第11話お茶会の挽回 side 側妃
side 側妃(クラリス)
王妃様に呼び出された。心が重く、足取りも自然と鈍ってしまう。ああ、すべてあのアンナという女のせいで、私の計画はめちゃくちゃだわ。いや、そもそも見る目がなかった息子、あの子自身に問題があったのではないかしら?
いったいどうしてあのような令嬢に魅了されたのか…。
『二度と貴方に頼むことはない』
王妃様の、この言葉が脳裏にこびりついて離れない。完全に見限られた形だ。幼い子でも道理をわきまえているはずだが、あのアンナときたら、何の考えもなく振る舞う…。
そんな思いにとらわれながらも、とうとう王妃様の部屋の前まで来てしまった。心臓が早鐘を打ち、手足が少し震えているのが分かる。この場で王妃様がいったい何をおっしゃるのか、どんなお叱りを受けるのか、考えるだけで息が詰まる。
意を決して、侍女長に取り次ぎを頼み、覚悟を決めて部屋の扉を開いた。
「…王妃様、お呼びと伺い、参りました」
「待っていたわ、クラリス。さあ、座って」
王妃様は、いつもの通りの優雅な微笑みを浮かべ、私に椅子を勧められた。見れば、目の前に美しいティーカップとお菓子が整えられている。普段なら嬉しいはずの優雅なひとときも、今の私にとっては重い苦しみを伴う。
「王妃様…申し訳ありません。王太子があんなに見る目がないとは…。私たちが全身全霊で選んだ候補を差し置いてまで、あのような令嬢を選ぶとは…。ううっ」
悔しさと悲しさが押し寄せ、言葉を続けるうちに、気付けば涙が頬を伝っていた。
「クラリス、泣かないで。王太子は私たちの息子よ。あなた一人に責任があるわけではないわ。私にも、そして国王陛下にも責任があるの。今後のことは一緒に考えましょう。これは私たち全員の問題なのだから」
王妃様の優しい言葉に、胸が熱くなる。ああ、なんてお優しい方なのだろう…。けれど、これはきっと私にとって最後のチャンス。ここで失敗するわけにはいかない。王妃様のご機嫌を損ねるなど、絶対に許されないことだわ。
「そうね、まずは、あの散々なお茶会を挽回しなければいけないわ。でも、しばらく私たちは、お茶会の準備を自ら手がけていなかったでしょう? アンナにはまったくセンスがなかったのだから、どうしましょう。あなた、何かいいアイディアがあるかしら?」
お茶会…。あのお茶会を思い出すだけで胃が痛くなる。王妃様、いえ、私のセンスまでもが疑われたのではないかと、焦りと恐れで胸が詰まる。そんなとき、ふと、以前耳にした話が蘇ってきた。
「王妃様。実は、王太子の妃候補を当たっていた時に、ある噂を耳にしましたの」
「噂?」
「はい。シャルロットとエルミーヌの二人が開いたお茶会がとても斬新で、素晴らしかったと聞いております」
その噂が広まったことで、多くの令嬢が『そんな二人の代わりにはなれません』と、妃候補を辞退してしまったのだ。
「斬新? 詳しく教えてちょうだい」
私は知る限りの話を、細部まで漏らさず伝える。食べられる花、優雅で洗練された空間、華やかなフラワーアレンジメント、そして手土産までもが特別だったという噂の数々を、王妃様にお話しした。
「まあ、なんて素敵な…! でも、悔しいわ。王宮にいた頃にそんなことをしてくれていたら、私たちの評判もずいぶん上がったでしょうに。ねえ、あなたもそう思わない? クラリス」
「え、ええ。そうですわね、王妃様」
何度も、格式ばかりを重んじて新しい案を却下してきたのは誰だったのか。けれど、それを口にするのはあまりに無礼だ。私は何も言わず、ただうなずくだけだった。
「そうね…。そうだわ! あの二人に、こっそり頼むことはできないかしら? 普通のお茶会では、もはや挽回しきれないと思うの」
「こっそり頼む…とおっしゃいますと?」
「そう。王太子が婚約を駄目にしたとはいえ、私たちは何も知らなかったし、彼女たちのことは幼い頃から面倒を見てきたわ。まるで娘のように愛情を注いできたもの。きっと、王宮が窮地にあると知れば協力してくれるはずよ。もちろん、王太子の件があるから堂々と王宮には呼べないわ。でも、公爵家に手紙を送れば、私からのお願いを無下にはしないでしょう」
王妃様は満足そうに微笑みながらお茶を口に含んでいたが、私の心は複雑な感情で揺れ動いていた。今さら王宮のために動いてくれなどと、どれだけずうずうしい頼みか…。
「確かに、王妃様のおっしゃる通りです」
「そうでしょう? 彼女たちの協力さえ得られれば、王室として再び品位あるお茶会を開くことができるわ」
王妃様の瞳には、目的を達成するための強い決意が宿っていた。王妃様の真摯な願いと、この場に漂う緊張感をひしひしと感じながら、私は頭を下げ、静かに言葉を発した。
「王妃様、早速彼女たちに手紙をお送りし、こちらのお茶会に助力するよう伝えます」
今さら、王宮のために協力を頼むなど、まるで自己中心的な要求のように感じる。しかし、王妃様はそんな私の葛藤には気づかない様子で、満足げに笑みを浮かべ、お茶をゆっくりと楽しんでおられた。
「ええ、きっと協力してくれるわ。私たちが彼女たちに注いできた愛情と努力を、あの二人はよく知っているもの。クラリス、これからも共に力を尽くしていきましょう。私たちなら、きっとアンナ、いいえ、王太子の失敗さえも挽回できるはずよ」
胸の中で、しっかりと決意が固まっていく。いかなる策も講じる。それが側妃としての私の役割であり、息子である王太子のためでもあるのだから。
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