第12話 ケンカ上等(3)
ケンカをした日を境に、太陽君は少し私と距離を取るようになった。
距離を取ると言っても、一緒に下校はしているし、手を繋ぐとかのそういう接触をしなくなった程度のことだ。
どちらかが大人になって謝れば良いのだろうけど、隠してる太陽君が悪いと思うので、私から折れるつもりは無い。
ケンカしてから二週間後の土曜日。
つまり、隠し事を教えてくれる約束の日。
私達三人は、ガタゴトと電車に揺られていた。
太陽君は静かに文庫本を読んでいて、三花ちゃんは頭をもたげて、時々私の肩にヨダレを垂らす。
初撃は食らってしまったけれど、ティッシュを挟んでおいたので二回目以降のヨダレ攻撃は無効化されると信じたい。
ようやく太陽君が秘密を教えてくれるというのに、三花ちゃんは全く緊張感が無い。
既に一時間は電車に乗りっぱなしで、景色もすっかり都会らしくなっている。
こんなに遠くまで出掛けるのは久しぶりだ。
「結姫、次で降りるよ」
「分かった。三花ちゃん起きて」
「むにゃ。ここはどこだー?」
寝起きの、特段にアホな三花ちゃんはかわいい。
……
電車を降りて、すこし歩く。
太陽君の背を追いながら、三花ちゃんと二人でついて行く。
都会のど真ん中に来るのは何年か振りで、ガラス張りの超高層ビルや、目まぐるしく行き交う雑踏に圧倒される。
まるでここに私の居場所なんか無いみたいな、大きくて窮屈な場所だ。
都会にしか存在していないような、おしゃれな人間もちらほらいて「本当にあれは私と同じ種なのか?」と疑いたくなる。
ああいう見た目の人って、何を考えているのだろう。頭を覗いてみたいけれど足を止める時間はない。
自己表現の多様性に関心しながらテクテク歩いていると、太陽君が大きな高層ビルの一つを指差す。
「目的地はここだよ」
「上まで登れるー?」
「ああ、目指しているのはホテルの宴会場。超高層階さ」
「やったー!」
バカと煙は高いところが好きらしいけど、ホントかな。
■
エレベーターで上がった先は、超高層階のホテルフロア。三花ちゃんがガラス張りの景色に釘付けになっている。
この階には披露宴をするような会場がいくつもあるようだけれど、太陽君は迷わずに進んでいく。きっと何回も来ているのだろう。
フォーマルな服が無くて制服で来たけれど、場違い感が凄くて正直帰りたい。太陽君だけはかっちりスーツを着ているし。
「何回も来たことあるの?」
「五回は超えてるよ。さあ、目的地に着いた」
到着したのは悟天の間という大広間。
入口のディスプレイには《UOON E01支部様》と表示されている。
「わぁー!」
テニスコート八面分くらいはありそうな無駄に広い会場に、白いクロスの掛かった丸テーブルがあちらこちらに置かれている。壁際にはバーカウンターとビュッフェ料理が並らび、先客は五十人くらいだろうか。お酒を飲んでいる人もいる。
三花ちゃんは何をしに来たのかなんて記憶が吹っ飛んでしまって、見たことない雰囲気に全く気を取られてしまったようだ。
キョロキョロ見渡していると、私達と同年代くらいの女の子が近づいてきた。
ドレスを着込んで、見た目に気合いを入れていることが一目で分かる。ファッションのことはよく分からないけれど、着慣れていそうだし、実際似合っていると思う。
「太陽っ!久し振り!」
「ああ…、
「受付はあっちねっ。ところで隣の女の子は誰なのよ」
「彼女が僕の彼女で、隣の彼女は僕の彼女の親友だよ」
「彼女が例の……、って早口言葉みたいね。早く受付行ってきたらっ」
「分かった、ちょっと行ってくる」
太陽君が居なくなると、九さんは急激に距離を詰めてくる。ふわっと女の子の良い匂いがして、耳のピアスが揺れているのが気になる。
同年代なのに少し大人の雰囲気。典型的な都会っ子だ。
この距離感の近さは、苦手な人リストに早速入りそう。
「お名前は?」
「企比乃結姫です」
「私は二城三花。よろしくね」
彼女は三花ちゃんを一瞥すると、視線を私に戻す。
「早速本題。ユッキーは太陽とどこまでしたのっ?さあ、言いなさい!」
「ど、どこまで、とは?」
更に一段詰め寄られる。
距離感の詰め方が本当におかしい。少しでも動いたら意図せずにチューしてしまう危険性がある。
しかも私のことユッキーって言ったよね。三花ちゃんにもあだ名で呼ばれたこと無いのに。
動けずに硬直していると、三花ちゃんが代わりに返事をしてくれる。
「結姫はね、私の知ってる限り、手を繋ぐところまでかな。だよね?」
「そ、そうそう」
「ホントっ?命かけられる?」
これは本当にそう。
手は繋いだけれど、それ以外にはまだ何も。
それ以外……って何考えてんだ、私。
最近はギクシャクしてて手すら繋いでないから。
「本当、本当。九さんは太陽君とどういう関係なの?」
──あ、マズい。
言い終わった瞬間に、この一言が悪手だと直感した。
「よッくぞ聞いてくれましたっ!彼とは一番の幼馴染で、お互いに相手が居なかったらいつか結婚しようって関係なのですよっ。それなのに……。全ッ然告白してくれないから半年前にこっちからしてみたら、“姉弟みたいな感じだからそういうのではない“って酷くないっ?私だって彼と手くらい繋いだことあるし、十二年五カ月三日前にチューだってしたことあるんだからッ!」
「なるほど!大ツッキーの幼馴染ねー!」
まさかの太陽君ガチ恋勢。
こんなにヤバい挨拶を受けたのに、三花ちゃんの要約力には恐れ入る。
「私の太陽を返して!」とかそういうのだろうか。
ごめんけど、今のところまだ返すつもりは無いよ。
返す言葉に困っていると、三花ちゃんが話を変える。
「九ちゃんも超能力が使えるんだよね?」
「それ聞いちゃう?そういう力のことをここでは観測力って呼ぶけどねっ、個人情報だから人には言わない方が良いよ。要するにヒミツってことっ。君達のことも言わなくて良いし、太陽君は私のお婿さんになる運命だから」
「そっかー。機会があったら教えてね」
「きっとあるわよっ」
そこに受付を終えた大月君が戻って来る。
「九さん話し中すまないけど、挨拶に行きたいんだ。一旦良いかな」
「太陽君の頼みならどんなことでも受け入れるわっ。それなのに私を差し置いて、ユッキーとラブラブしようなんて――」
「ゴホンゴホン。さあ、二人共行こうか、知りたいことを教えてくれる人に会いに行こう」
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◯作者コメント
しかも、しばらく出番も無いという、、笑
黙っていれば美人なのですけどね。
「私の扱いひどくないっ!?」
知ってます。
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