黄昏の語り第三章、十八話
「18」
エレナの残滓と別れを告げたトマの元に姿を現す者がある。
129号が隠密迷彩を解除巨体を現す。
夜が続く、声が聞こえる。
「さあ、先輩行きましょうか、貴方を北の国が待っています。この子が殺されたくなかったらついてきてください」
「……開発中の戦闘機?……いや魔道戦闘機?なんで国家機密が俺の前に来るっ!ほっとけ貧乏人をっ!大剣がこんなものに勝てるかっ!」
トマは魔獣化、倒れているユーリを素早く咥え走りだそうとした。
足を二本、射抜かれて転んだ。
「さすがに頑丈と言うか私は妖精の教師兼陸戦モデルですので、戦闘能力が低い、二発撃っても足を吹き飛ばせませんか」
トマは唸り声をあげて飛行機械を見上げる。
「貴方を説得しましょうか?」
「ユーリの腕でも吹っ飛ばす気だな?」
「いえ、私もサイコブレイク系ですので、洗脳された貴方が大剣であの子のお腹を貫くのはいかが?魔族は頑丈ですから死にませんよ?そうですね私がこの機械から降りて貴方と性愛を実行して、貴方に大剣で大地に縫い留められたあの子の前で愛し合うのはどうですか?」
「……エレナの声に好きそうな脅し文句、パイロットはエレナをコピーした合成生命か……嫌な時代だ……」
「無人機計画もありましたが、妖精が戦術AIに悪戯して御破算でした」
「……俺はゾック鍛錬法ができた……」
「はあ」
「……俺は、クワンガラ鍛錬法ができた……」
「まあ、良かったですねえ」
「暗命派が何故最初に神を否定したか、神が居る世界で神を否定したかお前に判るか?」
「連中は妖精みたいなもんです。凄い強いけど馬鹿、良いように使われて襤褸雑巾に成って捨てられた」
「甘い、神の仕事を邪魔しない為だ。つまりわざわざあいつらの前に神がやって来た。頼れと連中を怒鳴りつけた。無視をして滅んだ。そして暗命派を修行できるものは世界に対しルール違反出来る。俺は剣士として成長したいから努力以上に強く成ることはない、単に勘が良くなる。この場限りで俺は知ってるんだよ。闇の妖精が囁く、第七魔物大陸に和平交渉に訪れた聖騎士様と聖女様が魔物どもに不意打ち喰らって狂って実験装置内部で死んだはずなのに今も生きてる。ただの肉塊となったが第七魔物大陸を食べ終えた。お腹が空いたそうだ。で、死に場所欲しくてこっち来てるってさ」
129号はセンサー系を起動、本隊と連絡、中継機の姉妹から直接情報をもらった。
「しくじったな司令母機っ!役立たずがっ!」
彼女は緊急加速して、空中に逃げた。
トマと言う貪婪狼の魔獣が食らいついた。
コクピットの装甲に牙が喰い込んで行く。
速度ではない、タイミング読まれている。
「どこへ行くエレナ、戦友!一緒に死のうぜっ!肉に食われてデロデロだっ!」
「ユーリはどうなるっ!放せっ!その餓鬼だけは私と一緒に助けてやる」
「馬鹿があのクソガキがこんな程度で死ぬわけないだろうがっ!」
嫌らしく嗤う六メートルの魔獣が牙に力を込めエレナの乗り込む機体をかみ砕いていく。
「おのれっ!先輩っ!」
「楽しみだ。お前のはらわたを食らってやる……それまでせいぜいそこで喚け残り十秒で装甲は砕けて剥き出しだインテリさん……肉の津波は残り二分40秒……俺を殺しても飛行機械が壊れて逃げ場が無いぞ?」
「先輩助けてっ!争いはやめようっ!そんな時じゃないっ!愛してるんです!こんな死に方いやっ!」
そしてトマは「あ、やべ」と言う顔をした。牙を放す。
「……お前、俺を邪神に捧げて自分は助かる気なんだからそんな事言うな、急げ憎めっ!」
「そうだっ!それで良い!洗脳催眠魔法が効いたっ!昔から先輩好きだったっ!お願いします私を背中に乗せて走って逃げてくださいっ!愛してますお願いしますっ!何でもしますっ!永遠に真実お仕えしますっ!」
「……バカ……そこはちゃんと愛の真実か憎しみの真実言わないとダメ……クワンガラは……本しか知らんが、師匠は、聖女は止まらんって修行法に書いてあった……男の馬鹿は男が止めるが女の馬鹿は女が止める。止める仕事出来なきゃ社会の仕事、社会が無理なら神さんの仕事……でも神様は超怖い……滅殺喰らう……喰らいたくないから聖女と聖者が止める」
トマは攻撃を辞めしっぽを丸め、座り込んでしまった。
129号はコクピットから降りて小銃の尻で宗教に逃げたトマをぶん殴る。
「いいから走れっ!本当に機械が飛ばないんだっ!私を乗せて行けっ!」
「馬鹿、狼が人の理屈聞くわけねえだろ」
「お前は生きて居たいはずで言葉を話せる知性があるだろうがっ!休戦だっ!さっさと走れっ脱出ルートをナビしてやるっ!」
