇ、1口ちょーだい」



 私を見下ろしていた国崎くんの顔が、もっと近づいて、唇が重なった。



「……あま。俺はやっぱり萌香・・が好き」




 終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

モカが好き。 希結 @-kiyu-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