第10話 KING

「ふぅ。」


 リチュは、ダイヤを『炎の槍ファイアランス』で燃やした後、周りに生きているものがないことを確認すると、『ヒューマ』の村から外に出る。

 しかし、リチュは重傷で、森の影で倒れてしまった。


 ──────────


 明日に行うショーの準備を終えた黒髪のメガネ女は、ダイヤに連絡を取ろうと通信機を手に取る。


「やれやれ。ここの所忙しくて、ダイヤに『ヒューマノン』について教える暇がなかったな。しかし、明日で子供の在庫も無くなるし、ついでに伝えておくか。」


 しかし、ダイヤからの応答は無く。通信機からは「プルルルル」と、発信音が流れるだけだった。


「おかしいな。あいつからの応答がない。」


 女は次に、クローバーに連絡をする。


「ん?スペード。どした?」


 クローバーとは連絡が取れ、女は静かに現状を伝える。


「実はな、ダイヤと連絡が取れなくてな。もしかしたら、あいつに何かあったのかと思ってな。」


 女の真剣な言葉に、クローバーは馬鹿にしたように答える。


「ぷふー。何かあったって、何があるのよ。アタイら悪魔が、死ぬわけないじゃん。腕を吹き飛ばしたり。脚を切り落としたり。首を絞めたり。何度も試したじゃない。」


「ああ。だが、胸騒ぎがしてな。どうかお前からも連絡してみたり、一緒に探してもらえないだろうか。」


「はぁ。仕方ないわね。いいよ。」


「礼を言…」


 女が礼を言う途中で、クローバーがそれを遮った。


「しかーし!もちろん、タダじゃないよ!『クラウンバーガー』10個。おごりなさい!」


 女は、クローバーの言葉を聞き終えると、「はぁ。」とため息をつき、笑顔で返す。


「お前らしいな。ただ、あまり食べすぎるなよ?太るぞ。言っておくが、『スペード』は長身で細身の男性だからな?縦ではなく、横に大きくなっても意味ないぞ。」


 女の皮肉に、クローバーは「う、うるさいわね!このちんちくりん陰キャ貧相女!!」と叫んだ後、連絡を切る。


 女は「へへっ。」と笑い、机の隅にある写真を見る。

 机の上にある、菓子の袋やハンバーガーの包み紙で隠れかけている写真。そこに映る、風船を少女に渡す、大柄なピエロを見ながら、女は思い出す。


 ──────────


「♦♦♦。夕飯の用意が出来たぞ。」


 視界には、黄色い大柄なピエロが背を向けている姿があった。


「ああ、悪い。すぐに行く。」


 大柄なピエロが立ち上がると、彼で隠れていた、大量の黄色い風船が姿を見せる。


「すごい量だな。何個作る気だ?」


「千は作るつもりだ。今夜は徹夜だな。」


 彼は「ヒヒヒ。」と笑う。


「そんなに作る必要は、無いんじゃないか?ウチに来る子供なんて、手で数えられる程しか来ないじゃないか。」


「ヒヒ。いつ、ガキ共がダチを連れてくるか分からんからな。1人でも仲間はずれが出来たら可哀想だろう?」


 口は悪いながらも、優しい口調の彼が映り、記憶の中の彼が消える。


 ──────────


 女は、いつの間にか閉じていた目を開け、つぶやく。


「どうか無事でいてくれ。…。」


 女は言葉の最後に、の名前を呼ぼうとする。

 しかし、口は開くものの、それが言葉を発することは無かった。

 女の頭には、霧にかかったようで。の名前は決して出ることは無かった。

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スライムさんの生存戦略 〜復讐編〜 HAKU @HAKU0629

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