第8話 大団円

 今度の事件において、

「これが家族観での殺人事件だ」

 ということを考えると、一人、

「蚊帳の外」

 にいるのが、次男の康人であった。

 確かに、アリバイがあるということで、康人は、捜査から外れてしまうことになる。

「ひょっとすると、犯人側は、それを狙ったのではないだろうか?」

 ということであった。

 警察の捜査というのは、

「一度、嫌疑から外れると、犯人としてではなくとも、何かのきっかけがなければ、捜査というものをしない」

 ということになる。

 というのも、

「犯人が、よく証拠品であったり、凶器などをどこかに隠そうとしたりした時、一番、安全なのは、どこなのか?」

 という場合、

「それは、一度警察が捜索したところ」

 ということになるだろう。

 一度捜索し、

「そこにはなかった」

 ということが確定すれば、同じものを探す時、一度探してなかったところを再度探すというような、

「時間の無駄」

 といえることをすることはないだろう。

 それを考えると、

「一度嫌疑から外れた康人を調べるということはない」

 というはずだったのだ。

 しかし、八木刑事は、

「彼を容疑者」

 として調べたわけではない。

 この事件を、

「もう一人、殺害計画の中に入っているとすれば、康人しかない」

 というところから調べたのだ。

 捜査本部が、こんな無駄なことを許すわけはないが、八木刑事は、

「この事件が、家族内だけの犯行だと決めつけるのは危険だ」

 ということで、

「康人の様子も聞いてみる必要がある」

 ということを言って、彼の様子を探った。

 まず引っかかったのは、

「どうやら、家族の中で、一番疎まれている」

 ということだったのだ。

 しかし、完璧なアリバイがあった。

 それも、どうやら、母親が作ったアリバイだったように見えて、

「どこかおかしい」

 と思ったのだ。

 学校で、康人の友達に事情を聴いてみると、アッサリと話してくれた。

 別に口止めをされているわけではないようで、それだけ、

「他の人に言われても構わない」

 と思っていたのだ。

 というのは、

「俺は、おやじの本当の息子はないんだ。母親の不倫で生まれた子だったんだ。血液などに疎くて、家族に対して大きな威厳を持っている父親が、そんな疑いを持つようなことはないからな。そのくせうちは、W不倫をしているんだ。俺が生まれるくらい普通にあるというものさ」

 ということであった。

 だが、父親は、思ったよりも猜疑心が強かったようで、

「康人が息子ではない」

 ということが分かっていた。

 父親はそれを、自分の胸だけに収めてきた。それは、事を大きくしたくないという思いよりも、

「何かあった時に、母親に対しての最終兵器として使おう」

 ということだったようだ。

 さらには、息子のこともよく分かっていた。だから、

「次男が次男なら、長男も長男」

 ということで、長男に対しても、

「最終兵器を持った」

 ということで、家族全員に対して、最終兵器を持っていたことで、父親が一番強かったというのも分かるというものだった。

 だが、母親も長男もそのことが分かり、

「父親を殺す」

 ということが現実味を帯びてきた。

 しかし、母親は、自分にとっての最終兵器である康人も、葬ろうと思っていた。

 兄の方も、康人に、

「ソープ嬢の彼女と結婚しようとしている」

 ということを、知ってしまったということで、

「生かしてはおけない」

 と思っていたようだ。

 それは、父親から聞かされたことであり、康人とすれば、

「聞きたくもないこと」

 ということで、父親にとって、次男はあくまでも、

「自分が殺されないようにするための防波堤」

 だったのだ。

 だが、実際に、殺されてしまった。そして生き残ったのは、次男の康人だけ。家族の愛憎絵図の中で、巻き込まれた形の康人は、

「父親の威厳」

 を受け止めている間にある程度の勘と、知恵を身に着けていた。

 だから、犯人も、事件の真相もある程度分かっていた。

 ひょっとすると、八木刑事が事件の真相に近づけたのも、八木刑事が、康人という次男に目を向けたからなのかも知れない。

 大日本帝国という時代から、今の令和に至るまでの、激動の歴史の中で、昭和の終わりからの、

「バブルの崩壊」

 という歴史的な大事件の中で起こった、不可思議な、時代背景を彷彿させるという殺人事件だったのだ。


                 (  完  )

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時代背景の殺人事件 森本 晃次 @kakku

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