黄昏の語り第三章、十六話

      「16」


 ―――、エレナシリーズの見る夢、―――


 それはエレナ・オリジンの旅の再現を意味する。


 円舞曲、ワルツ、見事な魔法使いたち。

 

 彼らは魔道大学と違い、我々に魔法使いになる道を示した。


 頭部施術、成功率は七十パーセント。


 失敗しても日常生活に支障がない。


 十万から信者がいて、そして実際に貧民の子供たちを魔法使いにしていく。


 きっと彼ら彼女たちの人生は輝かしいものとなる。


 だが、お前は行ってはいけないよ?


 素質だ。


 そこだけはどうにもならない、これから発展していけばきっと素質を超えて人は魔法使いに成れる時代が来る。そこを待とう、魔法使いは学者の系譜、戦士でも兵士でもない、発展と繁栄のために魔道を探求している。きっと何時かやってくれるさ。何ダークエルフは長生きだ。きっと間に合う。


 そこ行くと、魔法を武器にしてしまう新兵科、魔法兵と言うのは良くないねえ。


 魔道砲だって私は納得していない……


 だが、魔物がいるから兵隊さんの悪口は行っちゃいけないよ?


 ―――、おばあちゃんは薬師、まじないもやるが素質が弱い、魔法薬が作れないから時代に取り残されていた。でも、科学を極め良い医者になろうと勉強している。


 私の目が見えないから、薬師から医者に成ろうとした。

 無理で破産。

 おばあちゃんは死んだ。路地裏に出る前に孤児院に入れてもらえた。

 実は安堵していた。

 あの糞婆の完璧正義に付き合わされて危うく餓死するところだった。

 こちらは死にたくない、そこから先がない、だが保護者が正義を語る。


 救いがない以上諦めていたが、ちゃんと孤児院があって盲目でも勉強できて働ける手段がそこにあった。知ってから糞婆を軽蔑した。が、好きである。困った。


 そんな時都市が燃えて行く、襲撃だ。


 どこぞの国が魔物にやられ倒れ難民発生軍隊崩壊インテリ逃亡国家消滅、そこから生存方法を求めて野蛮人の大量生産が来た。そいつらを吸収して育ったのがワルツ盗賊団。


「魔法使いにしてあげる」この誘い文句で魔法の素質ある人をさらっていたのだ。そいつらがファムの国軍に連戦連勝したのは魔法兵の兵科を育て保有したから。


 見事な発想だ。


 種族的低燃費が確約された人間で魔法兵を育てると子供でもここまで強いのか。驚かざる負えない、妖精たちが目の代わりに目より多く情報を立体で脳に届けてくれる。


 都市の焼かれていく姿と防衛隊が破れる映像には興奮するしかない。

 しかし、私は弱い、邪悪だが平和が好きなのだ。


 平和で豊かだと私のように弱い者でも生きて行けるが戦争では死ぬよりほかはない。


 妖精がいかに私が邪悪でも助けてくれるが、分限がある。


 連中に逃げられれば私はまた何も見えなくなる。

 故に私は糞みたいな平和が好きにならねばならない。


 そこが苦労したのに結局殺される。溜息を吐いてると手を引かれる。魔道砲撃で半径40メートルの殺傷圏を作り煉瓦製の家を吹き飛ばす子供が私の手を取る。こいつが私の死神か……親に殴られて骨が歪んだ面、醜いものだ。化け物め。


「こいつ目が見えてねえ、どうする?」

「ほん、こっちにゃ魔法薬がある」

「素質も足りてねえ、このままじゃ殺すしかない」

「ばーか、都市襲撃で霊薬ゲットしただろうが」

「ありゃ大人共の戦利品だ。盗みがばれたらこっちが殺される」

「アホめ、魔法薬も霊薬も使えば消える」

「……警戒に移る。十秒で終わらせてくれ……」

「もう終わった。証拠隠滅も終わりっと魔法って便利」

「あとはこいつが、糞生活にどこまで耐えてくれるか……」

「トマは本当に使えねえ、駄目駄目だ。此奴の顔見りゃわかんだろ?」

「言うなっ!」

「超差別主義者っ!大悪党の素質があってプライド激高っ!超天才だ!育てば軍隊相手に死体の山築くぞっ!」

「知るかっ!」

「おいどく行くっ!うまく手下にできりゃボスが納得する大儲けができるっ!だから大人出し抜いたんだろうがっ!」


 トマと言う不細工は消えた。

 その代わり黒毛皮猫獣人の女のガキが愚痴った。


「ビビりが……おいっ!霊薬分くらい働けよっ!」


 私はこいつに八つ当たりで歯が一発で折れるほど殴られ恐怖で逆らえなくなった。

「雑魚、やっぱりプライドだけだ。パンチ一発で私の手下だっ!……目が気に入らねえ百発行こうっ!」


 その通りで私は百発でこいつの配下になった。こいつより強く成っても怖くて逆らえない、それ以上に戦闘を覚え蹂躙が楽しかった。ほかの途中参加連中も大体、戦利品より軍隊との殺し合いが楽しみだった。


