第18話 もっと心を覗きたい(2)
──週明けて月曜日、いつもの学校、授業中
今日はこの辺までにしようかな。
授業中は暇で、教科書の先取りをするのも飽きて来た。ふと窓の外を眺めると、雲がいつもの方角へ流れていく。
やる気が無い時は、ぼーっと空を見つめるに限る。
……
あの雲、お寿司のシャリみたい。
お寿司食べたいな。回らないお寿司。
雲のシャリはゆっくり流れてるから回転寿司だな。そうに違いない。
魚へんの漢字がいっぱい書いてある分厚い湯呑みで、熱々の緑茶が飲みたい。前に動画で観た、細かく包丁が入った仕事のしてあるお寿司が食べてみたいなあ。
赤酢のシャリってどんな味なんだろう。
太陽君に言ったら奢ってくれる?
量は要らないから、質が良くて、食べたことがなくて、美味しいものを摂取したい。
――友達だって同じで、量より質が大事だ。
私は三花ちゃんという良質の親友一本でこれまでやってきた。
普通の女子は、何をするにもつるんで、一緒に大勢でお昼を食べて、トイレにも一緒に行って。そんな群れを形成して、一人当たりの関係性が希薄にならないのだろうか。
そして、群れているあの子達は本当に親友なのか?
偏見かもしれないけれど、人の群れというのは核となる数人以外は顔見知りでしかない。
群れに金魚の糞みたいにくっついているような人がそう。
仮に私なんかが群れに入ったとしても、せいぜい金魚の糞にしかなれないことは目にみえている。
そもそも私は、人と話が合わない。
話す話題も無い。
無駄話も嫌い。
だから、既存の群れに入るのは無理。
自分が核となる群れを作らなければ群れることが出来ない、哀れな人種なのだ。
――私って、めんどくさいな
そう、めんどくさいのだ。とても面倒。
これまでは群れる目的が無かったから群れてこなかったけれど、今は違う。
私は、できるだけ多くの人の心を覗いて、観測分体を使うトレーニングがしたい。もっと深いところまで感情を知りたい。
そのための実験場として、群れというのは非常に都合が良さそうに思える。
太陽君は上手く部活を作ってくれるだろうか。
私が群れるための部活を。
最終的には、三花ちゃんと太陽君以外の全人類の心を底の底まで覗いてやろうと、そう思っている。半分は冗談だけどね。
って、この先生の授業、本当につまらないな。
何故勉強をする必要があるか分からないままに、授業しているような感じ。そういうのって生徒に伝わるってこと知らないのかな。
心を読むまでもなく分かる。
授業がつまらないのは私だけでは無いはず。隣の席の子は授業中に何を考えているんだろうか。ちょっと覗いてみよう。
『今考えていることを教えて』
『……から、つま……y……』
うーん。
ちょっと距離が離れすぎているのかな。
全然はっきりしていないけど、何かは観える。
太陽君の心は比較的はっきり観えるのだけど、他の人はイマイチなんだよね。まだまだ練習が足りていない。
とりあえずの訓練として、常に誰かの心を覗き続けてみよう。
ほら、バトル漫画の序盤とかでよくあるじゃん。能力を常に発動したままの状態で保つ基本の特訓。あれがやりたい。
という訳で、私は耐久覗き修行を始めるのであった。
昼越えて、昼寝越えて、午後の授業も越えて、部活の時間。
心を読みっぱなしで半日は流石に頭が痛い。
要は『心を覗きたい!』と念じ続ければ良いだけなのだけど、『お……、せい……ん』のような謎の言葉を読み取り続けていると、流石に精神がおかしくなりそうだ。
半日の努力の結果として、心を読む相手との距離が重要で、遠すぎると見えないらしい。ということが分かった。
そして、理由までは分からないけれど、太陽君の心だけは特別に読み取りやすいと考えられる。
まるで、太陽君の心を読む専用の観測分体みたいだ。ポンコツかな。
とっくにクラスメイトは部活へ行ってしまって、いつものように教室で一人宿題を進めている。
今日は太陽君は一緒ではない。
彼は私の部活を作る仕事があるから。
それにしても、やっぱり宿題は一人でこなすのが一番早い。
──誰かと一緒になんて、非効率の極みだ。
最近は私らしく無い非効率なことばかりをしているけれど、恋の一側面として、そういうものだと思うことにした。
