第19話 探索チーム 1

《side 佐渡太一》


 探索チームのメンバーは、柴田を含む体育教師1名と、生徒が4人。そのうち3人は男子学生で、もう1人は女子生徒だった。


「さて、みんな準備はいいか?」


 大人であり、教師の柴田が声を張る。


「はい!」


 学生たちはほぼ一斉に返事を返すが、どこか緊張した雰囲気が漂っている。俺はその様子を観察しながら、各々の様子を確認していた。


「佐渡さん、探索中は私の指示に従ってください」

「ああ、構わない。ただし、俺は俺で動くつもりだ。必要があればサポートするが、期待しすぎるなよ」


 柴田は少し眉を寄せたが、それ以上は何も言わず頷いた。


 俺たちは学校の外に出て、廃墟と化した街並みを歩き始めた。生徒たちの緊張は目に見えてわかる。彼らが手にしているのは、見たこともないような武器や装備だったが、どれも部活動に由来するようだ。


「お前たち、それがジョブの装備か?」


 俺が問いかけると、男子生徒の一人が答えた。


「ええ、僕たち、ジョブを持ってるんですけど……どれも部活の延長みたいなもので……」


 その言葉に、俺は興味を引かれる


 麻田:野球部出身。ジョブ「野球選手」。スキルは「投擲スキル」、特殊「打ち返し」。グローブとバットを持っている。


 馬場:剣道部出身。ジョブ「剣士」。木刀を持ち、スキルは「剣道」、特殊「精神統一」。


 蝶野:陸上部出身。ジョブ「飛脚」。スキルは「陸上競技」や特殊「スタミナアップ」。彼の足元にはスパイクシューズ。


 的場女子高生:弓道部出身。ジョブ「弓使い」。スキルは「弓道」、特殊「必中」。手にしているのは和弓。


「……なるほど、部活動ベースか。面白いな」


 俺は彼らの装備を見て感心しながらも、若干の不安を感じていた。確かに部活由来のスキルや装備は馴染みやすいだろうが、それで実際にモンスターと戦えるのか?


