封じられた力



エリオの案内で、二人は廃墟の奥深くに進んでいった。周囲は静まり返り、風の音すら聞こえない。朽ちた建物の中には、かつての繁栄の名残がわずかに残っているが、それは埃と蔦に覆われ、過去の栄光を語るにはあまりに弱々しかった。


「ここだよ、カリス。」

エリオは廃墟の中央にある古びた扉の前で立ち止まった。


その扉は明らかに異質だった。周囲の崩れた建物とは違い、扉にはいまだに何かの力が宿っているように見える。表面には複雑な紋様が刻まれ、微かな光が走っているのが分かった。


「これは……?」

カリスは思わず眉をひそめた。


「『遺物』の保管庫だよ。」エリオが答えた。「ぷれいやーたちが去る前、この場所には彼らが残した力が封印されているって聞いたんだ。誰も触れちゃいけないって。」


カリスは不安を覚えた。

「そんなもの、なぜわざわざ見つける必要がある?危険すぎる。」


エリオは少し微笑んで言った。

「危険だからこそ、必要なんだよ。今の世界にとってね。」


カリスはそれ以上言葉を返すことができなかった。エリオが何を考えているのか、完全には理解できなかったが、その言葉には確かに説得力があった。そして、心のどこかで、彼自身も何かを変えたいと願っている自分に気づいた。


「扉を開けるつもりなのか?」

「うん、でも一人じゃ無理だから、手伝ってほしい。」エリオは軽く肩をすくめた。「一緒に世界を変えようよ、カリス。」


その言葉に押されるようにして、カリスは扉に手をかけた。冷たい金属の感触とともに、扉の紋様が淡い光を放ち始めた。



扉がゆっくりと開くと、中から冷気が流れ出し、二人の肌を刺した。

その先には、広大な地下空間が広がっていた。無数の柱が立ち並び、天井は闇に覆われて見えない。その中心には、巨大な石の台座があり、その上には不思議な光を放つ何かが置かれていた。


「これが……『遺物』なのか?」カリスは慎重に近づきながら呟いた。


「そうだと思う。でも、気を付けて。下手に触れると、何が起きるか分からないからね。」エリオもその後を追った。


二人が台座に近づくと、それは形を持たない光のように見えた。触れれば消えてしまいそうな儚さと同時に、どこか底知れぬ力を感じさせるものだった。


カリスは少し躊躇したが、台座の光が微かに彼に呼びかけるような感覚を覚えた。まるで、自分が選ばれているような――そんな錯覚。


「触れるべきじゃないかもしれない。」カリスは呟いた。だが、エリオはその言葉に構わず、台座に手を伸ばそうとした。


「待て、エリオ!」カリスが叫ぶ。


しかし、エリオの手が光に触れた瞬間、周囲が激しく震動し、眩い閃光が二人を包み込んだ。空間全体が崩れ落ちるかのような轟音とともに、地面が揺れ始める。



光が収まった時、エリオは無事だったが、その手には小さな金属の欠片が握られていた。それは、形こそ単純だが、明らかに特別な力を秘めているように感じられるものだった。


「これが……遺物?」カリスはその欠片を見つめながら問うた。


「うん。まだ全部じゃないけど、これが鍵になるんだ。」エリオは嬉しそうに微笑んだ。「これさえあれば、もっと多くの『遺物』にアクセスできるはずだよ。」


カリスは複雑な気持ちだった。確かにエリオは何かを見つけたが、その代償が何になるのか、まだ分からなかった。そして、彼は気づいていなかった――地下空間の奥深くから、何かが動き出したことを。


遠くから響く低い咆哮。それは、二人が今まで耳にしたことのない、不気味で威圧的な音だった。


「行こう、エリオ。」カリスは警戒心を隠さずに言った。「ここは安全じゃない。」


エリオもその音に気づき、頷いた。「分かった。でも、これを持っていけば、きっと……世界を変えられる。」


二人は急いでその場を離れた。だが、彼らが手にした遺物が、今後の世界に何をもたらすのか――それはまだ誰にも分からない。

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「ぷれいやー」がいなくなった世界を闊歩したい @ikkyu33

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