第12話依頼の返答
「え? 嫌に決まっていますわ、お父様」
王宮からの手紙が届いたと聞き、公爵様の執務室へ足を運んだ私たちは、その内容を聞かされてあきれ果て、ため息をついて顔を見合わせた。どうせまた王家の無茶な依頼だろうと予想していたものの、その内容は予想以上に勝手なお願いだったわ。
えーと、要約すると、前のお茶会を失敗したから、挽回のために、何かいいアイディアはないかしら。協力してくれるわよね。ってところかしら。
「まあ、そう言うと思っていたが」
公爵様は肩をすくめ、苦笑いを浮かべながら私たちを見やった。
「お父様ったら、私たちにわざわざ確認などせずとも、即断ってくださってよかったのに」
「いや、まったく手紙の内容を知らないのもまずいだろうと思ってな。なに、もう断りの手紙は用意してあるよ。ただの確認だ」
「せっかく、先日のお茶会で好評だったタルトレットに使うナッツの種類を選んでいる最中だったのに…それに、食べられるお花についても問い合わせが殺到していて忙しいのに、協力するわけがないわ。どうせ、ただ働きさせようとしているのでしょう?」
公爵様から受け取った手紙に目を通す。
「シャルロット…お手紙には、今まで私たちを支えてきたのだから、今度は支えてほしいと書いてありますわ。ふふ、おかしいですね。物心がついたころから支えた記憶しかないのですが」
私は思わずくすりと笑ってしまった。私たちを支えてくれたのは、先代国王の王妃様と側妃様、妃教育の先生方たち。とっても素敵な方たちでしたわ。
3年前、前王妃様が病で亡くなり、すっかり気落ちした先代の国王が譲位なさってから、前側妃様とお会いすることも、ほとんどなくなってしまったけど。
手紙には支え合いという美辞麗句が並べ立てられていますけど、この3年間、どう思い返しても、私たちの一方的な負担が積み重なっていたような…。
「その通りよね。記憶を捏造でもしているのかしら。慰謝料の手続きも終わっていないのに、王家ってずいぶん図々しいのね」
シャルロットは笑いながら言った。
「まぁ、シャルロットったら…。それに、現実問題、知り合った令嬢たちの家からもお茶会のプランニングの相談があって、手が回りませんもの。時間的にも、協力するのは到底無理ですわ」
王家の気まぐれに応える…必要あるかしら?あまりの忙しさに、むしろ新たにお茶会プランニング部門を商会に設けるべきではと話し合っていたところだったくらいですし。
「そうよ、私たちだけでは手が回らないから、いっそ商会に新しい部門でも作ってしまおうかと話していたところで… あ! 待って、お父様。そのお話引き受けるわ!」
え?
驚いて顔を上げると、シャルロットがにっこりと微笑みながら公爵様に視線を向けていた。
「本気か?」
公爵様も目を丸くして、思わずシャルロットをじっと見つめた。
「ふふ、要するに、ただ働きにならなければ良いのですわ。条件次第では、こちらにとっても有益な機会にできるかもしれませんから」
シャルロットはにっこりと笑い、計画を自信に満ちた表情で話し始めた。
***
side側妃
「クラリス、あの子たちから返事が来たのですって? 」
「はい。一緒に確認しようと思い、お持ちしました」
返事が来たと知らせを聞き、慌てて受け取り、そのまま王妃様の部屋へと急いできた。
「では、読み上げてちょうだい」
王妃様は優雅にお茶を飲みながら、こちらを見上げる。あの子たちから断られる可能性など、少しも考えていない様子だわ。そんな王妃様の期待に応えられるか、私は少し緊張しながら息を整えた。
『王妃殿下、側妃殿下
王宮から退いた私たちにお手紙をいただくとは思ってもおらず、大変恐縮しております。また、私たちが主催したお茶会についてご興味をお持ちいただけたこと、心より光栄に存じます。
さて、今回のご依頼でございますが、ご存じの通り私たちはすでに王太子殿下との婚約を解消しておりますため、容易に王宮へ参上するわけにはまいりません。しかしながら、協力させていただきたい気持ちはございます。
そこで一つご提案がございます。
今回、公爵家の商会においてお茶会のプランニング部門を新たに立ち上げました。もちろん、私たち自身も関与しております。この部門を通してでしたら、安心してご協力が可能です。ただ、もし私たちが元婚約者として無償でお手伝いすることが世間に知れ渡った場合、王家の評判に影響を及ぼすことは避けられないでしょう。それを考えると、心が痛みます。
ですので、ぜひこの部門を通じてお手伝いさせていただきたく存じます。
もちろん、私たちは現在、慰謝料を受け取ろうとしている身ですので、費用は頂戴いたしません。ただ、その代わりに、王家のご厚意で我が商会をご指名いただいたことをお茶会の際にお知らせいただければと願っております。傷つき、これからの新しい人生に一歩踏み出そうとしている私たちの支えになるべく、新しい出発を応援してくださる心優しき王妃殿下、側妃殿下。きっと多くの賛辞が集まることでしょう。
何卒、前向きにご検討くださいますようお願い申し上げます。』
「まあ、さすがあの子たちね!! 誰も損をしない提案だわ!!」
王妃様は満足げにうなずき、微笑みを浮かべながら言った。
「そ、そうでございますわね」
この手紙に、私は少し違和感を覚えたが、表には出さず、ただ黙ってうなずく。この言い回し、何か他の意図が隠されているように思うが…気のせいだろうか?
「すぐお返事を出してちょうだい。ああ、これで一安心」
王妃様はもう一度、満足げにお茶を一口すすり、何事もなかったかのように、ふふっと笑った。
王家の影響力を利用して、私たちに商会を宣伝させようとしている? それだけならいいのですけど…この提案に隠された真意を見抜くのは容易ではないわ。しかし、王妃様が一安心するほどの提案となると、他にはない。最善だろう。
「それでは、すぐに手配いたしますわ」
私は決心を固め、王妃様に微笑みかけた。
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