第5話 最強との出会い
デルタジアから遥かに離れた地、人間の住むことが出来ない山脈を超えた先、命というものが感じられない土地に城がある。
外見とは裏腹に中は広く、魔族たちが蔓延る城の玉座に10人の特級魔族が長いテーブルを囲うように座っている。
魔族の分類には特級以上がない。つまり特級魔族の強さには上限がないのだ。その特級魔族の頂きに至った10人の魔族は退屈を感じていた。
数年に何人か自分たちに挑んでくる人間はやってくる。それでも彼らは負けることがなく、挑んできた全員が死んでしまっていた。
そんな中、強い力を感じ取った。おそらくまた人間が魔法で何かを呼んできたのだろう。だがそんな奴らもどうせ死ぬと思っていた。この時までは。
「ほう、何やら面白そうな奴が来た。」
黒い何かを纏った男がつぶやく。その言葉に全員が反応する。何せ彼が最強だからだ。この城をダンジョンとして作ったのも彼、そしてここにいる特級魔族は全員彼から生み出されていた。
「この感じ......我にも届きうるな。」
「そんな!!そんなはずはありませんわ!!たかだか人間如きに!!」
女性の怒りを含んだ声が響く。だってありえないことだから。彼に届くのなら...自分たちよりも明らかに強いということだ。
だがその彼は違う。感情が出てくるのは久々だったかもしれない。
「尖兵を送ろう。少し強く、様子見にはちょうどいい。」
そう言って自分の腕をもぎ取るとテーブルの真ん中に投げた。その男は力を解放し、腕に込める。強大な力が一瞬だけ放出され、周りの魔族も戦慄した。やはり、彼には何をしても勝てそうにない。
腕はやがて人の形になる。ただその肌は赤い。白い髪、黒い目の成人男性が出来上がる。だがその実力は高い。
「様子を見てこい。」
「は!」
生み出された特級魔族は命令通り、人間の国に向かうのだった。
「…………あれは?」
遠い地で何かを感じ取ったアレク、今まで戦ってきた経験から来る強者に対しての予感を感じ取っていた。まあ気のせいだろうと考えるが。
ブラックセイバーを攻略した後、アレクたちは王城に帰ってきていた。報告を終えて現在は案内された部屋のベッドに座っている。これからの生活ではこの部屋を自室として使っていいらしい。
王族が用意しただけあって広々としている。机や椅子、壁に飾ってある絵まで高そうという庶民の感想しか出てこない。
ただアレクが納得していないのはこの隣にいる存在だった。
「なんでお前がいる?」
「クルル、強者に従う。あなた強いからクルルのご主人。」
ドラゴン特有のルール、だがまさかここまでとは思っていなかった。敵意はないのなら気にする必要も無いだろう。アレクはベッドに寝っ転がり、眠りについた。それを見たクルルも同じベッドに入り、眠り出したのだった。
真夜中になり、一段落ついたエミリーはいつもの日課を行う。訪れたのは王城にある墓場だった。そこには巨大な石碑がある。掘られてあるのは今まで散っていった英雄たちの名前だった。
「皆様、今までごめんなさい。ですがそれももう終わりそうなんです。
今回召喚した方が1人で特級魔族を討伐しました。…今まで考えられなかったことです。
…………彼をもっと早く召喚していたら......。」
涙を流すエミリー、自分の無力さに腹が立ち、散っていった英雄に対して罪悪感が湧いている。
もし自分に召喚ではなく戦闘の才能があったら、英雄たちは自分たちの世界で平和に生きていけたのだろうか。
エミリーは手を合わせ、目を瞑る。英雄たちを弔うことが自分に出来るせめてものことだった。
翌日、またしても集められたアレクたち、どうやらエミリーから今後について話があるらしい。
「あなた方全員に集まってもらったのは今後のことについてです。
昨日ダンジョン攻略に行かれた方には言ってなかったので説明しますね。
近くのダンジョンから攻略してもらいたいのですが、かと言って全員で行くと守りが手薄になります。
行くのは最大6人まで、残りの4人はこの国を守って頂きたいのです。そこで英雄様方を二手に分けたいのですが...。」
エミリーはアレクの顔を伺っている。一昨日のこともあり、アレクが1番反対しそうだったからだ。
6人というのは同時にダンジョンを2つ攻略したいからだった。
「私は結界を貼るのが得意です。守りに専念した方がいいでしょう。」
テレサは自身の能力を理解し、提案する。誰も反対はしない。
「僕も多少結界の心得がある。それに索敵、式神を使っての防衛も得意だ。」
ハルアキも守備に回るらしい。残るは2人、だが意外にも手を挙げたのはアレクだった。
「俺も守りに入る。何やら面白そうなのも近づいてるし、退屈せずに済みそうだ。」
「だったらクルルも」
アレクはここにいる誰よりも先に敵の存在に気づいていた。それに仮に英雄たちが攻略できないダンジョンが出てきたら、その後始末はアレクに回る。
そうなるのなら、誰も倒せなかった魔族を倒した方が面白そうだ。
「アレク様が......それより、面白いものって?」
「!?私の結界が破られました!!敵です!!」
昨日のうちに結界を貼っていたテレサ、テレサの結界は生半可な力じゃ壊せない。
「あんただよな?転移の準備しといてくれ。ここにいる全員で広い場所に出よう。」
「え?」
アレクはアシュリーに転移の準備を頼む。突然の事でアシュリーは何が何だか分からない。だが次の瞬間、部屋の壁が壊れ、赤い肌の魔族が現れる。
アレクは吹き飛ばされた瓦礫全て叩き落とすと魔族を掴む。
(こいつ......何を見ている?)
