第13話 ケンカ上等(4)
九さんをそそくさと撒いて、三人で会場の奥へと進む。
ビュッフェから遠ざかっていくので、三花ちゃんは料理が気になって仕方ないらしい。
気持ちは分かるよ。
私のエビチリが待っているのだから。
あるテーブルをおじさん数人で囲んでいる。
おじさん同士で話し中のようだけれど、その中の一人に太陽君が話しかける。
「――との観測波が干渉するって、来たか!太陽」
「こんにちは。
「悪い。この話はまた今度だ。太陽達と話をする先約があるんでね」
「構わんよ。家族の時間を奪うわけにはいかんだろう」
「よし。お前ら、人気の無いあの辺に移動するぞ」
どうやらおじさんの中に、太陽のお義父さんが混じっていたらしい。
会場の隅の方へ移動して、ついでにバーカウンターからオレンジジュースを貰ってきた。
四十歳前半くらいに見える太陽のお義父さんはワインを一口含むと、意気揚々と話し始める。
「太陽。女の子を二人も引き連れてくるなんて、大人になったな。俺以上なんじゃないか?」
「はは、人数の桁が違いますよ。こちら彼女の企比乃結姫さんと、友達の二城三花さん。この人は僕の義理の父で、この組織で教授をしているそこそこ偉い方です」
「「はじめまして」」
「おう。よろしくな。二人とも太陽から話は聞いてる。まず、これを聞かなきゃ始まらねえな。結姫ちゃんは太陽君のどこが好きなんだ?義父さんに教えてくれないか」
――!!
人気のない会場の端に移動したのは、そういうことか。
とんだセクハラ野郎だった。
太陽君がこれでも無く動揺している。
私も一瞬思考が固まってしまったし、三花ちゃんはニヤニヤしながらこちらを見ている。
「結姫さん、言いたく無ければ言わなくてもいい。こう見えて悪い人ではないんだ。義父さんも流石にセクハラです」
「お、悪い悪い。いつものクセでな。で、どこが好きなんだ?」
「僕から告白して、付き合ってくれてるです。彼女が僕を本当に好きかどうかなんて分からないでしょう!だからやめて下さい」
――え?
本当に好きかどうかはまだ分からないけれど、好きか嫌いかの二択なら全然好き。
私を誤解している太陽君の言葉に、心がすごくモヤモヤする。
おじさんに聞かれることは癪だけど、太陽君に勘違いされたままの方が嫌だ。
恥ずかしさを隠すために、できるだけ堂々と当たり前のように言う。
「真面目で優しいところが好きですね」
「なっ!!!!!」
「キャー!!」
「おおー!だってよ太陽。良かったな」
太陽君の顔が真っ赤になる。
言った私も、多分そうなっている。
「じゃあ次は太陽の番だな。結姫ちゃんのどこが好きなんだ?」
「えっ、えっっ!?」
「お互いに言い合わないと不公平だ。男じゃない。そうだろ?」
「それはそうだけど……」
私達の全視線と神経が太陽君に向いている。
観念したのか、大きな深呼吸を一つしてから、少し俯きながら口を開く。
「頭が良くて、いつも正しくて、一緒に紅茶を飲んでくれて、本当は優しくて、人と変わった考え方が面白くて、雰囲気とか居心地が良くて、よく見ると、か、かわいいところ」
「うわ!」
――っっっ恥ず、死ぬ!!!!
穴があったら入りたい。
いや、無くても入りたいっ!!!
「キャー!!!」
「三花ちゃんうるさいっ」
「だって、だってー。キャー!!」
私は、パニックになって立ち上がると、顔面を三花ちゃんの胸にグリグリ擦り付ける。摩擦で
私の顔が真っ赤なのが、ドキドキのせいか、摩擦熱のせいか、もうこれで分からない。
ようやく三花ちゃんから離れた頃には、太陽は逃げるように何処かへ行ってしまって、今は向こうの方で知らない大人達と親しそうに話をしている。
はあ。疲れた。
残ったオレンジジュースを、ストローからズゴゴゴと音がするまで一気に飲み干す。
「結姫ちゃん、ありがとな。俺はな、太陽にとって
「碌な親じゃ無いのは一瞬で分かりました」
「まあな、だからこそ君達には感謝してる。太陽の相手をしてくれてありがとう」
「まあ、一応。…彼女なので」
さて、いつの間にか親への挨拶を終えてしまった。
もし結婚することになれば、この人が私にとっても義父になるのか……。悪い人では無さそうだけど、良い人でもない。
けれど、憎めない人だ。
~~~~~~~~~~~~~~~~
◯作者コメント
大月君、言う時は言いますね。
結姫ちゃんにクリーンヒットしました。
三花ちゃんは内心かなり羨ましがっています。
次話でケンカ編終わります。
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