第18話 強さ
ハジメと男の出会いから遡ること数分前、とある花の上での出来事……
「そろそろ見えてきてもいい頃だな」
男は水平線を眺めながらそう呟いた。
「おっ、見えた!」
男がそう口にした瞬間、
「港が見えました!」
見張り台から声が上がった。
見張り台のものは望遠鏡で確認している。
それに対して男は己の目で確認していた。
「話には聞いていたが、なんかすごいことになってるな」
男はその目で確認したトリーニの港の景色に衝撃を受けていた。
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二週間と少し前、勇者率いる先行部隊から連絡が入った。
その内容は、トリーニの港の壊滅であった。
だが悲観的な内容だけでなく、すでに瓦礫の撤去は完了して復興に移ろうとしていると伝えられた。
そのため、補給部隊は合流地点をトリーニの港に変更し、共に復興作業を行うことになった。
次に補給部隊に連絡が入ったのは3日前のことであった。
すでに船は出発しており、海上で連絡を受け取った。
予想されていた内容は、復興作業の進捗具合や、こちらの動きの確認であった。
だが、伝えられた内容は補給部隊の誰もが仰天するものであった。
なんと、トリーニの港は既に建物が建ち、人が住める状況が整えられているらしい。
合流地点は変わらないが、補給部隊の作業は大幅に変更されることになった。
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「おぉ、なんかすげぇ白いぞ!!」
「あんな景色見たことない!」
「綺麗だ……」
肉眼で港が見える距離まで近づき、多くの者が目の前の光景に圧倒されていた。
何人かはトリーニの港を見たことがあるものがいたが、その者たちほどその変化に驚いている。
そんななか、船の先端にいた男はある言葉を口にした。
「なんか嫌な予感がするな……」
男の直観が何かを感じ取っていた。
普通の人間ならそのような予感があっても、なにか行動に移すことはないだろう。
だがその男は普通という言葉から頭一つ抜け出した存在であった。
「ちょっと先に行ってるわ!」
「「えっ?」」
男の発言に賑やかだった甲板は一斉に静まり返った。
「無事に港につけよー!」
男はそう言いながら海へと飛び込んだ。
「「王子ーー!!」」
甲板に声が響いた時には既に男の姿は無かった。
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突然俺の目の前に現れた男。
いや、よく見ると本当に人間だろうか?
「アプルルカ?」
「流石にそれは酷すぎだろ!?俺、君を助けてあげたんだよ!命の恩人だよ!?」
反応からして人間であることは確認できた。
「すみません、助けてくださりありがとうございました」
俺は頭を下げようとした。
「ちょっと待った!今頭を下げたら、その傷口がもっと酷いことになるだろ!とりあえずこれを飲め」
男はどこからが取り出した瓶を投げ渡してきた。
「それにしても俺が助けに来て良かったな。少しでも遅れていたら、」
「すみません、俺は大丈夫です!この先にいる人を助けてください!」
「お、おぉ……分かった」
俺はファンデルがいる方向を指差した。
「言いたいことは色々あるが、先に人助けだな!」
目の前の男はそう口にしながら、膝を曲げた。
そして次の瞬間、とてつもない速度で跳躍した。
「とりあえずこれでファンデルは……」
瓶を開けようとした俺はそこで意識を失った。
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「あっ、目を覚ました!!」
俺は見覚えのある場所で目を覚ました。
「ファンデルは!?」
「チョーーップ!」
「痛っ」
俺は突然頭にチョップを喰らった。
「まずは自分の心配をしなさいよ!」
どうやら俺にチョップを喰らわせたのはクローリアさんのようだ。
「はぁー、目を覚まして最初の言葉が他人の心配とはお人好しなんだから。まずは自分の体の確認をしなさい」
俺はクローリアさんに言われたように体を確認する。
だがどこにも違和感は無かった。
抉られたはずの左肩も元通りになっていた。
「まったく、ハジメンは運が良かったよ。王子が来なければ、死んでいたかもしれないんだから」
「王子?」
「あー、王子っていうのは王様の息子のことで、」
「おっ、目覚めてんじゃねぇーか」
クローリアさんの話がよくわからない方向に脱線しそうになったタイミングで、モロクさんが部屋に入ってきた。
「それで王子は大の女好きで、」
「おい、何の話をしてんだ?」
「何の話だっけ?」
「はぁー、この調子じゃ何一つ説明は終わってないだろ。仕方ねぇ、俺が教えてやる」
---
クローリアさんに変わってモロクさんが現状を説明してくれた。
