第14話 ケンカ上等(5)

場面は、前話の続きです。

大月君のお義父さん、結姫ちゃん、三花ちゃんの会話から始まります。


前半だけ世界観説明を含みます。ご了承下さい。

後半からいつもの感じです。

~~~~~~~~~~~~~~


太陽君のお義父さんからの質問攻めを乗り越えて、ようやく一息つくことが出来た。


私達は太陽君の隠し事を聞くためにわざわざ遠くまで来ているのであって、お義父さんと雑談するためでは無い。


何から質問しようか考えていると、彼は自ら太陽君の過去について語り始めた。


「昔あいつは両親を亡くしたんだ。太陽の親もUOON《ウォオン》で働いていたからな、成り行きで俺が保護者になったんだよ」

「亡くなった理由を聞いても?」

「仕事に真面目過ぎてな。殉職さ」


彼は右手のワインをグイっと飲み干す。


「仕事ですか…」

「ああ。UOON《ウォオン》っつーのは、国際観測分体連合の略称でな。観測分体の研究や関係者の教育を行う組織だ。その研究成果を生かして、世界の持続的発展を実現するために日々仕事をしている。太陽の両親が巻き込まれた事故は組織全体に衝撃を与えた。それ以降は同じ事が起きないように、エヴァ支局長が体制を整えたという訳だ」

「いきなり言われても、よく分からないですね」

「だろうな。とにかく、エヴァさんの観測分体は凄えから安心しろってことだ。それ以降同様の事故は起きてねえし、安全に仕事が出来るようになったって皆が口を揃えてそう言う」


三花ちゃんは言葉を右耳から左耳に通しているだけで、既に理解することを放棄していそう。

難しいことを理解するのはいつも私の役目だ。


「その観測分体というのは何ですか?」

使。体の何処かにある不可視の臓器。第二の魂みたいなものと思ってくれれば良い。UOONは元々それを研究していた組織や団体が集まって構成されている」


「観測分体は、誰にでもあるものですか?」

「答えはNOだ。だが、先天的にも後天的にも獲得する可能性がある。正直細かいことは謎だな」

「全然分かってないんですね」

「分からないことの方が多い。今はまだ世界中から観測分体を持つ人間を集めているところさ。君たちがここに来たのもそういうことだ」


そういうことって、どういうこと?

私達に集められた覚えはない。


「違います。私は誘われたんじゃない。自分の意思でここに来た」

「結姫ちゃんの目線ではそうなのかもな。実は、太陽が君たちの学校に転校したのは、君たちをここに連れて来るというUOONの任務があったからなんだ」


――!


だから、太陽君は「誰かの指示で告白した」と言っていたのか。


でも待って。

あんなに無謀な告白は私以外なら成功していないはず。

成功する確信があったとしか考えられないような変な任務だ。


話を聞けば聞くほど逆に謎が深まってしまっている。

思考がまとまらない。


「太陽は、この組織で育った。ここが居場所と思っているから、与えられた仕事をするしか知らねえ。仕事のせいで親を亡くしているし、君たちに好意があればあるほどここには連れてきたくなかったんだろうよ。親と同じような結末になる可能性はゼロじゃない」


何がそんなに危険なのだろうか。


超能力で殴り合いでもするの?

それとも研究組織だと言うし、実験体になって解剖されるとか?


少し寒気がしてきた。


「太陽は優しいだろ。だから結姫ちゃんの想いを尊重してここへ連れてきたと思う。勘違いしないで欲しいんだが、太陽が君と付き合ったのは仕事だからじゃない。元々君に興味があったんだ」

「それは分かってます。太陽のことは信頼してるから。それよりも心配なのは、ここに連れてこられた理由が何かということです。人体実験のモルモットにするつもりなら全力で家に帰ります」


