第4話 ダンジョン攻略
「さて、気を取り直して...この世界の魔族やダンジョンについて詳しく話していなかったので話しますね。」
力試しが終わり、テレサの魔法で3人が意識を取り戻す。記憶はあるらしく、自分たちが負けたことに驚いている。
しかし、アレクが驚いたのはライトの聖剣だった。折れた聖剣を鞘に戻すと刀身が回復したのだ。
(見立ては正しかったか。)
使用者の意思なく勝手に防御を行い、身体能力を上げ、挙句の果てには折れてもすぐさま直ってしまう。
他にも色々な能力があるに違いない。本気でなかったとしてもなかなかの脅威、彼が1番強い。彼と言うよりその聖剣なのだが。
移動が面倒になったのか、エミリーは訓練場で話を始める。周りを気にせず、アレクは地面に座る。エミリーはそれを見てため息をつきそうになるが堪える。
「まずは階級ですね。魔族には魔物、下級、中級、上級、特級があります。
魔物は魔族が生み出すことの出来る使役された獣です。一般の兵士にも対応は可能ですが、強い魔族の生み出した魔物には分隊長レベルの騎士と連携が必要です。
下級魔族は魔物の上位互換と言っていいでしょう。魔物を生み出すのは厄介ですが生み出す魔物のレベルも力も他の魔族に比べると弱いです。
中級魔族からは死を覚悟した方がいいです。まああなたたち英雄にとっては下級と変わりないでしょう。
問題は上級魔族からです。上級魔族は過去に英雄達に深手を負わせた個体も多いです。しかも上級魔族からは話すことができるほど知能も高い。もう私たちの手には負えません。」
確かにアレクが戦ったあの魔族は話をしていた。それにアレクに多少ではあるものの怪我を負わせた。
おそらくあれに直撃したらクルル以外は無傷ではすまないだろう。最も能力を使ったり、避けなかったりした場合だが。
「そして特級魔族。今まで話した魔族たちが人だとしたら彼らは自然災害そのものです。
人間に為す術はなく、圧倒的。3人で当たるように言ったのも1人はダンジョン攻略に力を入れて残り2人を万全な状態に保つためです。
それでも特級には勝てるかどうか分かりません。」
エミリーは悲しそうに俯く。おそらくそれで何人もの人が死んだのだろう。だが分からない。それほどの力があるのなら今頃、この国は滅んでいるだろう。
「魔族の目的は分かりません。ただ、人を殺すことを楽しんでいるような節があります。」
まるで人を殺すことが目的のような言い草、だがそうなったら人類がまだ生きていることに理由がつく。
彼らはおもちゃを欲している。全て壊してしまったら、そのおもちゃが無くなってしまうのだ。
「本当に...どこの魔族も変わらない......!!」
拳を握りしめ、怒りを込めてライトはつぶやく。ライトの世界の魔族もこのような感じだったのだろう。
「あなたたちにはこの魔族たちを滅ぼして欲しいんです。魔族の拠点は全てダンジョンになっています。
ダンジョン内では魔物や魔族の動きが活発になり、強さも1段階強いです。ただ拠点を破壊出来れば、そこから魔物たちがこちらに向けて出撃することがなくなります。」
世界に一体いくつダンジョンがあるのか分からないが、アレクはどうにか退屈しないですみそうだった。
「最初に攻略して欲しいダンジョンはブラックセイバーです。…止めてもアレク様は向かうと思うので。
デルタジア北東に位置するこのダンジョンは特殊で、ダンジョンを作った特級魔族、ダンジョンボスのみのダンジョンになります。
その分、他のダンジョンに比べ体力を使う必要がないのですが、ダンジョンボスの強さが桁違いです。」
未だに勝ったものが居ないダンジョン、最初に戦うのならちょうどいいのかもしれない。あとは誰が来るのかだが。
「私も行こう!」
興奮したようにアルベルトが叫ぶ。彼は戦いよりも未知の敵と出会うことに重きを置く。そういった点で言ったらアレクと攻略の相性が良い。
「ではあと2人は誰かいますか?」
エミリーの問いかけに2人が手を挙げた。
1人目はジャックだった。
「この場合、誰も手をあげないと思う。どうせ命令がくだるなら俺が行く。」
無機質な声でエミリーの問いに答える。案外、こういった命令に慣れているのかもしれない。そしてもう1人手を挙げたのは意外にもクルルだった。
「クルル、やる。アレクについて行く。」
そう言ってアレクの方を見る。視線には熱がこもっていた。
強いものに従う。それが彼女の価値観だった。人間に負けたドラゴンの王が番になったように彼女もそれを良しとしていた。
「死体や手柄はくれてやる。だが戦いに手は出すな。聞いてる限りでは面白そうだ。」
不敵な笑みを浮かべるアレク、彼は未来の敵を見据えていた。
デルタジア北東、一行はひとつの洞穴にたどり着いた。陽の光が当たっているのに中の様子が伺えない。これがダンジョン、ブラックセイバーだった。
中の様子が伺えずともアレクは感じている。あの洞穴の中には強者がいる。
「私達も中に入っていいのか?」
「ああ、ただ邪魔はしないでくれ。」
アルベルトがアレクに聞いてきた。正直、彼らに構っている暇はなさそうだった。
ダンジョンの中に入るとそこは洞穴の中とは思えなかった。何も無く、真っ白な空間が続く。そこに対称的な黒い人影が座っていた。