また他事を考えてた、いけない。
集中集中……
…
宿題を終えて一人で帰ろうかという時、教室に太陽君が入ってきた。
「結姫、まだ帰ってなくて良かった。これ見てよ」
手に持っている、創部届なる用紙を私に差し出す。
「ありがとう。これに書くだけでいいの?」
「仮登録はそうらしい。ちゃんとした部活にする場合は、顧問の先生と部員が四人以上必要だってさ」
「なるほどね。ささっと書くよ」
宿題の流れで持っているペンでさらっと書き上げる。部活名は、茶話部っと。
ちゃんと綺麗な字で書けた。
「そうだ太陽。部活で占いをしようかと思ってるのだけど、今度手伝って」
「分かった。何をすれば良い?」
「将来の悩みでも何でも占いたいことを考えてきてよ。私が観測分体の力で心を覗いて、あとは雰囲気でそれっぽくするからさ」
「??……とりあえずやってみようか」
「部活は来週の水曜日からね。まずは練習として、二人でお試し会をしよう」
■
──校舎四階、多目的室
放課後に人が寄り付くことが無くて、かつ、静かで紅茶を飲んだら美味しそうな教室を探していたら、この多目的室に辿り着いた。
私と太陽君で机六つを向かい合わせに移動させて、その上に白いテーブルクロスを敷く。
太陽君によってシワが無いようにピンと張られたクロスの上には、ティーセットとお湯の入ったポット、茶葉の入った箱を設置する。
全て太陽君の私物である。
一応私も、チョコのクッキーを買ってきた。
自分で焼けば女子力点数を稼げたのだろうけど、ちょっと面倒だった。買った方が早いし、安いし、普通に美味しいから。
この時点でかなりお茶会っぽい。
私はこの雰囲気にすごく満足している。さすが太陽君だね。
今日はちゃんと晴れて良かった。
夕日に照らされながら、気持ちよく紅茶が飲める。
──よし、会場設営は完了
学校の四階は紅茶を飲むのに思ったより適しているかもしれない。見晴らしが良いし、窓を通る風が心地よい。
太陽君が紅茶を淹れてくれるのをじーっと見る。
もう何回も見たことがあるけど、私は任せて貰えそうもない。
何をこだわっているのかは分からないけど、何かこだわっていそうな淹れ方をしている。
個人的にはお湯を注いだら直ぐに飲んでしまえば良いと思うのだけど、蒸らしているのか、謎の待ち時間を大切にしているようだ。
私は三分のカップ麺なら、お湯を注いで丁度二分で食べ始める派なので、正直言って待ち時間がしゃらくさい。けれど、何もしていない人間が口を出す権利は無いから、静かに待つことにしている。
「さあ、出来たよ」
二人分の紅茶が出来上がると、隣同士の椅子に座る。
カップを口につけると、香る熱い液体が体の中を流れていく。
太陽君の淹れてくれる紅茶は特別美味しい。
六つの机をくっ付けたテーブルには、私と太陽君の二人だけ。他には当然誰も居なくて、教室の広さを感じる。
「
ゴフッ!と太陽が熱々の紅茶でむせる。
「な、何言ってるのさ!」
「そうだ。茶話部活動中って看板でも立てよう?カモフラージュになるから」
「それはいいかもね」
思案げに太陽君は紅茶を啜る。
「それで、何か考えてきた?」
「占いのネタは考えてきたよ。でも今までの会話の流れで、内容変えようかな。ちょっと気になることがあるんだ」
「なになに?」
椅子を太陽君の方へ向けて聞く体勢を整えると、彼は一つ深呼吸をして真剣な顔になる。
「僕は結姫という好きな人が居るんだ。けれど、どのくらい僕のことを好きか分からない。だから、結姫が僕のことをどのくらい好きなのか、占ってくれないかな?」
──今、何て言った……?
確かに彼は「私の事が好き」と、そう言った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◯作者コメント
Q:
ねえ、まだ始まってから五万字いってないんですよ?
展開早くないですか??
A:
大丈夫。予定通りです。(ホントカナー)
大月君は結姫ちゃんから距離感を詰めてきていることを察して、ギアを一段上げて来ました。
何のギアかって?
恋のギアを一速から三速ですよ!(ちょっと無理してる)
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