第18話 ナオのスパイ調査!

《side 佐渡太一》


 体育館を後にして廊下を歩く中、ナオは不安げに俺の顔を見上げた。


「タイチさん、本当に協力するの? なんだか、桐谷さんたちの雰囲気が怖かったよ」


 ナオの声には、純粋な疑念と不安が混じっている。だが俺は、彼女の不安を一蹴するように肩をすくめた。


「協力するふりをするだけだよ。あいつらの本性を知るまではな」


 ナオは目を丸くする。


「ふりって……?」

「ナオ、お前にはこの学校の現状を調査してもらう。教師がいるのに桐谷真奈がリーダーをしているのもおかしい。だから、桐谷たちが本当に信頼できる連中かどうか、それとも隠している何かがあるのか。情報が必要だ」


 ナオは唇を噛みしめながら立ち止まった。


「私が調べるんだね!」

「そうだ」


 俺は歩みを止め、彼女をまっすぐに見つめた。彼女は嘘がつけるタイプではない。だから、桐谷もナオなら信じるだろう。


「ナオ、お前が一番適任なんだよ。この学校にいた生徒として、馴染みやすいだろう。それに、俺が入っていくと、どうしても外部の人間として警戒される。お前なら、あいつらの警戒を緩められる」

「うん……私もマナちゃんが何を考えているのか知りたい」


 ナオは決意したように頷いてくれる。


「ルリちゃんの時もそうだけど、私、そんなにうまく立ち回れないよ……」


 俺は彼女の肩に手を置き、静かに語りかけた。


「ナオ、俺たちはこの世界で生き残るために何でもしなきゃいけない。それは、お前がここに戻って来た意味を探ることにも繋がるんだ」


 ナオはしばらく沈黙していたが、やがて小さく頷いた。


「わかった……私、やってみる」


 彼女の表情には不安が残っていたが、それでも覚悟を決めたようだった。


 俺はナオをスパイとして、桐谷を調べる。


 探索チームのメンバーが選ばれ、俺もその一員として参加することになった。


 ナオは探索には同行せず、学校に残ることになって、桐谷はナオに向かって微笑む。


「ナオさん、今日はここで少し休んでいてください。昨日の移動でお疲れでしょうから」

「はい……ありがとうございます」


 ナオは頭を下げる。だが、その目には、俺との話で芽生えた覚悟が微かに宿っている。



《side曽根奈緒》


 この世界になってから、初めてタイチさんと別々に過ごすことになる。それはなんだか不安で、どれだけ私がタイチさんを頼りにしていたのか考えてしまう。


 だけど、タイチさんが私を頼りにしてくれた。だから頑張るんだ。私はマナちゃんたちが悪い人じゃないって、タイチさんにわかってもらえばいいだけだよね。


 だから、私は学校内を歩き回っていた。


 生徒たちはそれぞれ自分の役割をこなしながら忙しそうに動いている。体育館では物資の管理が行われ、廊下では数人の先生たちが今後の計画について話し合っていた。


 私は誰にも気づかれないように耳を澄ませながら歩き、何か手がかりがないか探した。そんな中、生徒の一人が、小さな部屋の扉を閉めるのが見えた。


「あそこ……」


 気になった私は、そっと扉に近づき、中の様子を伺った。


 中には三人の生徒がいて、机の上に地図を広げながら小声で話し合っていた。


「……だから、このエリアには近づかないほうがいいって言っただろ!」

「でも、あそこにはまだ食料が残ってる可能性が高いんだ」

「危険すぎる。モンスターだけじゃなく、他のグループも徘徊してるって話だし……」


 彼らの会話は、学校の周辺状況についての情報だった。


「他のグループ……?」


 私は心の中で繰り返した。桐谷さんたちは、学校内で安全を確保しているだけだと思っていた。でも、どうやら外部との接触があるらしい。


「それに、桐谷さんが言ってたじゃないか。『無駄な争いを避ける』って」

「でも、そう言いながら、結局こっちを犠牲にするのは嫌だぞ」


 その言葉に、私はハッとした。桐谷さんたちが何か隠しているのではないかというタイチさんの疑念が、現実味を帯びてきた。


 私はその場を離れ、さらに探索を続けた。次に目に入ったのは、校舎の奥にある施錠された倉庫だった。


「こんなところに……」


 鍵がかかっているのは不自然だった。校内にある備蓄物資ならば、もっと使いやすい場所に置かれるはずだ。


 私は近くにいた先生に声をかけた。


「すみません、この倉庫って何が入っているんですか?」


 先生は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに曖昧な笑みを浮かべた。


「ああ、それは……壊れた机や椅子なんかが入ってるだけだよ。気にしないでいい」


 だが、その言葉には不自然さがあった。私の直感が、この倉庫がただの物置ではないと告げていた。


「そうなんですか……ありがとうございます」


 私は先生に礼を言い、その場を離れた。


 みんなところどころで何かをしながら、何かを隠しているような気がするけど、私はあまり考えるのが得意じゃない。だから私は見て、聞いたことをタイチさんに報告するだけだ。


「ナオさん」

「マナちゃん!」

「何をしているんですか?」

「えっ? 私も手伝えることはないかなって!」

「そうですか、てっきり学校内を探っているのかと思いました」


 マナちゃんは笑っているのになんだか怖く感じてしまう。


「タイチさんは悪い人じゃないよ」

「えっ?」

「だから、タイチさんにもマナちゃんが悪い子じゃないって知ってもらいたいの」


 私はマナちゃんとタイチさんが協力した方がいいと思う。


「そう、あなたは変わらないのですね」

「えっ?」

「いえ、なんでもありません。ですが、あまり歩き回らないでください。何かあれば、私の方からナオさんに頼みますから」

「うん! わかったよ!」


 私はマナちゃんとお話をしながら、部屋に戻った。少しだけ見たことをタイチさんに話さないと……。


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