第8話 それぞれの行動
作戦は決まった。次はチーム分けになるのだが、正直、誰がどこに行けばいいのかはあまりわかっていない。聞けばどの種族もどこにいるのか正確な位置はわかっていない。
「俺はここに残ろう。強い魔族も攻めてきそうだ。」
「それなら私も残った方が得策でしょう。」
テレサはともかくアレクも残るというのは意外だ。まだ見ぬ強敵を探し求めそうな気もするが、魔族がさらに攻め込んでくるのなら話は別なのだろう。
「それじゃあクルルも残る。」
「いや、お前はダメだ。4チームに分けるなら俺がいるチームは2人でいい。」
「ちぇー。」
クルルは不満そうだが、逆らう気は無いようだ。だがどこに行っても危険はつきもの、特に宇宙族となると行けるものも限られるだろう。
「宇宙族は私が行く!!」
勢いよく言ったのはアルベルトだった。科学者の彼なら宇宙に興味があるのも不思議では無い。目が輝いている。
「宇宙族ってどんな感じなんだ?」
「彼らは反逆者です。人族でありながら宇宙に向かうことの出来る技術力。ただ存在が確認で着ていても所在は分かりません。
人族なのにその力は人族を超えた。だから神々への反逆者なのです。」
アレクの質問にエミリーは答える。反逆者というのは実感が湧かないが人族である以上、協力出来る可能性は高い。
「精霊族はあたしが行くわ、魔法を使うならこの賢者に任せなさい!」
胸を張ってアシュリーが答える。確かに転移の魔法を見る限り、彼女が適任なのだろう。
「じゃあ僕は幽霊族に。実態のないものの類は僕の専売特許だからね。」
「あら奇遇。妾も同じじゃ。」
「なら俺は無理だな。実態のないものを殺せない。」
ハルアキとモネは幽霊族に興味があるようだった。一方のジャックは幽霊族との相性が悪いらしい。
「僕は...精霊族に向かいます。聖剣もどちらかと言うと魔法に近いので。」
ライトは聖剣を見つめる。聖剣の力は厳密に言うと魔法ではなく、加護なのだがそのおかげでライトも魔法を使える。魔法が使えないものが行くよりも良いだろう。
「僕は霊感もなければ宇宙で生きてく自信もないから精霊族に会いにいくよ。」
「なら俺は宇宙族だな。」
やる気がなく消去法で決めたタイチに対して、ジャックは戦力を見て宇宙族に会いに行こうとする。
「クルルは...どこがいい?」
あまりどこに行くか関心のないクルルはアレクに判断を委ねる。アレクは全員を見て戦力的な面からクルルは宇宙族のチームに加えることにした。
「これで各々の行き先が決まりましたね。必要な物資は言ってくだされば用意致します。
皆さんに頼むしかありませんが、決して無理はしないでください。」
ここからはそれぞれのチームになって動く。全員が作戦に向けて準備を始めるのだった。
「果たして...皆さんはそれぞれの人類に会えるのでしょうか?」
翌日、王国を守る防衛チームは王城の会議室で顔を合わせている。テレサは既に王国に結界を貼っており、敵の襲撃まではあまりやることがなさそうに見える。
エミリーは不安そうにアレクたちに尋ねた。
「まあ......大丈夫だろ。何も無策でできるなんて言ってないからな。」
エミリーの疑念にアレクが答える。アレクには何やら確信があるらしいがそれを教えてはくれなさそうだった。
「それじゃあ俺らも動くとするか。」
「え?私達もですか?」
「当然だ。」
エミリーは戸惑ってしまう。もちろん何もしたくない訳では無い。だが現状できることもないように思える。
「兵士を訓練所に集めてくれ。」
「はぁ。わかりました。」
王女であるエミリーは命令できる立場ではあるものの、それ相応の準備や理由がいる。兵士を集めるのなら昨日のうちに言って欲しかった。
エミリーは配下の者に命令して兵士を集めるのだった。
1時間もして王国の兵士たちが集まった。彼らは城の守りも任されており、暇ではない。不満そうな顔や、不安な人間もいる。
アレクは全員を一瞥すると何人かを指さした。
「お前と...お前ら2人、あとそこにいるのと向こうのお前かな。それ以外は今までの業務に戻ってくれ。」
すると兵士たちの反感が強かった。ここまで大袈裟に呼んでおいて5人しかどうやら用がないらしい。いくら英雄だからってわがままがすぎる。
それに選ばれた5人にだって納得がいかない。彼らは別に特別な役職に着いているとかではない。なんなら新人がほとんどだった。
「不満があるならかかってこいよ。殺してもいいぞ、俺は殺さないがな。」
アレクの言葉を聞いて全員が黙る。文句は言いたいが戦いたくはないらしい。不満はありつつもそそくさと5人以外は帰っていく。
「少し、横暴では?」
兵士の気持ちが分かるエミリーは不機嫌そうにアレクに告げる。だがそんなことは気にもとめない。
「何言ってやがる。今からこの5人は地獄を見る羽目になるんだ。むしろ今帰れた方が幸せだと思うぞ。」
そんな事言わないで欲しい。集められた5人は段々と不安になってくる。一体自分たちに何のようなのだろう。地獄って?
