第22話 恋人関係が終わる時?(3)

──同日、部活の時間


いつもの多目的室へ着くと、太陽君が机にテーブルクロスを敷いている。


いつも六つの机をくっつけて大きなテーブルを作る。その努力が少し報われる日だ。


「太陽!今日来るよ、新しい部員候補」

「本当かい?どんな人かな」

「二年生の秋見愛可あきみあいか先輩って知ってる?」

「…噂には知ってるよ」


ちょっと含みがある?

というよりは、少し嫌そう?


「どういう噂?思ったよりヤバイ人だったりするの?」

「部活を辞めさせられた問題児とか、彼氏を取っ替え引っ替えしてるとか、あまり良い噂は聞かないね」

「ふーん。そういう情報ってどうやって集めてるの?」

「クラスメイトとか、一緒に紅茶を飲んだ人かな」


クラスメイトから情報が集まってくるのか。

ということは、私は誰のクラスメイトにもなれていないのかもしれない……。


まあ、心が読めればクラスメイトなんか必要ないね。


「とにかく人は人だから、部活に誘うからね」

「結姫に任せるよ」

「言っとくけど、凄い良さそうな人だったよ」

「良いというのは性格のことかな?」

「性格ではない何かが私に刺さった」

「うーん?何にせよ、会ってみれば分かることだね」

「そうそう。話せば分かるよ」






──二十分後


「ごめーん、ちょっと遅くなっちゃったー」

「全然大丈夫です。さあ、こちらへどうぞ」


少し遅れて来た秋見先輩を案内して、六人テーブルのまだ誰のでもない席に座ってもらう。


「いやあ、何でこんな辺鄙へんぴな教室なんだよー。カフェみたいな立て看が無かったら気づかなかったよ?」

「辺鄙な方が良くないですか?雰囲気とか」

「それはある!このテーブルだけは学校じゃないみたいー」

「太陽、準備お願いしてもいい?」

「もちろんさ」


太陽君はいつものように紅茶を淹れ始める。


「太陽君ってさ、紅茶淹れてる姿が様になってるというか、カッコいいよねー」

「……褒めても紅茶しか出ませんよ」

「楽しみだなあー」


この人、狙わずに気があるようなことを平然と言う。しかも、もう太陽君の名前を覚えていて、下の名前で読んでいる。いけ好かない。


「そうだ、約束の話聞かせてもらえる?」

「あー……、太陽とのあれ(惚気のろけ話)ですか?」

「そう、あれだよ、あれ」


悪代官のような悪い顔で見つめてくる。いちいち可愛いし。

約束は約束なので、どうしよう。


ハグした話は流石に無理だから、ここはラブレター二通事件でごまかそう。



「――という訳で、私と太陽は付き合うことになったんです」

「面白!二日連続はあるけど、同時二通は経験無いねー。私の結姫ちゃんを見る目が変わったよ。なかなかやるじゃん笑」


返答の正解が分からないので、いっそのこと無視して会話を進める。


「次は秋見先輩の順番です。彼氏とかいるんですか?」

「居ると言えば居るよー」

「その話、詳しく聞いてもいいですか?」

「いいよ。今日はそれを相談しに来たんだよ。そういう会なんでしょ?」

「そうです」


そのタイミングで太陽君が紅茶を運んで来る。


「相談事は、紅茶を飲んでから落ち着いてするものさ」

「太陽君ありがとう!」

「太陽ありがとう」


太陽君は私に耳打ちする。


「惚気話って何だったの?別にするのは構わないけどさ」

「その話と紅茶をエサに、秋見先輩を釣ってきた」

「どうやって知り合ったの?」

「第二図書館でノリでウェーイって感じ」

「!??」


私だってよく分からないよ。

今は先輩と話をするから、構っている時間はないんだ。ごめんね。


秋見先輩を見ると、おしとやかに紅茶を飲んでいる。

急に先輩の風格が出てきたかも。


「んー!心にみるー。おいしいし、落ち着くよ」


それを聞いた太陽君は満足そうに頷く。


って、あれ、、、?

先輩の手のひらに絆創膏が貼ってある。


ティーカップを持って隠しているけれど、一枚だけでは無い。


「先輩、その手どうしたんですか?怪我ですか?」

「これはさっき、彼氏に突き飛ばされて手を地面についちゃって擦りむいただけ。大したことないよー」


そう言って、手のひらを見せてくれる。

彼女の笑顔とは裏腹に、手のひらに貼られた二枚の大きな絆創膏は、赤く滲んでいた。


「早速だけど、私の悩み聞いてくれるかな?」


私は何も言葉を発さずに首肯しゅこうした。


~~~~~~~~~~~~~~~~


◯作者コメント


ゆるい感じで人生楽しそうな秋見先輩ですが、

色々と闇がありそうです、、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る