交換女
明鏡止水
第1話 私は今日もだれかとつながり「交換」する
わたしはさびしい。
寂しい。寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい淋しい。一人は嫌。一人でいるのも一人だけなのもひとりぼっちなのも一人っ子なのも全部全部耐えられない。孤独で孤独でしょうがなくて毎日弱音で自分を作ったり使ったり纏ったり膨らませたり空っぽになったり一生懸命独りを詰めて詰めてぬいぐるみになっている。
私はあらゆる映画やアイドル、漫画、アニメ、ドラマ、外国の文化に精通している。でも一人。ずっと一人。
家が厳しくて高校を出て初めて、スマートフォンを買ってもらった。最初はまず、機能を使いこなすこと、電話をすること。家族と塾の送り迎えのLINEのやりとりで数年が経ち。私は、大学生になり、それでも一人で。そんな頃。
「パリピはインスタ! 陰キャはツイッターっしょっー!」
と誰かが叫んでいるのを聞いた。
勇気を出して、どちらのアプリもダウンロードしてみた。
あとから、見知らぬものは全てYahoo!知恵袋とか、検索で情弱なるものから脱すれば良かったと嘆くが、それはまた別の話。アプリとやらをスマホの中にダウンロードしていいのかすらわからなかった。
ある日飲み会で、わたしはちびまる子ちゃんみたいな見た目に、のぐちさんみたいな暗さを持って飲み会やら歓迎会やらサークルらしきものに参加させてもらう……。
「◯◯さんてさァ〜、メンヘラっぽぉいヨねー!!?」
と、話しかけられたので
「めんへら? ってなんですか? メルヘンのなか、ま……?」
とか……。
と訥々と疑問を宙へ浮かばせると、相手はつまらないなあ、という顔で「マジ?」と言って去って行った……。
もういやだ、もういやだもういやだもうイヤだモウイヤダもう、い や だ ! !
ああああっ!!!!!
失敗する失敗する失敗する!!!!! 一人の一人の時間の一人だけのひとりのわたし!!!!! 全部!!!!! ひとりだから!!!!! だれかいたらわたしだって!!!!!
人気者になりたいわけじゃない。ただ。ただ、わたしは! わたしは……!
大学を出て、学部が経済学部だったので銀行に面接に行って受かったり。閉店間際に一円でもお金が合わないと帰れなかったり。女性でもガンガン高速に乗って他の支店を回ったり。慣れなくて転職をしたり。手取り十六万位の会社で事務員をしたり、日々を、わたしは……生きていたけれど。
そんな私の休日は。
〈X
こちらのお品、交換お願いします。
譲→デク
求→焦凍
※画像 ID〉
〈7Fエレベーター付近にいます。
交換してくれる方おねがいします〉
ピコン♪
〈失礼します。
そちらのお品譲っていただけますでしょうか?
ショート君待ってます!
※画像
現在同建物のコラボカフェにおりますので交換お願いします!〉
嗚呼……ッ! 嗚呼!!
〈ダイレクトメール〉
〈承知しました。ちょうどカフェにも寄る予定でしたので、そちらに行かせてください。いずきゅん♡さんの特徴などお聞きしてもよろしいですか?〉
つ な が っ た ! !
〜同建物内、コラボカフェにて〜
「あのぅ! ミドリ🥦さんですか?」
できるだけ、清潔で、大人な、その作品を読んで育ち、かつおしゃれなオタクのお姉さんとして振り向いて……。
「はい」
メイクもナチュラル。持ち物はクリアファイルが入った手提げと小さなショルダーバッグ。
手には綿の手袋を用意。
「いずきゅん♡さんですか?」
私はまだ高校生か、専門学生か、控えめなクラシックな服装をした女の子と向き合う。
「あの、すみません、そうです、私! 交換初めてて!! ナニカ失礼ないですか?!」
「だいじょうぶです♡ デクくんのアクリルカードでいいですか? この画像の?」
わたしはあらかじめ100均で買っておいた硬質ケースに入れた交換のためのモノを持ち出す。相手の目が煌めく。
「ああわあ! はい! その絵柄のやつです!
あのっ、ミドリ🥦さんの欲しいのは、ショート君でダイジョブそうですか?! ミドリ🥦さん、名前がデク君推しっぽいので……」
私は一呼吸、置いて。
「じつは、二枚同じ特典が出たの。あとかっちゃんも。だから、焦凍くんむかえたいなー、って。オリジン♪」
「ああ! それならよかったです!! 私はいずくくん一筋なので♪ すみません、私、ケースとか保護のOPP袋とか用意してなくて、トレードしていただけるでしょうか……? 初期傷とか、手垢とかついてたらヤですよね」
「いいの!」
つい、食い気味に答えてしまった。
「いいの、欲しいものが手に入ったし、欲しい人に欲しいものが渡ったった方が。だから、良ければこの保護ごと貰ってください。人の硬質ケースが苦手だったら外してお渡しします!」
だ か ら 、
わ た し と 、
「そこまで神経質とかじゃないのでだいじょうぶです! むしろ嬉しいです!」
交換お願いします!!!!!
「ありがとう」
心から、あなたに……。
まだランダムで出た缶バッジに、ポストカードに、マグネット、アクスタ。
開封してないトレーディング商品はまだある。
休憩スペースで、今月切り詰められるだけ切り詰めたお金で買ったグッズを開封して眺める。
作品自体好きだ。
でも。
わたしはさびしいから。
またXを開く。
イベント名や作品名の後に検索欄に「交換」と付け足す。
譲る、求める。譲る、求める……。
わたしも、譲っているの、自身の寂しさを。
そして、欲しいもの同士を「交換」しあうことで、つながりや人のゆくもりを求めてる……。
つぎは、わたしからコメントする。
……これが、わたしの、ひととのつながり方。
ひとりじゃないと、思える方法。
トレード〈交換〉。
あなたの笑顔と、わたしのしあわせ、両方手に入れませんか?
交換女 明鏡止水 @miuraharuma30
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