今まで静かに聞いていた三花ちゃんは、水を失った魚のように騒がしく驚く。


「結姫、帰るってどういうこと!?ビュッフェは?」

「いやいや待ってくれ、一つお願いを聞いてくれるだけで良いんだ」

「……お願いって何ですか?」


私と三花ちゃんは怪しみの表情を最前面に出して、お義父さんを睨む。


「UOONで学校を創る計画があるんだが、そこに君たちを招待したい。学生は全員が観測分体を持つ、つまり観測者だけの学校だ。学費も何もいらない。どうだ将来入学しないか?」

「かなり怪しいです。学費が要らないのも何もかも。想定されるデメリットは何ですか?」

「学費が要らないのは、UOONが今時珍しいお金に余裕がある組織だからだ。超能力が使えたら、お金儲け出来そうな気がするだろ」

「それはそうかもだけど……」

「デメリットは建設予定地は少々遠いから引っ越さないと行けないな。全寮制で、そうだ二城さんと同室にも出来るぞ。太陽も通うことが決まってるし、楽しそうだろ?」

「二人で寮生活かー。楽しそうだね!」


危ないような気はするけれど、現時点できっぱり断る必要もないか。太陽君はその学校に行くことが決まっているようだし。


「……考えておきます」


それに、三花ちゃんとの二人暮らしはちょっと楽しそうだと思ってしまった。

少なくとも、露骨に人体実験をするようなヤバい組織では無いってことは、しれっとお義父さんの心を覗いたから分かる。


聞きたかったことの大体は分かった。

今日のところはこのくらい聞ければ良いかな。


情報過多で脳みそに栄養を与えたくなってきた。

時計を見ると知らないうちにお昼も過ぎている。


そうだ。ビュッフェのエビチリが私を呼んでいるんだった。


「三花ちゃん、他に聞きたいことある?」

「結姫が無いなら無いよー」

「私はお腹が減った、ご飯食べ行こ」

「いいねー、行こ行こー」

「もう聞きたいことは無いのか?って、急に置いて行くな!」











色んな料理を物色して、ちょっとずつお皿に乗せるって良いよね。

大きな平皿の上に欲望の形を体現させて、その辺の空いている席に座る。


エビチリ。春巻き。ローストビーフ。麻婆豆腐。カレー。

だし巻き。ステーキ。味噌汁。コーラ。コーヒーゼリー。エビチリ。


私の欲望は総じて茶色いらしい。

煩悩は百八あるというけれど、私には多分、その倍はあるような気がしてくる。


「結姫、なにそれ、一面茶色じゃん笑」

「エビチリはどうみても赤でしょ。だから皿上の色を四捨五入したら実質赤だよ。三花ちゃんこそ偏食過ぎ」

「私は狙って茶色い料理ばかりを取ってるの!偶然の結果茶色くなった訳じゃないからセーフ。これは計算された、予定された茶なのだよ」


三花ちゃんが計算なんか出来る訳ないのに笑


「野菜って言葉知ってる?」

「結姫、これ見えないの?レタスって野菜なんだよ」

「レタスの葉一枚じゃん!付け合せのくたくたレタスは四捨五入したらゼロだから」


しょうもない言い合いをしていると、太陽君が合流してくる。


「まだ食べ始めてなかったんだね、間に合って良かった。料理が年々豪華になっているからどれを食べるか迷っちゃうよ」


ふふっ。私達に料理を見せる前にハードルを下げたね。さぞ欲深い盛り付けをしたに違いない。

さあ、太陽君の欲望の形を私に見せて貰おうか。


太陽君は料理を乗せてきたお皿をテーブルに置く。


――なん、だと!?


愕然とした。

まず、目に飛び込んできたのはサラダだ。そして、どこにあったのか分からない小鉢が数個と、しっかりお肉が揃えてある。


決して外面そとづらを第一にせず、少しだけ我を残した料理のチョイス。ビュッフェを楽しみつつも美しい。

例えるなら、新進気鋭の庭師が世話する庭。芸術だ。


急に恥ずかしくなってきた。