 戦闘から陣地に戻ればあの不細工がいて砲兵として後方戦闘していた所でも手伝えば回復魔法を使う。


 傷だって無かった事に成る。

 ずると楽な戦争ごっこでどんどん金持ちに成れる。

 最高だった。


 違った。


 回復魔法は高等魔法、発動プロセスを簡略化し効果を高めても術者がちゃんと人体と傷治療に精通していないと無駄。


 そして、傷が治っても治療で栄養が払底すれば動けない程痩せる。

 盗賊団が長い行軍をする際に必要な体力まで回復魔法は奪う。


 何よりも使い手が少ない、回復の魔導書は医療系、つまりどこの集団も大切にして安売りしない、勝利できている間は良いが負けが込んだらトマだけでは全然足りない。他の回復魔法を使う連中もいるがトマほど強くないから狙われて死んでいく。


 あいつは鋼の大剣を放さない。


 どんな時も不意打ちや近接戦に備え、必ず生還する。


 あいつが倒れたら部隊損害がやばいから白色魔法鉱石の騎士剣が少年兵からあいつに贈られた。盗みだすまで損害が多かったが出来たんだ。


 あいつは大地に騎士剣を捨てて怒鳴った。


「馬鹿どもがっ!俺の器量は鋼だっ!魔法鉱石は最低でも鋼の十倍頑丈で、それに見合う切れ味があるっ!さらに強い赤色魔法鉱石を超えている白色の剣なんか使えるかっ!こんな軽くて切れ味が良すぎる大きな剣をっ!才能のない俺が使えばっ!制御できなくて自分を切るだけだっ!」


 愕然とした。


 アイツは近接戦のエースだった。必ず泥臭く生き残る。近接戦の天才が死ぬ戦場でも生存してきた。だが、才能がない。回復魔法の使い手、部隊の生命線が弱い。そこで初めて皆怖がった。一人猫獣人の女だけは盗賊団を捨て逃げていた。我々のリーダーはあの女だったのに手下のトマを残して逃亡した。


 弱くても環境適応すれば生き残る。だがそれは必ずしも強いことを約束しない。


 気づいて泣き出す者もいた、遅いぞ馬鹿、そこは楽しかった。


 そしてほかの連中は戦い続けどんどん臆病になり、私は、いいやほかの連中も不思議がった。戦闘は楽しい、殺しも楽しい、より難しくて死の危険があるほど楽しい、そのリスクを冒し己が死ぬともこの遊びを続け居ていたいものが多かったのだ。


 そしてリーダーの女猫獣人が逃げた理由も少年兵集団が発狂し、正気な者が自分だけと気づいて逃げたんだ。


 トマも壊れてる。だから一歳年上の女猫獣人に捨てられた。


 出来る事は踏みとどまって戦う、それだけ、仲間を見捨てないだけ。


 バーカ、お前の信者ができて神様にされるだけだ。


 トマを庇ってどんどん死んでいく、楽しかった。神様を守る聖騎士ごっこだ。だが馬鹿が出た。楽しく遊んでいたのに今更、死と魔物化が怖くて泣きだす奴が出た。死んでもいいけど魔物は嫌だそうだ。


 遊びが詰まんなくなった。


 だって三度目の魔石異常肥大による魔物化暴走は私の番だったからだ。

 お腹が空いてばっかで全然楽しくないからトマに噛みついた。

 あ、楽しいこと思いついた。涙を嘘で流しこう言ってやろう。


「……殺さないで……」


 トマが騙されてる。嗤わないようにしなきゃ、か細い悲鳴上げなきゃ……魔物が、この私が心臓を貫いた程度で死ぬわけないだろうが……死んだふりをして……連中がいなくなってから夜に一人一人食べてやろう。味が楽しみだ。トマお前は最後だ……老人まで生かす。ずうと遊ぼう。


