第1話 四月に見た夢

 私立篠宮高等学校。これが僕の入学する学校だ。そして、今日は入学式である。と言っても大体の生徒は、中学校からのエスカレータで、ほんとうの意味で入学したのは10名ぐらいだが。おかげであまり緊張感や不安はない。なんなら、春のぽかぽか陽気によって、校長の言葉をBGMに穏やかに眠れそうだ。

「…では、代表生徒挨拶。代表生徒は登壇してください。」

 一応、この学校にも代表生徒というものがあるらしい。まあ、僕らも入試みたいなものはあったのだが…。

 代表生徒の女子が少し緊張した面持ちで段を登る。知らない顔だ。もしかしたら、というか。ほぼ確実に外部からの入学だ。顔がとても整っており、一部の男子が小声で話している。

「あの子、可愛くね?」とか「まじで?」とか。他愛もない会話。別に、だからといって、告白しようとかではなく。単に可愛いという情報をアウトプットして伝えることで、自分の感性の普遍性を確かめているのだろう。

「代表生挨拶」

 少し裏返ってしまったが、特別大きい声でもないのによく通る。いい声だと思った。ただ聞き覚えがあった。そんな気がした。


「冬木茉由」 


 ああ。なんで気づかなかったのだろう。久しぶりに見た彼女は前の面影。幼さを残しつつも成長していた。少しだけ残念に思う。そう思ったことを残酷だ。とも思った。

 

 彼女、冬木茉由は僕の親友というものに当たる。小学校から中学校1年生にかかてほぼ同じ時を過ごしたと言っても過言ではない。


 彼女は特に問題がない…とは口が裂けても言えないが。悪意があったり、不真面目だったりという生徒ではなかった。


 むしろ、人間としてみたら、善の中の上澄みに入るだろう。彼女は、泣いている人はに放っておけないのだ。 

 

 そんな彼女に僕は会いたくなかったのだ。嫌悪感や侮蔑からでなく。純粋にもう見たくないのだ。思い出のまま、僕のヒーローのままでいてほしかったのだ。

 

 その日の夜。夢を見た。遠い遠い宇宙のどこかに居て、とても苦しくて、でも温かい気がして。ただやっぱり苦しいから、逃げようとして。とてもきれいな星を見つけて。その星の光に飲まれてしまう。そんな夢。

 僕にとって星は遠くから眺めていれば、それでいい。諦めとかじゃなくて、それで良かった。それが良かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る