「わお、二人共茶色いね」

「た、太陽はサラダとか食べるタイプなんだ」

「野菜が好きなんだ。お米の白とお肉の赤も合わさって、色のバランスも考えた」

「…いいと思うよ」


女子力では太陽には一生敵わないかもしれない。


と、そこに太陽のお義父さんがやってくる。

この人は、適当に盛っているに違いない。なんとなく適当に生きてそうだから。

皿の上にこそ性格が現れるのだ。(特大ブーメラン)


「太陽、この席空いてるか?」

「空いてますよ」


お義父さんは取ってきたビュッフェをテーブルに置く。

一番大きなお皿を埋め尽くすのは、ピンク色の……炙りサーモン寿司だ。


「サーモンのお寿司ばっかり。小学生じゃん笑」

「おい三花ちゃん。言うじゃねえか。一見、局所的にキモいかもしれねえ、だが総合的に見れば君達よりもヘルシーだ」

義父とうさん、キモいのは認めるんですね」

「ああ、自分でもそう思うからな。いい年のオッサンがサーモンばっかり食ってたらキモいだろ。でも、関係ねえよ好きなんだから。昔はトロが好きだったんだが、油が多すぎて体が受け付けん。胃がもたれちまう」

「生きづらそうで、かわいそうー。ね、結姫」

「そうだね。取ってきてあげてもいいですよ。サーモンだけ」

「おうおう、早く取ってこい。茶色皿の娘」

「ピンク皿のおっさんよりマシです」


私の悪い癖、ちょっと調子に乗りすぎている。

けれど、太陽君が笑っているから、これでいいや。








ビュッフェも食べ終わり、そろそろ帰ろうという頃。

会場を出ようとする私達三人を、お義父さんが出口まで送ってくれる。


「じゃあな、学校の件よろしくな。また連絡する」

「……考えておきます」

「太陽となかよくしてやってくれ」

「そっちは分かりました」

「良かったな、太陽」


太陽君は少し頷くと、だんだん耳が赤くなる。


「じゃあね、おじさん」

「お前ら、観測分体の力をよく使っとけよ。筋トレと同じだ。使えば使うほど少しずつ強力になってくことが研究で分かっている」

「そういう大事なことは最初に言って」

「あ、悪りぃな。気を付けて帰れよ。会はこれからが本番なんでな、俺はまだ帰れねえから」


こうして、私たちは帰途についた。







帰り道も同じように三人で電車に揺られている。


お腹がいっぱいで、とても眠い。

それなのに太陽は珍しく口数が多い。


正直言えば、三花ちゃんのようにガチ寝をキメたいところ。

だけど、今だけは話しかけてくれるのも嫌じゃない。


太陽との間にあった見えない違和感。見えない心理的な壁が無くなったような気がする。お互いの好きなところを言い合ったからかな。



本当に何となく。

私は初めて、自分から手を繋いだ。


お喋りだった太陽は、繋いだ途端、急に静かになった。



~~~~~~~~~~~~~~~~


◯作者コメント


超能力=観測力 という理解でOKです。

観測分体を持っている人間は観測力を行使できます。


結姫ちゃんは、太陽君が任務で告白したことを知ることが出来ました。でもその任務が誰によって何故出されたのかは現時点で未開示です。任務の成功には何かしらの観測力が働いていますが、詳細は追々判明します。


ケンカ上等というタイトルでしたが、殴る蹴るまではいかなくて良かったです笑。太陽君のお義父さんのお陰で仲直り出来ましたし、結果的に二人の仲は着実に深まりました。

この先どうなっていくのか、お楽しみに。


ケンカ上等はこの話までです。次話は大月君の閑話を挟みます。

その後は学校に戻って新展開。群れるのが嫌いなくせに、友達を増やそうとしてみます。


星や感想を頂けると嬉しいです。


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