第15話 【閑話】滅茶苦茶な任務
約半年前。
大月君が、結姫ちゃん達が通う高校に転校して来る直前の話です。
【大月君視点です】
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――UOON E01支部 事務棟 第五執務室
僕は職員さんから次の任務についての説明を聞きに来ている。
話を聞けば聞くほど、胃が痛む。
「──という訳で。次の任務は女の子二人をUOON に連れてくることです。お願いしますね」
「…分かりました。では、これで失礼します」
廊下に出て、ドアをそっと閉じる。
はあ……。
次のはとんでもなく大変そう。憂鬱だ。
今までの任務は、来るもの拒まずでやってきた。
その流れで考えなしに承諾してしまったけれど、今回ばかりは断れば良かったと早速後悔し始めている。
僕には両親が居ない。
両親はUOONの職員さんだったので、その伝手でこの組織で教授をしているおじさんに引き取られた。
だから、UOONは僕の生きる世界全てと言っても過言ではない。
衣食住に関わるお金は全部UOONが出してくれているし、言えばお小遣いまでくれる。出し渋る感じも全く無い。
恩を売られに売られているから、それに報いるために出来るだけ役に立ちたいと思っている。
あまり気が進まない任務もいくつかこなして来たけれど、それでも今回はトップクラスに変で嫌な任務だ。
周りは大人ばかりで、僕のよりもずっと難しい仕事をこなしている。それと比べれば、僕の任務はかなり簡単な部類なのだろう。
けれど、僕は自分がそこまで優秀な人間では無いことを分かっている。
知らない学校に転校して?
知らない女の子にラブレターを出して?
告白をする??
そんな任務、無理に決まってる。
そもそも、そんなのが任務と言えるのだろうか?滅茶苦茶だ。
彼女だって居たことがないのに、告白なんて出来るわけが無い。
しかも任務の期間が一年って長すぎる。どうかしてるよ。
本当に何なんだ。この任務は。
心がざわついた時は、紅茶を飲もう。
今日は、とっておきの茶葉を出さないとやってられない。
…
一服している間に決めた。今回の任務は見送ると。
冷静に考えたって、どう考えても無理だ。
別に強制ではないし、少し残念がられるだけだと思う。
問題はどう断るか。
やはり、直接話をしないと失礼にあたるだろう。
次の任務に比べたら、断りを入れるくらい朝飯前。
……いや、昼飯後くらいだ。
何をするにも嫌な気持ちになりながらも、早速明日、相談する時間を貰うことができた。
予定の時刻丁度、昨日と同じ執務室にやって来た。
ドアをノックして恐る恐る入室する。
「やあやあ大月君。久しぶり。相談があると聞いたのだけど?」
小学生のような女の子の声。誰が居たかなんて一瞬で分かる。
高そうな黒革の椅子に座っているのはいつもの職員さんじゃない。
支部長のエヴァ・スコアさんだ。
彼女は僕よりも年上だとは思うのだけど、小学校中学年程の背丈しか無くて。今も椅子に座っているというよりは、上に乗っているようにしか見えない。
彼女は初めて会った時から全く同じ見た目を保っているから、何かしらの観測分体の力が働いているのだろう。
常に忙しい
とにかく。
彼女が登場した時点で、僕の直感センサーは既に断れなさそうな予感を検知している。
でも言うぞ。僕は言う時は言うんだ。
「お久しぶりです、エヴァ支部長。単刀直入に言います。次の任務、断らせてください。お願いします」
彼女は腰まである髪を人差し指でクルクルと
「えー?もったいなーい。太陽君にはピッタリの任務だと思ったのだけど…。この支部も最近少しずつ学生さんが増えてきていると言ってもね、人手不足なの。言いたいこと、分かるかな?」
「分かっているつもりです。ですが、無理なものを無理というのも大事なことかと」
「これは私直々の任務だったの。私が今までに出来ない任務をお願いしたこと、あったっけ?」
「…いえ、ありません」
少し気の抜けた口調だけれど、その言葉には何があっても揺るがない芯が通っている。口で支部長に勝てる訳がないことは分かっているけれど、それでもここまできて退くつもりはない。
「私が下した任務をこなすと、皆が幸せになれるの。君の両親みたいなことは、私の目の黒い内は無いんだよ。それとも何、私が信用出来ない?」
「そうではなく、自分が信用出来ないのです。私では、支部長の期待に応えることが出来ないと…」
「なるほど!大月君は任務を断りたいんじゃ無いのね。要するに、やる気を与えて欲しいと!」
──違います!エヴァ支部長!!!
ただ単に断りたいだけで、やる気は今は必要ありません……
「ではそんな大月君に特別。良いことを教えてあげよう。」
「違っ……」
「大月君の好みの女の子は、頭が良くて、予想出来ない行動をして楽しませてくれて、ついでにちょっとエッチな子だよね。任務を受けてくれたら。そういう女の子といい感じになれるよ!もしかしたら、お付き合い出来ちゃうかも!」
ちょっと待って。
断り損ねてしまったし、情報量が多すぎる。
まず、
僕に関する情報を、部下の観測分体を使って集めているのだろう。
最悪だ。
「あ!ごめんね。下心で女の子とお付き合いしたい訳じゃないのは分かってるよ。でも男の子って、そういうもんじゃん。私知ってるんだー」
無垢な笑顔で、何を言っているんだ。
この人、本当は一体何歳なんだろう。
「でも彼女欲しいんでしょ。知ってるよ。私的には
何を言えば良いか分からない時は、黙るのが一番。沈黙は金だ。
「それで、大月君。やる気は出ましたか?」
「いや……」
「そこまでやる気が出ないのは何でかな?やりたくない理由を五秒で述べてね。五、四、三──」
僕は何でやりたくなかったのだっけ。
咄嗟に言葉が思い付かないけれど無言はマズい。
少しでも抵抗しようとした結果、思いもしない言葉を口にしてしまった。
「──二、いーーち」
「っ、アドバイス!アドバイスを下さい!」
──終わった……
これでは任務を受諾したも同然じゃないか。
断れない自分に失望していると、エヴァ支部長はニコニコ笑顔で意味不明なことを言い出す。
「アドバイスは私の得意分野だから、勿論いいよ。えーっと…。その女の子に対して誰かにラブレターを出させようか、それで同じ日に自分もラブレターを出しちゃおう。手っ取り早くて確率も二倍になるから、二人同時にラブレターを送ればいいし。あ、そうだ!ラブレターに千円を入れて恩を売ろう。あははは!!これは面白くなってきた」
「適当に言ってますか?」
「まさか。私を信じれば皆がハッピーになれるって言ったよね――」
「──大丈夫。私と私の観測分体を信じなさい」
――!!
「はい。承知しました……」
ここまで断言されてしまっては、もうどうしようも無い。
こうして、”任務お断り作戦”は大失敗に終わった。
…
「ではこれで失礼します」
「ちょっと待ってね。最後にもう一つあった。君の目の前で靴を脱がさ無いと、彼女が目を開いてくれないかも」
ああもう。本当に意味が分からないっ!!
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◯作者コメント
当初書くつもりが無かった閑話を差し込みました。
任務に振り回される大月君の話です。次回も続きます。
支部長は二部から登場させようと思ったのですが、何故かフライング登場しました。
書きながらキャラが動くというやつですね。(落ち着け)
人を振り回すのが好きな支部長は、言わずもがなの強キャラです。
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