 が、ばれた。


 舌打ちするしかない、戦闘の天才は私だけじゃなかった。


 私のウソを見抜いて残り全員で一気に武器と魔法攻撃を叩き込み私は半死半生だ。


 なんだ、みんな魔物化が怖くて私だけ怖くなかったのか、驚いた。


 トマのせいだ。あいつがいつまでも神様ごっこするから強い悪が弱い悪になってる。詰まんない。まあ生き残ったから野営地を逃げよう、それまでは今度こそ死んだふりだ。


夜が来た。


 最悪だった。トマがおんぼろの雑誌をもって私に話しかけてくる。

 此奴が居なくなるまで逃げられない。

 トマが居なくなるまでつまらない話を聞かされた。


 ―――、バロック装甲集団を抱える北方の覇者はなぜ偉大か?、―――


 世界を救ったからだ。世界とは何か?我々である。

 酔っ払いにはこれ以上の理解はいらない。


 ただ、蒸留酒バロックを飲んで連中を偲ぼうではないか。魔道科学が先駆け浮遊戦車の装甲部隊が突き進む時人は降伏し争いを辞め、魔物は蹂躙される。


 浮遊戦車の何が偉大か?


 酔っ払いにわかるのは、装甲化旋回式砲塔を持ち浮いている事だ。


 酔っ払いにこれ以上の理解はいらない。浮いて居るという事は地形を選ばない、どんな困難な地形も超えて人類を助けに装甲は進むのだ。だから偉大だ。


 人が人を殺すのでは無い、人を助ける装甲が人の為、そこにある。そして何よりも、浮遊戦車はわが国しか作れなかった。やはりバロックは良い酒だ。


 しかし、今偲ばなけれならない、我が浮遊戦車は飛行機械に負けた。

 部隊は壊乱。多くの戦車兵が死んだ。


 人と人の争いで浮遊戦車を出せば負けねばならない、名誉の敗北か名誉なき勝利か装甲集団は名誉の敗北を選んだのだ。


 故に大人はこの酒を飲むべきだ。


―――、そこまで言うとあの馬鹿たれは心で続きを言った、―――


 エレナ、装甲魔法のエレナっお前の突撃により本隊の脱出は成功した。お前のソニックブームにより敵部隊は全滅だ。お前の操る魔法銃は百発百中、速度があり近接戦で俺より強く早く敵を殺す際ナイフを操り、大剣以上に効率的、俺はお前に負けたっそして、美しい、惚れてるやつは多かった。


 俺の持たない全てを持ち、そして本隊を守ったこの晩、お前は人として死んだ。


 お前は魔物ではない。


 だが、もし、魔物でも生きて居るならば、北に行け。


 そこでは少年兵更生プログラムがある。我々に人権が来る。

 俺は人権を知らんが凄いらしい、狂人を悪党を愚物を善人にすると信じてる。


 確実にこの世の中は良くなってるはずだ。

 だから魂よ、東方砂漠を超え北に行け、ここは人の聖地ではない。

 あるのは神の契約守りし農業国ファムに食料たかる円舞曲盗賊ばかりだ。


―――、ああ、つまらないぞ?、―――


お前は泣きじゃくるばかりだ。言いたい事を心で唱えても、精神魔法で盗聴している私にはよく聞こえイラつく。声に出せば、きっと皆起きだしてお前の話を聞きたがる。ワルツ盗賊団にインテリは居ない。早めに逃げるか自殺する。故に馬鹿なお前が一番賢い狂気的世界が生まれ、お前はそいつらに生かされる。


 お前は馬鹿だから気づかなかったが、そうやって生かされる弱い盗賊が耐えきれなくなってお前を身代わりに選び大剣を与えた。この地もつまらなくなった。腑抜けしかいない、しかも、陸戦兵の我らがいかに強くても空中から砲撃されては手も足も出ない。


 魔物になっても私はエレナは陸戦系だ。

 空軍を出すほど国を怒らせたワルツの負けだ。

 対空砲撃は難しい、諦めて旅に出よう。


 お前が言うなら友軍の誼で、、、そうだな、、、北が良い。


 そこはきっと詰まらない、つまらない場所を紹介したお前に復讐するためにトマ、今はさようならだ。それまでに強く成っておけ、強く成ったら一緒に遊ぼう、ばいばい。


 背後を見ることだ。


 トマ、お前の雑誌を奪うためにお前は大人に見つかる。


 貴重な戦力が睡眠不足で機能不全とか大人指揮官は嫌うからな、根拠の雑誌は早めに叩き潰す。お前はお前より弱いあの大人に逆らえない、殴られるのが怖くて逆らえない。


 最初に恐怖を植え付けられて強いはずのお前は弱い奴に逆らえない。

 お前の宝物は今宵、私に同情して永遠に消える。

 これは楽しい見物だが、背後の子供が殴られる音で我慢しよう。

 私は北に行くのだ。

 戦友が盾になって私に行けと言うのだ。遊びは終わりだ。

 ……これで一人だ。つまらなくなるな……

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