まず、ファンデルは無事らしい。
俺を助けた男がついた時には、ほとんど魔物を倒し終えていたらしい。
そして俺を助けてくれた男だが、なんと噂の第一王子らしい。
補給部隊が到着する前に一人で泳いできたらしい。
よくわからない行動だが、そのおかげで俺の命は助かったのだから感謝しなければいけない。
「そんで、あの王子が今おまえを呼んでる」
「俺をですか!?」
「他に誰がいるんだよ」
モロクさんは呆れたような声を出した。
「とりあえず回復してんだから早く行け」
「あっ、はい」
俺は急いで部屋を出て王子の元へ向かった。
---
「おっ、元気になったみたいだな」
王子は工場近くのキクラデス様式の建物を眺めていた。
改めて王子を見ると、確かにあの王様に似ている。
40歳だと聞いていたが、かなり若く見える。
30歳だと言われても一切疑わないだろう。
「本当にありがとうございました」
「まぁ、気にすんな。それより色々聞きたいことがあるから、少し歩こうぜ」
「あっ、はい」
想像よりフランクな人である。
モリースさんの言っていた、愉快な人という意味がわかった気がする。
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「……なるほど、白魔石にそんな効果があったのか」
第一王子からたくさんのことを質問された。
建物のことや、俺の能力のこと、そしてこれからの夢など、本当にたくさんのことを話した。
もっと異世界のことについて聞かれると思ったが、案外聞かれなかった。
「いやー、面白い話がたくさん聞けた」
どうやら俺の話は彼の満足のいくものだったようだ。
「お礼と言っては何だが、君からの質問にも答えよう」
「質問ですか……」
モリースさんに話を聞いた時から第一王子がどのような人物が気になっていた。
聞きたいことはたくさんある。
「……どうしたら強くなれますか?」
「それは難しい質問だな。まず君は強くないのかい?」
「はい、俺の能力は非戦闘員並らしいです」
俺の能力は勇者という称号には物足りないものである。
「それじゃあ一つ聞こう。君にとって強さとは何だい?」
「……人を守れる力です」
俺はあの時逃げることしかできなかった。
あの時ファンデルの隣で戦う力があれば、横に立てる強さがあれば……
「いい答えだ。俺も強さは人を守れる力だと思っている。君がその答えを持っているなら、既に君は強さを手に入れている」
「えっ?」
「君の鑑定スキルはまさに人を守る力だろ?今この世界に必要なのは、魔王を倒す圧倒的な力じゃない。誰かの日常を、平和な日々を守る力だ」
「俺の力が、強さ……そんな風に思ったことがありませんでした」
俺は鑑定スキルの使い方を知った。
この力がこの世界に役立つことも知った。
だが、この力が皆が持つものと同じ強さだとは気が付かなかった。
「そのことを理解しておけば……いや、もう一つ言っておかなければいけないことがあったな」
王子は何か思い出したように手を叩いた。
「君はもっと自分の価値を自覚するべきだ」
「価値……ですか?」
「そうだ。おれが君を助けた後、君は自分のことより他人を優先しただろ」
「確かにそうですね」
俺はあの時ファンデルを助けるようにお願いした。
「その気持ちと行動は悪いことではない。だが、その後君が倒れたのが問題だ。厳しいことを言うが、君は勇者だ。皆の期待に応えなければいけない存在だ。誰かと自分の命を秤にかけた時、自分を選ばなければいけない」
自分の命を優先する。
俺の知ってる英雄像は、自分より誰かを優先するそんな人物だ。
だが俺にそれをできる力はない。
「人の命の重さに優劣をつけるのは間違いかもしれない。だが、君の力なしではこの世界は変わらない。だから何があっても自分を最優先にしろ」
「はい」
「とまぁ、厳しい事を言ったが全てを君が背負う必要はない。さっきも言ったが、強さは人によって違う。君がその決断を迫られる状況にさせないために必要なのが、彼らの強さだ」
「彼ら?」
「頼りになる仲間がいるだろ、四人も」
そうだ。
王子の言う通り、人にはそれぞれの強さがある。
俺に戦う強さがないなら、他の人に頼ればいい。
そして、俺は戦う以外の強さを発揮すればいいのだ。
「俺は自分の強さと仲間の強さを信じます」
「そうだな、その気持ちでいればこの世界でも生きていけるさ」
王子の言葉で俺はまた前に進むことができる。
「そういえばちゃんと自己紹介してなかったな。俺はボストール王国、第一王子 グリス・ボストールだ」
「俺は勇者 田中一です」
俺の命の恩人で、強さを教えてくれた人物。
その人の手はとてもあたたかいものであった。
異世界建築〜鑑定スキルで生存圏を取り戻せ!〜 カネキモチ @kanekimochi
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