「無理、後ろ、肉の津波」
「糞がっ!生き延びてやるっ!」
129号は小銃射撃開始、手投げ弾で簡易結界成型。肉の津波に呑まれていく。
結界に守れてまだ食われてないが時間の問題である。
「……聖女様~こいつの生き意地汚い所、結構好きですけど、恋愛感情じゃないんです~お許しください~聖騎士様~お取り直しのほどお願いします~」
「黙ってお前も魔道砲撃しろっ!小銃の弾薬なんぞすぐ尽きるぞっ!肉を焼き払って脱出だ」
簡易結界が圧倒的な質量でひび割れて行く。
「結界崩壊まで残り十五秒タイミングを合わせろっ!小銃弾の破壊効果があったっ!無敵じゃないっ!走れば逃げられる。肉の密度が薄いのは南だ先輩!行くぞっ!」
そしてトマは乗り込まれても走らない。
129号が叫ぶ「馬鹿―――!」
肉に呑まれて消化された。
二日間大陸レベルの肉はそこにタワーを作り滞留していたが、勝手に消えた。消える前にうんこをしていった。トマと言う、うんこ男とエレナシリーズの129号と言う、うんこ女である。
二人はメンタルうんこだけど、剥き出しじゃなくて服と装備が無事だった。
そして死んだはずの司令母機エレナがそこに居て二人を見つめるとどっか消えた。
司令母機の生存と失踪に気づかないまま起きだす二人、見つめ合う。
「何も言うな、これは呪いだ。まやかしだ自覚すんな、故郷に帰れ、感情は薄れる」
そしてぶん殴られる。
「ふざけんなよっ!この私が寂しいだとっ!恋しいだとっ!愛したいだとっ!しかもお前だけ求めてるっ!殺すぞ……私には他に好きなものが無数にありっ!それを塗りつぶされたっ!私が好きな物への向ける感情はもっと巨大で健康的だったっ!なのにこれでは精神が病むっ!何が聖女だ悪魔めっ!」
トマは魔獣化して空を見つめる。北邦商業魔道国の艦隊が見える。艦隊から一隻離脱飛行。研究設備を積んだ飛行機械がこちらに向かっていた。エレナを回収するのだろう。そんなトマの魔獣耳に女天空機械騎士の声が響く。
「なあおいっ!糞貧乏人がっ!戦闘機を超えた魔道戦闘機だぞっ!そのパイロットは超エリートだっ!どれほど勉強してどれほど訓練したか判るかっ!私はそれに見合う地位と財産が約束されていたし持っているっ私生活だって相応しいものだっ!お前みたいな貧乏で無知な馬鹿と一緒に暮らしたらどんどん私の技術と知識は劣化するっ!趣味すら維持できない、何でそんな男に惚れねばならないっ!殺すっ!」
トマは小銃弾を浴びる。トマの獣毛が弾いていく
彼女の撃ち終わりにトマは言った。
「今だけだ。そのうち感情は薄れる。そういう呪いだ……肉の津波となった聖女の消えゆく呪い……どうせエリート共がより高性能な性能の肉体に成りたくて、でもいきなり自分たちで試すのは危険だからお前がエリートとしての地位を持った合成生命として生み出されたんだろ?で、そん時、善良な奴と愚かな奴と邪悪な奴作って社会がどこのラインまで受容できるか確認したくてエレナがたまたま選ばれた」
129号は叫ぶ。
「エリートは遊びたいんだよっ!真面目に働いて疲れてんだっ!善も悪も体験して遊びたいんだよ!善悪どっちも受容してもらって遊びまくるんだ。ついでに世界も救うとさ!」
トマは大あくびをする。ユーリを咥えて砦に向かった。
「待てこらっ!先輩一緒に暮らそうっ!北に行こうっ!エリートは無理でも中産階級にしてやるっ!先進国だっ!貧乏辞めろ不健康だっ!」
地面にユーリを吐き出し人型に戻り、図多袋をごそごそ漁り一口しか飲んでいないガントレットの蒸留酒を投げつける。
「百万タットの酒だっ!貧乏じゃねえ……」
誇らしげに言うとトマはユーリを咥えるために魔獣化。
「……精密にデザインされた合成生命がこんな香りだけ良い度数ばっかの酒飲めるかボケ糞……死ねってか?」
トマは答えずユーリを咥え走り砦に消えた。トマに予感が走る。
ファイブエッジは死んでいない気がする。
その予感に導かれ歩いていくと壁に寄りかかったエッジが防壁の影で腕を組みニタニタ笑っている。
「がっ」大意……昔の女は良いのか?
「そこまで行かない、今思えば……団結まで行くけど愛情まで行かない集団だった。他の地域の孤児兵はいろいろらしいが、ワルツ盗賊団は馬鹿と糞しかいねえからな」
「ぎぐ」大意……まあ、私もお一人様だったから何とも言えんな。
「そうかい、とりあえず死ななかったから良いや、酷い冒険だ」
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