「ああ、安心しろ。この地獄を耐えたらこの5人は中級魔族程度は1人で倒せるようになってもらうから。
今から俺がお前らを鍛えてやる。」
アレクはニヤリと笑う。その姿に集められた5人は恐怖するのだった。
宇宙族チームはアルベルトをリーダーに広い平原に来ていた。
「レコード:
アルベルトは能力を発動する。すると3人の目の前に巨大な乗り物のようなものが作られた。タイヤのようなものはなく、大きな穴のようなものが3つ、頭は円錐のような形になっている。
「宇宙に行くからな。ロケットを作ってみた。あとこれを着てくれ。」
アルベルトはジャックとクルルにスーツを渡す。体のサイズにピッタリ、だが頭にガラスの球体をつける服だ。
「宇宙は重力が極端に弱い。、かつ温度も低い。そのスーツを着れば宇宙空間でも生きられる。
スーツにはその生物に合わせた体温調節機能がある。
ただこれの難点はその生物の体温に合わせる仕様なんだ。例えば血液を流して体温が下がっていくと体温調節機能も効果を失い始めてしまう。
そしてガラスのヘルメットは周りの気体を酸素に変えることができる優れものだ。これのデメリットは真空状態になった瞬間、息が出来なくなってしまう。あと液体を気体にはできない。水中では呼吸を出来ないから注意してくれ。伸縮性もあり、動きやすいスーツになっていると思う。むしろこれ以上は私の科学力では無理だな。もちろん宇宙族の技術が参考になれば話は別だがな。」
早口でアルベルトはまくし立てる。効果云々は置いておいてこれを着ないと宇宙では生活できないということはわかった。
ジャックもクルルも仕方なく着る。
「それでは諸君!宇宙に旅立とうでは無いか!!胸が鳴るなぁ!」
2人はアルベルトに続いてロケットに乗り込む。するとロケットはアルベルトの操縦で宇宙に旅立ったのだった。
幽霊族チームは2人、モネとハルアキだった。幽霊族についてはあまり情報がなかった。どこに住んでいるのかも、そもそも意思疎通ができるかも分からない。
わかっていることは実体がないということだけだった。
「それで、宛はあるのか?」
「ええ、昨日占術で見ました。」
ハルアキは東を指さした。
「東に向かうと出会いがあるそうです。それが幽霊族かはたまた別のものなのかは分かりませんが、少なくとも我々にとっては悪くない出会いである可能性が高い。」
モネは怪しむ。この世界に来て数日しか経っていない。モネは誰のことも信用することがまだできていなかった。だが手がかりもないのも事実、今はハルアキに頼るしか無かった。
「さあ、善は急げです。僕の式神に乗ってください。」
ハルアキは1枚の紙を投げる。すると紙から人力車が出てくる。だが普通の人力車とは違い、車輪が燃え、その中に人の顔が着いていた。
「ほう、火車か。玄武や青龍といい、お主、相当強いな。」
「いえいえ、僕なんかよりアレクさんの方が何倍も強いですよ。
それよりあなたも火車を知っているということは僕の世界に近しいですよね?だから幽霊族を?」
「食えぬ男だ。」
2人は火車に乗り込んだ。すると車輪がひとりでに回転し始め、東に向かって進んでいくのだった。
「多分僕あんまり使えないと思います。」
精霊族チームのタイチが2人に告げる。ライトが馬車を扱い、精霊族のいる地に向かっている。アシュリーの転移魔法という手もあったのだが、唐突に出現されたら、相手も困るだろうという配慮の元、地道に移動することにした。
「それはどうして?」
「僕、スキルが使えますけど、魔法は使えないんですよ。」
「それは......」
どうしようもできない。幸い戦いとなったら頼りになるが、果たして精霊族は認めてくれるのだろうか。
エミリー曰く、精霊族は魔法に重きを置いている。ただでさえ、この世界の魔法とアシュリーの魔法では発動条件が違い、魔法と認めてくれるかすら怪しい。
「まあ、僕は何とかするんでそっちで何とかしてください。」
「ちょっとあんたねぇ!やる気無さすぎでしょ!!」
タイチの態度にアシュリーは腹を立てる。他の人類に比べわかっていることの多い精霊族、だがチームはあまり良くないようだった。
「まあもうしょうがない!焦らず行こう!!」
空気が悪いのを察したライトは明るく振る舞う。この先の不安を隠すように。
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