真実はどこだ!? 疑惑と戦う改革派市長

真実はどこだ!? 疑惑と戦う改革派市長

「これより、何処加市の定例会見を始めます」


 私、中谷 弘明は何処加市の市長をしている。

 本日は定例会見の予定があるのだが、気がかりなことがある。 それは『私に対する裏金疑惑』が突然出てきたことだ。

 もちろん、身に覚えはない。 誰が言ったのかは分からないが、週刊誌が面白おかしく報道してしまったので、この会見は相当荒れそうだ。


 一通り市政の連絡事項や議会の状況を説明し、いよいよ質疑応答となった。


「それでは、質疑応答に入ります。 質問がある方は挙手でお願いします」


「はい。 A新聞の田中です。 昨日発売の週刊文秋で市長の裏金疑惑が報じられています。 事実であれば市民への裏切りだと思うのですが、これが事実かどうかをお聞かせください」


 ほら始まった……。

 最近の記者は質問の際に自分の感想を付け加えてくるんだが、なんでお前の意見が市民の代表意見になってるんだよ! 大体、捏造記事じゃないか。 ちゃんと裏を取ってから報じてくれよ!


「結論から申し上げますが、そのような事実はありません」


「しかし、コンサル会社に架空の発注をして一部をキックバックしていると、職員からの証言もあるようです」


「先ほども言いましたが、そのような事実はありません」


「B新聞の吉本です。 先ほどの質問と関連しますが、Cコンサルタントに発注をしているのは事実でしょうか。 また、その発注内容に問題は無かったとの認識でしょうか」


「はい、Cコンサルタントに発注をしているのは事実です。 ただ、業務上必要と判断しておりますし、金額も適正と認識しています」


 私は市政を刷新するために市長となった。 生まれ育った市が衰退していくのを見ていられなかったからだ。

 実際に市長になってみて気付いたのは、私が想像していた以上に行政が腐敗していたことだった。 だから、私の改革は腐敗を正すことを最優先としていたはずだったのに……。

 それが何でこうなる!? 私ほど市民のことを考えている市長なんて日本中探してもいないはずだ!


「D放送の森本です。 先ほど報じられたニュースなので市長はご存知ないかもしれませんが、市長と市職員の女性の不適切な交際が噂されております。 先週の金曜日、Eホテルに二人で宿泊された事実はありますか」


 なんだと!

 ここへ来て、さらに追加の疑惑とは……。 だが、もちろんこれも捏造記事だ。


「金曜日、Eホテルに宿泊したのは事実ですが、翌日に行われる行事へ出席するためであり、職員の女性を連れて宿泊した事実はありません。 私一人で宿泊しております」


「市長がホテルに入ってから30分後に、その女性も入っております。 時間をずらせば、誤魔化せると考えたのではないですか!」


 いや、本当に知らないのだが、一体どうなっているんだ?

 これも改革反対派の工作なのか……。


「いえ、本当に存じません。 金曜日は間違いなく一人で宿泊しています。 誤報ではないでしょうか」


「証拠写真もありますし、相手の女性が市職員であることも確認できています。 とにかく、ホテルに宿泊されたことは事実ということでよろしいでしょうか」


「宿泊したことは事実ですが、その女性とは会っていません」


 ――


 翌日、私は新聞を見て愕然とした。

 新聞の見出しは『何処加市長、疑惑の一部を認める。 新たに不倫疑惑も』であった。

 『疑惑の一部を認める』だと!? 私が認めたのはコンサル会社に発注していたことと、ホテルに宿泊していたことだけだ。 不正に関しては1ミリたりとも認めていない。


 新聞はいつもこうだ。 正しい情報を伝えようとせず、 話題になればそれでいいと思っているのだ。

 こんなことで失職でもしたら、今までの改革はどうなるんだ。 また腐敗した市政に逆戻りじゃないか。


 プルルル……。


 私の携帯が鳴った。

 電話の主は、金曜日に私と宿泊したことにされた女性職員だ。


「もしもし、市長……こんなことになってしまって……すみません」


「何があったんだ? 本当に金曜に泊まっていたのか?」


「はい、実は高校時代の友人が戻ってきていたので、久しぶりにホテルで再会してディナーを楽しんだのです」


 そういうことだったのか。

 これで私の潔白が証明できるとは思えないが、偶然であることを説明できる。


「そうだったのか……君をこんなことに巻き込んでしまって、本当に申し訳ない」


「市長……色々と大変みたいですが、ゆっくり休めていますか?」


「さすがに昨日は寝付けなかったな……君もしっかり休んでほしい。 私にできることがあれば、何でも言ってくれ」


「ありがとうございます! では……前からの約束通り、早く奥様と離婚してくださいね。 私、ずっと待ってますから」

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