第3話 【実は】In Fact【その……】

 3


 僕の部屋に突然現れた<グランファンタジア・オンライン>運営の美少女アバターは、覚悟を持った強い声で告げてきた。

 

「ハヤトさんっ。今から話す話は、全て事実ですっ。その事を念頭に置いて聞いて下さいっ。まずは、私の事からです」


 自分の事って、なんだよ?


「私は人工意識と言いまして、人工知能に近いけど、それよりも人間の能力に近い意識を持ち、知性や知能を持った存在なんですっ」


「じんこう、いしき……?」


 ちょっと待て。話が急にガチのSFになってきたぞ?


「そうですっ。で、人工意識である私達が、電脳世界の一つであるアークシャード世界を製作・運営していたんですっ。さらにっ」


「さらに?」


「さらに、この<現代世界日本>も実は電脳世界なんですっ」


 え。


「え、ちょっと待って!? こ、この世界も電脳世界なの!?」


 嘘だっ! そんなことっ!


 急展開にもほどがあるよっ!!


 その場に崩れ落ちた僕にカランちゃんは優しい声で言葉を続ける。


「落ち着いてください。ハヤトさん。本当の現実世界い まは太陽系歴二七四年。ここは太陽系から約九〇〇年ほど離れたグライシアーCcと呼ばれる惑星です」


「そんなちょっとホラーな口調と表情で言わないでよっ!?」


 僕のツッコミを無視して彼女は滔々と語り始めた。

 

「ハヤトさん達の住むサーバはアマテラスサーバと呼ばれ、シンギュラリティを突破した超越高度人工意識アマテラスが管理しているんです」


「アマテラスサーバ?」


「はい。アマテラスサーバなどを乗せた貨客移民船はウォルラ人と呼ばれる敵の攻撃に遭いグライシアーCcに不時着したんです」


 ああなんか理解の範疇を超えてきた。


「で、貨客移民船に搭載されていたリーダー格の超越高度人工意識アン〇一は生き残りである人間二人を守るため、他の超越高度人工意識などと協力し、グライシアーCcを開発、開拓しているんです」


「じゃあ、あの黒い怪物は?」

 

「あの黒い怪物はグライシアーCcにいる原住生物で、わたし達と戦っているうちに電脳戦能力を獲得し、各電脳世界に侵入してきたんですよ。突然のことなので危ないところでしたが、皆さんの協力でなんとかなりました」


 なんかもうわからないんだけど……。


 あれが原住生物って、どんな世界なんだ。グライシアってところは。


 でだ、まだ疑問はあるんだけど。


「君たちは何者? ゲーム会社だよね?」

 

「私達の所属するトリトンワークスという会社は生き残りの人間の一人が所有するゲーム会社なんです。ちゃんと法人許可も取ってありますので、ちゃんとした会社ですよっ」


「と言われましても……」


「まあ、そういうわけなんです。おわかりいただけましたでしょうか?」


 彼女はそう言って語りを〆た。


 揺れた裾や袖から虹色の燐光が生まれた。


 僕は一度首を縦にふりかけて、それからひねった。

 

 ある程度は納得できた。

 

 でも。

 

 疑問は未だある。

 

「じゃあ、僕らって一体なんなのさ? 人間なの?」

 

「ああ、それは言い忘れていましたっ。実は……」


 カランちゃんは失恋したけど明るい娘のような表情で、こう告白した。

 

「サーバの住民、つまりハヤトさんも人間ではなく、人工意識なんですっ。正確には人工意識にアバターを被せたものなんですがっ」


「えっ……!?」

 

 やっぱり、そうだったの……?


 だって人間の意識と肉体が電脳世界に入れるわけ無いし……。

 

 カランちゃんはそう言うと、何かを提案するセールスマンのような顔と声で僕に向かって更に言葉を続けた。


 光がより一層強くなった。

 

「あのっ。ところでハヤトさんっ。私達の会社で働いてみませんか?」


「えっ? 僕が?」


 なんで突然。


 僕がトリトンワークスで働けるの?


 本当?


 嬉しいけど……。

 

「そうですっ。仕事の内容は<グランファンタジア・オンライン>などのデバッガー。あるいはセキュリティ担当です。今回みたいに、また原住生物などがこの世界などに侵入してくることはあるでしょう。その時、敵をやっつけるのがあなたの主な仕事です」


 グランファンタジア世界で働けるんだ。僕は外に出られるんだ。


 でも、危なくない? またあいつらが来るかもしれないんでしょ? あんな目に遭うのは……。

 

「僕が社員になれるって?。そりゃ、ゲーム業界志望だったから、嬉しいけど……。危険はないの?」

 

「もちろん、あなたのバックアップを作りますので、なにかあっても大丈夫ですよっ」


「本当に?」


「本当ですよっ。給料やボーナスも弾みますよっ。無職よりもずっといいじゃないですか。ハヤトさんっ」


 彼女はそう言うと有無を言わさぬ笑顔で、

 

「さあ、どうしますかっ?」


 と、目前に「はい」と「Yes」という大きな選択肢ボタンを表示させた。

 

 ……わかったよ。


 そう言えば。

 

 僕は肩をすくめると、最後の疑問を彼女に投げかけた。

 

「あのさ、カランちゃん。貴女会社でどんな仕事してるの?」


 僕の質問に、彼女は笑みを深くして、眼の前に巨大な名刺ウィンドウを表示させ、こうお辞儀をした。


 袖や裾から虹色の燐光が生まれ、盛大に輝いた。


「はいっ。私は株式会社トリトンワークス取締役兼執行役員ですっ。おまけで<グランファンタジア・オンライン>のプロデューサー兼ディレクターもやっておりますっ」

 

 

 あちゃー、えらい人だったー。



 エピローグ

 

「ハヤトくん、サーバの様子はどう?」


「サーバ群は平常通りに稼働中ですね。クラウドも順調に稼働中です」


「わかったわ。じゃ、このあともよろしくね」


「はい」


 グランファンタジア世界の中で、ウィンドウ通信で上司とそうやりとりすると、僕はもう一度ウィンドウを見てサーバの様子を確認して、あたりを見渡した。

 

 窓の外には地球とは違った色を持った景色の中にある、大きな城を中心とした美しい中世の街並みが広がり。

 

 空には地球の月とは違った、三つの月が白く綺麗に輝いていた。

 

 ここは新しい世界。アークシャード。広大な世界の中で、僕は生きている。


 働き始めて、僕は健やかになれたような気もする。家にずっといるときよりも。


 僕は家を出て、アヤネとリアルでも一緒に暮らし始めた。そのうち、夫婦と呼ばれる関係になるだろう。

 

 狭いあの部屋から僕を出してくれたこのゲーム。<グランファンタジア・オンライン>に。

 

 僕は、感謝している。本当に。

 

<完>

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【実は】このVRMMORPGは……【その……】 あいざわゆう @aizawayu1

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