第10話いいわね! お茶会!
「ダリオが張り切っているから、ドレスができるのはまだまだね」
シャルロットは、苦笑いしながらそう呟いた。数回にわたる採寸やデザインの打ち合わせは、念入りすぎるほどだった。ダリオは完璧を求める性格で、彼の細部へのこだわりには、私たちも圧倒されるほどだ。
「布はこれしかないのですよ! 絶対失敗などできません!」
ダリオが、鬼気迫る勢いで宣言するから、思わずその場で一歩後ずさりしてしまったわ。
「エルミーヌは、何かやりたいことはない?」
えーと、やりたいこと。刺繍や読書をのんびりと楽しみたい気持ちはあるが…そういうことではないわね、きっと。あっ!
「お茶会なんてどうですか?」
「いいわね! お茶会!」
シャルロットの顔が一気に明るくなる。
「王妃殿下主催のお茶会はご婦人ばかりでしたし、私、同世代の子たちとお茶会をしてみたいのです」
「わかるわ。今後のことを考えたら繋がっておきたい家もあるし。あまりにも定番から抜け出さないお茶会にも飽きていたところだったのよね」
王妃殿下の指示のもとでは、決まりきった形式や伝統に縛られ、茶葉一つ変える提案をするだけで、厳しい顔をされることも多々あったもの…。せっかくのお茶会も、楽しみというよりは儀礼的な行事と化していたわ。
どんなに頑張っても成果は妃殿下たちのものだし。せめてもっとねぎらっていただけたらやりがいもあったのに…。
「よし! そうと決まったらエルミーヌ。打合せをしましょう!」
シャルロットの言葉に、自然と気持ちが高まった。自分たちで自由に企画できるお茶会というのは、思っていた以上に楽しそうだわ。
どんな人を招待し、どんなお菓子や茶葉を選ぶか、そんな考えが頭を巡り始めた。
**********
side とある伯爵令嬢
憧れのあのお二人から、私にお招きが来たわ。彼女たちを遠くから眺めるだけで満足だった私が、実際にお茶会に参加できるだなんて、ああ、まるで夢のよう。思わず、胸が高鳴るのを感じたわ。
少し前、お二人の婚約が解消になったと知り、心を痛めたこともあったけど、こうしてお茶会を開いてくださるということは、お二人も気持ちを取り戻されている証拠。そう思うと、心から喜びを感じた。
お茶会当日は、本当に夢のようなひとときだった。空は雲一つなく、春の柔らかい陽射しが庭に降り注ぎ、会場全体が温かな光に包まれていた。テーブルと椅子がきれいに並べられた芝生の上には、色とりどりの花々が咲き誇り、まるで絵画の中にいるかのような美しい光景が広がっていた。
「お天気も最高ね。こんなに素敵な場所でお茶会ができるなんて」
隣に座っていた友人、アナスタシアが楽しげに話しかけてきた。私はその言葉に微笑みながら応えた。
「本当にそうね。晴れた庭でのお茶会、まるで物語のワンシーンみたいだわ。今が永遠に続けばいいのに」
テーブルには、アールグレイの香りが漂う紅茶が注がれ、色とりどりのティーカップが並んでいる。その香りは、心地よく、私たちを包み込むようだった。ティーカップを手に取ると、その軽やかな温もりが指先に伝わり、ふわりとした香りが鼻をくすぐった。
「ああ、すごくいい香りだわ」
周りを見ると、他の参加者も微笑みながらお茶を楽しんでいた。
テーブルには、新鮮なフルーツとともに提供されたタルトレットが美しく並べられている。その美しさに思わず目を奪われた。
「エレオノーラ、このタルトレット、見た目も美しいけれど、味も格別ね」
アナスタシアは、感嘆の声を漏らした。タルトレットを口に運ぶと、その優しい甘さと風味が広がり、心から満足する瞬間が訪れた。ああ、幸せだわ。
お茶会には、小さな令嬢たちも招待され、楽しそうにティーセットで遊んでいるのも微笑ましかった。
「見て、あの小さなティーセット、まるでお人形遊びみたいで可愛らしいわね」
「本当ね。こういう光景を見ると、私たちも子供の頃に戻りたくなるわ」
小さな令嬢たちは、そのティーセットを使って、自分たちの小さな世界でお茶会を開いているようだった。
そんな会話をしていると、突然歓声が上がり、会場の一角がにわかに賑やかになった。振り返ると、サプライズのケーキが登場していたのだった。ケーキの周りには、食べられる花々が美しく飾られ、幻想的なデコレーションだった。
「この花、食べられるのですって! 花が食べられるなんて、妖精にでもなった気分だわ」
アナスタシアが小声で冗談を言い、私は思わず笑ってしまった。しかし、美しい花を食べる令嬢たちは、それだけで可愛らしく見える。
素敵な時間は、あっという間に過ぎた。お茶会もそろそろ終わりという時間を迎え、庭ではフラワーアレンジメントのデモンストレーションが始まった。
「最後にフラワーアレンジメントが披露されるみたいよ。行ってみましょう?」
促されて一角に集まると、そこには美しい花々が巧みに組み合わされ、ブーケが次々と作り出されていた。その華やかな光景に、私は時間を忘れて見入ってしまった。
「こんなに素敵なブーケを作るなんて、まるで魔法だわ」
「本当にそうね。花たちが生き生きとしているわね」
ため息をつきながら見入っていると、シャルロット様とエルミーヌ様がいらっしゃり、優雅にデモンストレーションを見守っていた。やがて、お二人が、参加者に向けてお言葉を述べられた。
「本日はご参加いただき、心から感謝いたしますわ。こちらのブーケは、皆様にお持ち帰りいただけるよう準備しております」
そうおっしゃると、お二人が自ら美しいブーケを一人一人に手渡してくださった。私は、感動で手が震え、声が出せないほどだった。
お茶会は終始、優雅で穏やかな雰囲気に包まれており、参加者全員が笑顔で楽しんでいた。会場を後にする際、私はお二人に心からの感謝を伝えた。
「今日は本当に素晴らしいお茶会でした。お二人のお心遣いに、感謝の気持ちでいっぱいです」
シャルロット様とエルミーヌ様の微笑みを目にした瞬間、私は胸がいっぱいになり、言葉が詰まりそうになった。
帰り道、会場を後にしながら、私は幸福感に包まれたままだった。馬車の中で、今日の出来事を何度も思い返していた。これ以上のひとときがあるだろうかと、そう思わずにはいられなかった。
ああ、皆に自慢しよう!!
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