第3話 私と恋と自問自答(3)


ちょっと歩いて、昇降口。

靴を脱いで下駄箱の扉を開けると、靴以外に何かある。


……?、なんだこれ。


「ねえ、三花ちゃん。これって」

「えっ!?マジ!やばっ」


下駄箱に手紙がある。

しかも二通。


下駄箱に手紙と言えば、つまりそういう手紙(ラブレター)に違いない。


それにしても何故二通あるのだろう。

自分のではない下駄箱を開けてしまった訳では無い。私はそういうミスをしないから。


「(すぅーー)」


一旦落ち着け。


周りをキョロキョロする。

三花ちゃん以外の人には見られていない。


結姫ゆきに春が来たんじゃん!?すご。これが青春ってやつか…」


ちなみに今は春ではない。晩夏くらいである。


改めて、それらの手紙をよく見てみる。


一通は、品のある淡い猫の封筒。

もう一通は、真っ黒い漆黒無地の封筒。


――うーん。黒はハズレ?


とりあえず上履きに履き替えていると、肩をツンツンされる。

顔を上げるとやはり三花ちゃんだ。


「じゃじゃーん!私もゲットー!」


見ると、右手に同じ漆黒の封筒を持っている。


何で??

ああ、そういうことか。


「それ多分、そういう手紙じゃないよ……複数人に同じ手紙を出すとか事務連絡……」

「ええー、分かんないよー。私は可能性を捨ててない!これはラブレターってJKの勘がそう言ってる」


三花ちゃん、蛍光灯の灯りに黒封筒を透かしても、何も見えないでしょ。


冷静になれば分かる。

私がラブレターなんてもらえる訳ないよ。男子と話した記憶も無いし。間違い間違い。


二通の手紙を手に、教室への階段を上がる。


はあ。四階も上がらされたら足がムキムキになってしまいそうだ。

軽く息を上げていると、元気な声が後ろから聞こえる。


「黒い封筒さ、"せーの"で開けようよ!」


三花ちゃん静かにして。せめて教室まで待とうよ。

待ちきれない子犬みたいに楽しそう。


「うん、いいよ。どうせ大したのじゃないし」

「じゃあ、いくよ。さん、にー、いち」

「「せーの」」


階段の踊り場で、手の平の上に封筒を傾ける。

すると、出てきたのは千円札だった。


二人で二千円とか…………草。

でも、千円を貰うような宛があったっけ?


とにかく、ラブレターでは無いことは確かだ。

何故なら、ラブレターに千円は入っていない。


何のお金か考えていると、三花ちゃんが封筒を覗きながら言う。


「まだ何か入ってるよー」

「諦めが悪いね」

「ほらねー」


次に出て来たのは紙だ。

質感厚めのメモ用紙。それ以外にはもう何も入ってない。


「どれどれ~」


諦めの悪い女が紙を開く。

私もそれに続く。



=======


誰でも良いので彼女になって下さい。


その気があれば、次の金曜日、十六時半に校舎裏まで来て下さい。待ってます。


1年男子 匿名


=======



………?


二人共全く同じ内容だ。印刷コピーだ。


「これは逆転ホームランなのでは!?」

「この手紙を分類するならラブレターには含まれると思うけど……、これがホームランで無いことは私でも分かる」

「それにしても最低ぢゃない?誰でも良いらしいよ。笑っちゃうね。絶対行かないし」

「そうかなあ……無くはないけど」


そんなジト目で見ないでおくれ。

三花ちゃんが無いと言えば無いのだろうね。


でも興が乗って来た。

ついでにもう一通も開けてしまおう。


「さて、次は猫の封筒……」

「いいよね、結姫は二通も貰えてさー」


猫柄の淡い封筒には淡い猫の便箋だ。

外身と中身のバランスが取れている。


三花ちゃんにグイグイ覗き込まれながら、「えいやっ」と二通目に目を通す。


=======


企比乃結姫さんへ


突然の手紙で驚かせてごめんなさい。

三年の景山です。


入学してから半年、高校生活には慣れましたか?

普段から頭が良さそうだなと感じているので、勉強は余裕だったりするのかな。

また、お話出来ることを楽しみにしています。


ここからは、お手紙を書いた本題を言います。

最近、企比乃さんのことをもっと知りたいと思うようになりました。


学校だけでは無くて、休みの日にデートをしたり、考えていることを共有したりしたいです。不安なことや分からないことがあれば、真っ先に相談出来るような関係になりたいです。


そういう一歩進んだ関係になるために、伝えたいことがあります。



僕と付き合って下さい。



良かったら返事を下さい。待ってます。


三年 景山 海晴


=======



は~…?!…~??はへ?



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