光を遮断しているのか黒と言うより暗黒に近い。だがこのダンジョンにはダンジョンボスしか存在していない。
あの人型こそがダンジョンボス、ブラックセイバーだった。アルベルトたちは敵が強いのかどうか感じ取れなかった、アレクを除いて。
「ハハ、アーハッハッハッハッ!!!」
アレクは笑う。敵の強さに、特級魔族の可能性に。やつはアレクの戦った魔王なんかよりも強かった。エミリーの言っていたことはあながち間違いでは無さそうだ。
そして特級魔族ブラックセイバーもこの中で誰が1番厄介なのか、感じ取る。
「レコード:
アルベルトが能力を発動する。だが戦闘には一切関係なさそうだったのでアレクは何も言わない。
そこでブラックセイバーの口が開く。口元だけが白くなった。その形は三日月のように笑っている。
「久々の人間だ。しかも自分が強いと思ってる。」
ブラックセイバーは歩みを進める。それに合わせてアレクも歩いてブラックセイバーに近づく。
「実際、強いからな。それよりも......お前は俺を満足させられるのか?」
会話はそれだけ、2人の拳がお互いに届く距離に着いた時、戦いが始まった。
ブラックセイバーは激しい連打を繰り出す。アレクはその全てを受け流している。ブラックセイバーの攻撃の隙を縫ってアレクの拳が放たれる。
ブラックセイバーは顔を傾け、それを避けると返しに蹴りを入れようとした。アレクは距離をとってその蹴りを避ける。
お互いに右手を振りかぶる。放った拳が当たったのはブラックセイバーの方だった。アレクはかすりはしたがしっかり当たっていない。ブラックセイバーは地面に転がり、数メートル吹き飛ばされた。
アレクは追撃せず、その場に立ち止まっている。ブラックセイバーもすぐさま立ち上がると右手を広げた。すると体と同じ色の鋭い剣が生成される。
「強いな。俺に剣を抜かせるほどだ。」
「出し惜しみしないでくれ。全て見る前に殺すぞ?」
「いいなぁ、人間!!」
ブラックセイバーは横に一閃、黒い斬撃がアレクを襲う。だがその斬撃をアレクは手刀で真っ二つに折る。
斬撃と共に素早く移動したブラックセイバーはアレクの後ろから斜めに切りかかる。それを理解していたアレクは体を斜めに傾け膝を折ると簡単に避けてしまう。
そのまま後ろ蹴りを放とうとしたがすんでのところで攻撃が止まる。
アレクが蹴ろうとした場所には黒い棘があった。止まった隙を見逃さず、ブラックセイバーは右足を切り落とそうとした。
「
闘力によりアレクの体は異常なまでの硬さを誇る。剣と肉体がぶつかったはずなのに金属同士がぶつかったような音が響く。無論、金属なんかよりもお互い硬いのだが。
アレクは右手の拳を握りしめる。それを見てブラックセイバーの脳内に警鐘が鳴る。ブラックセイバーは防御の構えを取った。体が球体になり、そこから鋭く、黒い棘が満遍なく生える。攻撃すれば傷を負うのは攻撃した方だ。アレクを除けば。
「
アレクの拳にある闘力は、半分が体の強度に使われ、もう半分が攻撃した時の衝撃に使われる状態だった。
黒い棘をへし折り、そのまま球体となったブラックセイバーを殴り飛ばした。ブラックセイバーはたまらず人間の状態になる。だがダメージが大きく体にヒビが入った。
今度は上手く立ち上がれず、ダンジョン端の壁に激突し、そこでやっと止まる。
(この人間今までと桁違いだな。間違いなくあの方たちと同じレベルだ。)
それはブラックセイバーがかつて目指した特級魔族の姿、だがそうそうに諦める。強くなればなるほどその実力差を理解してしまったからだ。
だがブラックセイバーの中に今あるのは負けることの恐怖ではなく、挑戦できる喜びだった。
次が最後の一撃になる。というより全身全霊を込めた最後の一撃にかけるしかアレクを倒せないと思った。まだ動けるが、それら全てを次の攻撃に投入する。
黒い剣はさらに巨大にそして黒いオーラが垂れ流されている。
「人間...認めよう。ここからは俺が挑戦者だ。俺はアルトリウス!」
高らかに宣言する。目の前にいる人間は種族として格下、だがそれでも自分よりも圧倒的に強い。魔族とは名ばかりで見えないはずの表情はどこか清々しい。
「忘れないさ。その名は俺の世界では最高の騎士の名前だからな。
アレク・カーマンだ。礼には礼を、俺の本気を見せてやる。」
一方のアレクは腰を低く、まるで刀を持っているかのような姿勢になる。その居合の構えはあるはずのない刀を想像させる。
そして闘力を全開にする。その圧力だけで他のものたちも押しつぶされそうになる。そんな姿にアルトリウスは笑った。
おそらく自分は死んでしまう。だがそれでも最後の刻が挑戦に終われたことを誇りに思う。
全ての力を込めた黒い剣をアレクに向かって振るう。だがアレクは動かない。目を瞑り、深く集中する。
アレクは刀を極めていた。前の世界でも魔王と戦う時は名工に打ってもらった刀を使っていた。刀の扱いを極めたどり着いた先、アレクは刀を持たないで刀を振るっていた。その矛盾こそが刀を真に極めたことと一緒だった。
「無刀・断絶」
黒い剣がアレクに触れそうになった時、抜刀する。あるはずのない刃が黒い剣もアルトリウスの体も真っ二つにした。
分かりきった結末、だがアルトリウスは満足そうに息絶えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます