第19話 もっと心を覗きたい(3)

「僕は結姫という好きな人が居るんだ。けれど、どのくらい僕のことを好きか分からない。だから、結姫が僕のことをどのくらい好きなのか、占ってくれないかな?」


──!?


私、今、好きって言われたよね。だよね?


「もう一回言おうか?」

「い、言わなくていいから!」


「僕は冷静です」みたいな雰囲気を出しているけれど、太陽君の顔が真っ赤なの。隠せていないよ?


噴火しそうなくらいに、体が熱っつい。


私も太陽君みたいに真っ赤な顔になっているのかな。

こんなことになるのなら、顔が赤く見えないようなメイクを三花ちゃんに聞いておくんだった。


「結姫、ごめんね。部活に人が増えたら、こういうの出来なくなると思って。しっかりと気持ちを伝えたことって無かった気がしてさ」

「そうかもしれないけれど…」

「占ってくれるよね」


その、したり顔はムカつく。

思ったよりエスっ気があるのかもしれない。調子に乗らせないように気をつけないと。


「も、もちろん占いますとも」


ああもう。何でこうなった。

でも言い出したのは私だ、やるしかない。


「まずは、太陽が私のことをどう思っているか、見てみます」


太陽君が私のことを知りたいように、私も太陽君にどう思われているのか気になる。

口先じゃなくて、太陽君の本心を覗かせて貰うよ。


真っ直ぐ見つめてくる太陽君に向けて、恐る恐る念じる。



『私をどれだけ好きなのか教えて』


『世界で一番、結姫が好きだよ』



──んッ!


私の体は、それはもう一瞬で石になってしまったように硬直して。鳥肌が一気に立つ。


この力で見えるものは、すべて嘘じゃない。

言葉で言われるよりも真実で、口先で装飾できない分、重みがある。


だからこそ。

単なる言葉が、私の全身にひしひしと影響を与えていた。


同時に、ラブレターを貰った時の胸の痛みを思い出した。

あの時の苦しさが、心理的圧迫が、再び私を襲ってくる。


――けれど、今の私には分かる。


この感情は……恐怖では無い、ということが。


例えば、恋愛をしようとして一歩が踏み出せない。心理的障壁が私にドッとぶつかって来たような。


ラブレターを貰った時の私は、その障壁に弾かれてしまって。三花ちゃんが待ち合わせ場所まで連れて行ってくれなければ、恋とは向かい合えなかった。


でも。

すこし恋を知った今の私なら。

真正面から受け止められるかもしれない。


太陽君の気持ちは大きくて、真っ直ぐで。


本当は、今すぐに立ち上がって、どこかに風のように走り去ってしまいたい。

でもそれは、ダメ。


──だって、私も太陽君のことが好きだから。


伝えたい。


お互いが同じ気持ちなのに、片方だけその気持ちを伝えないなんて不公平だ。太陽君の心の言葉を受け止めて、好きって気持ちを受け止めて、それで私も同じだよって言いたい。


──私も太陽君みたいに、好きって伝えたい!!


頑張れ私。やればできるから。


そのためにまずは、太陽君を覗いて見えたことから伝えないといけない。


「太陽の気持ち、見えました。世界で一番、私のことが、好きだって」

「正解だよ。結姫の占いは当たるね笑」

「と、当然だから」


ふうぅー。ここからが本題。


落ち着いて、落ち着いて。

三、二、一。


「それでね。元々、太陽が聞きたかった、私が、太陽のことをどう思っているかについてだけど。その結果は…。えっと……」



「私も同じかもしれない。つまり、私も、太陽君のこと、好きです」



――言えたっ!


恥ずかしすぎて、太陽君のことを直視出来ない。


けれど、この一言で、私は恋の障壁の向こう側に行けたと思った。


──恋をする能力が、私にあったんだ!!


そう思った途端。脳から何かが全身をズゾゾと駆けぬけて、視界が鮮やかに見える。


その高揚感はピークを去っても、何割かは私の中に留まっていて消えそうもない。

ふわふわ浮いているような感覚。


幸福感なのかな?

まるで現実じゃないみたい……。



「結姫の気持ちを伝えてくれてありがとう、嬉しいよ。もう一つ占って欲しいことがあって、次はもっと僕の深層心理を占ってくれますか?」


──え?


数日前は「自分が読まれたくないと思うことは心を読まないで」と言っていたよね。


「いいの?」

「うん、結姫の気持ちも分かったから。観測分体も鍛えないといけないし。もう全部見てもいいから」

「分かった、ありがとう」


──って、ん?


でも、待って。

これ以上深く読むってことは、つまり。


観測対象者との距離が近いほど、深く心が読めるという私の仮説が正しければ。もっと太陽君に近づかないといけないってことじゃん。


現時点で五十センチ位しか離れてないよ??


ま、まあいいか。

とりあえずは手を繋いでみよう。


「手を出して」

「もちろんさ」


太陽君の手を両手で包むように握る。

まるで告白された時の逆みたいだ。


『私をどれだけ好きなのか教えて』

『世界で一番、結姫が好きだよ。君が初恋なんだ』


読める内容が増えた。

やっぱり、近づくほど私の観測分体の力は強まるんだ。


しかも、初恋はホテルの宴会場に居たここのつさんでは無いらしい。


――ごめんね。太陽君は私が貰うから。


九さんから太陽君をもっと遠ざけたい。

もっと、私の近くに居て欲しい。


「太陽、ごめん。せっかくだからもっと試してもいい?」

「構わないよ。って、何をしようとしてるかだけ教えて」



「静かに。じっとしてて」



私は立ち上がって、太陽君が座る椅子の背後に周り込む。



そして、

後ろから手を回して、

ぎゅっーとハグをした。



ちゃんと出来てるかな?

私が先週見た恋愛ドラマでは、こうやってやっていたはず。


「わ……」

「静かにして」



太陽君にくっつけた胸越しでも、彼の心臓のドキドキが伝わって来る。

ハグをされるのは三花ちゃんで慣れていたけれど、男の子にハグをするのは初めてだ。


思ったより肩ががっちりしてて固い。


三花ちゃんとした時はあんなに落ち着くのに、太陽君とするとこんなにドキドキするのは何故だろう。


そもそもどうして今、私はハグをしているのか。全然良く分からない。


──でも理由なんて、もうどうでもいい。


もう一度心を覗いてみる。


『私をどれだけ好きなのか教えて』

『うわぁあーーーー!!落ち着け。落ち着け。落ち着け。僕は冷静な男。呼吸の音を感じる。近い!うわあああ――』


「ぷふっ。なにそれ笑」


大人しく静かにしていると思ったら、実はまるっきり思考停止してるんじゃん。

私も恥ずかし過ぎて、どうにかなりそうだよ。


「太陽。深呼吸して落ち着いて。はい、紅茶、飲む」


言われるがままに、太陽君は紅茶に手を伸ばす。

手が震えていて、カップとお皿が凄いカチャカチャ言ってる笑


「はい、飲みました」

「よく出来ました」


これで落ち着いたでしょ。

太陽君は世話がかかるね。


改めて、もう一度心を読んでみる。


『私をどれだけ好きなのか教えて』

『世界で一番好き。人生で一番。ずっと一緒に居たい。僕が守ってあげたい。一緒にいる時が一番幸せ』


一番幸せ……か。嬉しい。


「ありがとう。今、私も、そう」

「何のお礼……ですか?」

「ねえ、いつまでハグしてて欲しい?」

「えっと。僕が死ぬまで、とかダメかな?」


――!!


恥ずかしさが私の許容範囲を吹きこぼれて、一気に頂点に達した。


「終わり!」


電光石火でハグをやめて、元の椅子に戻る。私と太陽は、お互いに目を合わせることが出来ずに、そっぽを向き合う。


「私が心を読もうとした時、頭の中で何を考えていたの?」

「ただ、好き、とだけ」

「ふぅん。最初はそれだけしか読めなかったけれど、手を握った時はもっと読めた。ハグした時は、更にもっと読めたよ。内容、知りたい?」

「…知りたい」

「ダメ。ひみつー」

「なっ!!」


久しぶりにお互いの目線が合った。

顔を上げた太陽君はまだ真っ赤だ。


「あ……、紅茶が冷めちゃうね」

「アイスティーが飲みたい気分だよ、体が熱くて」

「もうすぐ冬なのに変なの笑」


私は強がって、まだ温かい紅茶を一気に飲み干した。


太陽君の温かさで、私の心はいっぱいだ。


~~~~~~~~~~~~~~


◯作者コメント


結姫ちゃんの恋する感情表現、難しすぎ!!!

(数話分の労力がこの一話に、、、)


特に魂込めた1話だったのですが、結姫ちゃんの気持ち、伝わりましたでしょうか?

良かったなと思ったら、感想や星など頂けますと大変嬉しいです。


そして、一部二章はここまでです。

次からは一部三章が始まりまして、群れを嫌う結姫ちゃんが、部員集めをします。

(その前に1話、人物まとめが入ります。)



Q:

クリスマスイブに、一人寂しく、この話を書いていた私の感情を述べよ


A:

そうだ。出家しよう。

(遠い目をしつつ、心のバリカンで頭を丸める(;_;))



皆様、良いお年を。

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