「早く!」
「わかってるわ!指図しないで!!」
アシュリーは転移魔法を発動する。エミリー含め、その場の全員が開けた平原に出る。背にはデルタジア王国が見える。
アレクは掴んだ魔族をそのまま前方に投げる。触れてた両手を見つめる。アレクは何か違和感を感じていた。
「なぁ、お前、それ本気か?」
魔族に問いかけても答えは返ってこない。魔族はアレクだけを見つめていた。
次の瞬間、アレクは距離を詰め、魔族の腹を蹴りつけた。魔族はその蹴りを避けられず、そのまま吹き飛んだ。
「なるほど。感覚が鈍ってるのか。今回はいい。つまらなさそうだ。他の誰か頼む。」
そう言ってアレクは魔族に背を向けて歩き出した。最初は脅威だと思っていたのに今の攻撃にすら対応できないとなると思ったより強くなさそうだ。宛が外れてアレクは少しガッカリしている。
だがそれを知らないエミリーは驚いている。防衛の件もそうだが、アレクは戦いたいだけの戦闘狂だと思っていた。
「じゃあ遠慮なく!!」
先の戦いでも転移だけ、アシュリーは不完全燃焼気味だった。
貴族たるもの強くあれ。貴族たるもの平民を守れ。彼女の世界ではそれが普通だった。人類を支配しようとする悪魔との戦いで、魔法が使えるのは貴族に生まれたものだけだったからだ。
だがアシュリーの考えは違かった。平民は守るべきものではなく、共に戦う者。貴族は守るものでありながら同時に守られるべきだと。
アシュリーは平民でも使える魔術を開発し、自身しか使えない固有魔法で悪魔を滅ぼした魔法の天才だった。
「メテオストライク!!」
アシュリーが両手をあげると巨大な魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣と同等の岩石が炎を纏って魔族に襲いかかる。
しかし、魔族は避けない。力を込めて大地を蹴る。隕石と魔族が激突する。隕石に亀裂が走り、砕かれた。その勢いのまま、魔族はアシュリーに突進する。
だが徐々に勢いが失われていき、アシュリーの目の前で完全に停止してしまった。
「スパイダーネット。それじゃあ間に合わないわよ。」
アシュリーは事前に隕石の中に糸を張り巡らせていた。その中心を通ってきた魔族の体にまとわりついた糸は完全に魔族を停止させた。
魔族の上下に魔法陣が生まれる。
「
魔法陣と魔法陣の間に炎の柱が生まれた。魔族は炎に体を焼かれた。
「すごい...これが英雄。もしかしたら本当に魔族を滅ぼせるかも......。」
「いいや、まだ甘いね。」
エミリーがアシュリーの強さに感心している時、アレクが横槍を入れる。確かにアシュリーの魔法は強いが、それだけでは特級魔族なんて生まれていなかった。
炎の柱から魔族の腕がアシュリーの首を目掛けて伸びてくる。
「だからこその英雄、だからこそ3人なんだろ?それはあいつらもわかっている。」
魔族は気づかない。強いのはアレクだけだと思っていたからだ。魔族の伸びた腕が切り裂かれ宙に舞っていた。
「仲間は傷つけさせない!」
ライトはいつの間にか魔族の横に立ち、聖剣を振るっていた。たまらず魔族は距離を取ろうとする。
「あら?お主はどこに向かっておる?」
モネはいやらしく笑っている。魔族は距離を取るつもりだった。しかし移動したのはライトの、しかも聖剣に目掛けて突っ込んでいた。
何が起きたか分からない魔族、ただ1つわかっているのは自分は今、心臓を聖剣に貫かれていたということだった。
魔族は何とか剣を引き抜こうと剣に触れるが、その瞬間、手が消失する。聖剣は触れられるものでは無いのだ、アレクのような例外を除けば。
そこで魔族は力尽きる。それは当然のことでもある。例え3人に倒せなくても、残り7人がまだ控えているのだ。だが英雄たちは知らない。この特級魔族は人間を殺すことが目的ではないということに。
「………選手交代だ。」
アレクはつぶやく。隣にいたエミリーはアレクを見る。魔族が死んだというのに彼は先程よりも警戒を強め、構えていた。
最初の違和感は視線だった。攻めてきたのは1人の特級魔族だと言うのに複数人に監視されているように感じた。
2つ目の違和感は敵の強さ。アレクはこの特級魔族は自分の命に届きうる脅威だと直感していた。しかし、実際攻撃をしてみた時、その直感と実際の強さのギャップに落胆していた。
それもそのはずだ。この魔族は戦うためではなく、相手の力量を測ること、そしてゲートのような存在だったのだから。
死んだ魔族の体が赤黒い霧に変わる。霧はだんだん辺りに広がって行った。異変を感じたアシュリーとライトも霧から逃れるように距離をとる。
「目当ての奴の力は分からなかったが...今回の転生体はなかなか強者が多いらしい。」
威厳のある声がその場に響き渡る。その時、アレク以外の人間も気づいた。強大な力の存在に。
「今回は小手調べだ。喜べ人間、生き残る確率がまだあるぞ。」
白く長い髪、端正な顔立ちの男性だったが、胸にある大きな瞳から、そして彼から放たれる絶望が彼を魔族だと確信させる。
全員が恐怖に染まる中、アレクだけが笑う。あれは今まで会った敵の中で一番強い。
英雄たちは戦慄する。倒すべき敵の強大さに。これが英雄たちが倒すべき相手、魔王との初めての出会いだった。
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