「お前たち、そのジョブでモンスターと戦ったことはあるのか?」


 俺の問いに、陸上部の男子が少し胸を張って答えた。


「はい! 僕たち、学校周辺を警戒するときにモンスターを倒してます。慣れない時は怖かったけど、スキルを使えば何とかなりますよ!」


 頼もしい返事だが、心のどこかで油断しているようにも見える。


「タイチさんはどうなんですか? その……『奴隷商人』とかいうジョブで戦えるんですか?」


 野球部の麻田が俺に尋ねた。


「戦えるさ。俺の武器はこれだ」


 俺は腰に下げた鞭を持ち上げる。その姿に、生徒たちの視線が集まった。


「え……それ、鞭? どうやって戦うんですか?」


 弓道部の蝶野が驚いたように聞く。


「見てればわかるさ」


 俺はそう言いながら、探索を進める。


 街を進む中、瓦礫の影から低い唸り声が聞こえてきた。


「モンスターか……みんな、気をつけろ!」


 影から姿を現したのは、2匹のゴブリンだった。ナイフのような短剣を持ち、不気味な笑みを浮かべている。大した相手ではないが、油断もできない。


「よし、俺たちの実力を見せる時だ! みんな、持ち場について!」


 柴田が指示を出す。野球部の男子は遠くからボールを握り投げつける。彼の投げたボールは凄まじい速度でゴブリンの頭部を直撃し、一匹が怯んだ。


 剣道部の男子は木刀を構えて接近し、「一閃!」とスキルを発動する。木刀がゴブリンの胸に命中し、黒い血が飛び散る。


 陸上部の男子はゴブリンの背後に回り込み、素早い動きで注意を引き付ける。


 弓道部の女子は弓を引き絞り、「射!」と叫びながらゴブリンの肩を射抜いた。


「……なるほど、意外とやるじゃないか」


 俺はその様子を見ながら、最後に残ったゴブリンに向かって鞭を振る。


「これが俺のやり方だ!」


 バチン! 鞭がゴブリンの首元を叩きつけ、勢いで地面に倒れ込む。続けてもう一撃を加え、ゴブリンは完全に動かなくなった。


「……すごい」


 弓道部の女子が驚いた声を上げる。他の生徒たちも、俺の戦いぶりに感心した様子だ。


「ふん、鞭もなかなか使えるもんだろ?」


 俺が笑みを浮かべると、柴田が頷きながら言った。


「佐渡さん、あなたが加わってくれて正解だったようだな。これなら探索も少し安心して進められる」


 俺たちはその後も警戒を続けながら、廃墟の街を探索した。生徒たちのスキルは確かに実戦的だったが、まだ未熟な部分もある。


 探索の終盤、俺たちは古びた商店街に差し掛かった。そこで目にしたのは、瓦礫の中に埋もれた倉庫だった。


「柴田先生、あれ……物資が残ってるかもしれません!」


 剣道部の男子が指を差し、柴田が頷く。


「よし、確認してみよう。ただし、警戒は怠るな」


 俺たちは倉庫に近づき、扉をこじ開けた。その中には確かに物資が残されていたが、同時に奥から低い唸り声が聞こえてきた。


「またか……構えろ!」


 柴田の声に、生徒たちは再び武器を構える。俺は鞭を手に取り、目の前の暗闇に視線を向けた。


「さて、次はどんな相手だ?」


 暗闇の奥から、巨大な犬のようなモンスターが姿を現した。その目は鋭く光り、鋭い牙をむき出しにしている。


「おいおい、次は一筋縄じゃいかないかもな……」


 俺は薄く笑みを浮かべながら、再び鞭を握り直した。戦闘の緊張感が高まる中、俺たちは次なる戦いに挑もうとしていた。


 瓦礫の街に響く低い唸り声。巨大な犬型モンスターが倉庫の奥からゆっくりと姿を現す。


「ハイウルフか……厄介だな」


 そいつは明らかに先ほどのゴブリンとは格が違う。鋭い牙が光り、地面を引き裂くような足音が重く響く。その目には獲物を狙う本能が宿っていた。


「みんな、冷静に動け! 一斉に攻撃すると危険だ!」


 柴田が鋭い声で指示を出す。生徒たちは武器を握りしめ、緊張した面持ちでハイウルフを囲むように動く。


「佐渡さん、どうしますか?」


 俺は鞭を握り直し、軽く笑って答えた。


「俺が指示を出すのか?」

「……我々だけでも問題ありません」

「なら、見ているよ」


 生徒たちは緊張しながらも頷き、それぞれのポジションに散る。


 ハイウルフ型のモンスターが吠えた瞬間、陸上部の男子がスキル「加速」を発動した。


「俺が引きつけます!」


 彼は高速でケルベロスの周囲を駆け回り、注意を引きつける。その動きは素早く、ケルベロスの目が追いきれないほどだった。


「よし、今だ!」


 弓道部の女子がスキル「遠射」を発動。鋭い矢が放たれ、ケルベロスの前脚に命中する。


「よし! 一撃入った!」


 だが、ハイウルフはひるむどころかさらに怒り狂い、陸上部の男子に突進していく。


「危ない!」


 俺は鞭を振るい、ハイウルフの足元を狙った。


「絡め取れ!」


 鞭が足に巻き付き、ハイウルフの動きを一瞬止める。その隙を見て、剣道部の男子が木刀を構え、「一閃!」のスキルを発動。ハイウルフの背中に深い一撃を入れる。


「やったか……?」


 だが、ハイウルフはまだ動きを止めない。咆哮とともに剣道男子に向かって牙を剥いて突進してくる。


「タフだな!」


 俺は鞭を引き戻し、再び振りおろす。ハイウルフの首元を狙い、さらに動きを封じた。


「佐渡さん、援護します!」


 野球部の男子がスキル「高速ボール」を発動。凄まじい速さのボールがハイウルフの頭部を直撃し、怯ませた。


「これで決めます!!」


 弓道部の女子が矢を番え、スキル「連射」を発動。矢が連続して放たれ、ケルベロスの胸元に命中する。


 最後に柴田がスキル「鉄拳」を発動し、拳をケルベロスの頭部に叩き込んだ。


 しかし、ハイウルフは動きを止めることなく、生徒たちに襲いかかった。


「見ていられないな」


 俺は援護だけのつもりだったが、「拘束の縄」を発動して、ハイウルフの亀甲縛りを完成させる。


「えっ?!」

「うわっ!?」

「終わらせる。躾のなっていないワンコは黙って寝ていろ!」


 そのまま鞭でハイウルフが消滅するまで躾を行った。


「ふぅ……終わったか」


 俺は鞭を下ろし、深く息を吐いた。


「すごい……」


 弓道部の女子が感嘆の声を上げる。生徒たちは互いの健闘を称え合い、ほっとした表情を浮かべている。


「お前たち、意外とやるじゃないか」


 俺は軽く笑いながら彼らを見た。確かに彼らのスキルは実戦で十分に役立つ。部活動由来という制限はあれど、それを補うだけの努力が感じられた。


 

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変わり果てた世界で奴隷商人という、支配する力で俺は生き残る。 イコ @fhail

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