黄昏の語り第三章、十五話
「15」
「トマ、ランクE冒険者労働刑二億タット受刑者です。こっち魔族のユーリ、こっちファイブエッジともにGランク、てめえら頭下げろ」
「……」」
「仕事がなんかないっすかね?受付さん」
「……通報した……北邦キフド連合国の倫理兵器飛んでくるから説教喰らってこい」
「……ナンスかそれ……」
「俺も良くわからん、妖精が泣いて逃げ出すそうだ。妖精が怖くて逃げる倫理兵器」
「意味わからん……あの……仕事」
「うん、あのな、お前トマだよな?」
「ハイ」
「まあ、うちの国じゃ盗賊系少年兵は女含め皆殺しが基本なんだが、北邦キフドじゃ保護対象だそうだ」
「?」
「……まあ、頑張れ……仕事な、ゴースト系が多いな、ナイトゴーストとソルジャーゴーストが永遠に戦い続ける地点があるから、そこ行って魔法戦で倒して素材回収してこい、専用装備買う金あるか?ゴースト素材回収装備」
「ないっす」
「まあ、じゃあ、魔石だけ回収して、金にしたら後で専用封印瓶買えばいい」
「あざっす」
「クエストボードからそれっぽい依頼持ってこい」
「うーっす」
討伐依頼、諸侯連合騎士団と獣人傭兵戦士団のゴースト討伐
場所 イオテル平原監視要塞西側全域。
報酬 ナイトゴースト一体二百万タットソルジャーゴースト一体五十万タット
依頼主 獣人自治都市ムフローネス都市議会
期限 アンデット殲滅まで
素材採集依頼 アンデット素材ください
場所 なんかここっ!汚い平原?
報酬 聖剣デュランダル、聖騎士様の地位、美少女妖精百万匹、世界の支配者の地位、もっとたくさんのなんか上げます。銀河サイズブラックホールお付けします
依頼主 うちゅう?
期限 怒られる前に、大親分に怒られる前に早くお願いします。エイオ
ワ大親分にみつかる前にお願いします
何か、変な子供の悪戯が混ざっている。
トマは無視して討伐依頼の依頼書だけを引きはがした。
「……ああ、そこに変な依頼書あるけど取るなよ?」
「悪戯だろ?取りませんってそれより受理してください」
「……暗命派最後の大僧正がゾック、先代の名前はエイオワ……ゾックが最強ならエイオワは妖精使いとして無敵、つまり敵を作らず友達に成る。エイオワは魔界の悪魔にすら教えを垂れた。エイオワは妖精共の大親分だ。そいつは今悪魔やってる」
「……聞きたかねえです。依頼受理してください……」
「エイオワはなぜ悪魔になったか、無の世界で暮らす悪魔どもは無から有を作るために己の体を無理やり増殖して、そいつを素材に「有」と成した。そして成長した。理屈無茶苦茶だが、実際に出来たし死にたくないからやった。しかし、無茶苦茶痛くて碌に物が考えらんねえ。その時エイオワは邪神捨てるために何にもない所探したらそこに悪魔がいて苦しんでいた。見ちまったエイオワは致し方なく、最初に経文を開く、そこにはこの世に救いなんざねえと書いてある。そこにどうやって救いを添えるかが問題だ。舌打ち一発盗賊上がりは妖精共に命じて自分を悪魔に変えて、悪魔どもに教えを垂れた。正確には痛み誤魔化す遊びとか創造とか教えた……ガリガリに痩せて死にかけた神様が悪魔を救ってくれたがエイオワは死んだ。神じゃなくて人だからな、頑張っても一万年だ。飢餓状態の生命には悪夢的長さだが、時空間の歪んだ魔界ではほぼ一瞬だった。悪魔どもは今でも暗命派を求めている。そして大親分のレプリカを作った。妖精共も会いたいがレプリカも会いたがっている。しかし、悪魔どもに神様やらされて永遠に魔界から出られない、だが、妖精共があんな張り紙をするという事は何か別の事が起きたらしい」
トマは切れた。
「……俺は知らねえっ関係ないっ働いて金を稼いで罰金払って西へ行って大金持ちに成るんだっ!」
「……そういう根性の犯罪者上がりには必ず世界の秘密を教えてから冒険者にする。冒険者になった少年兵たちはみんな旅の途中無知から犯罪を犯し衛兵隊につかまり殺されるか、自分より強い魔物に追いつかれ喰い殺される。我が国の少年兵の処刑方法だ」
「ユーリっ仕事行くぞっ!」
トマは西へ向かった。
道すがらトマはどんどん思い詰めて行く。
獣人自治都市ムフローネス、そこに初めて冒険者組合に訪れた時無数の子供冒険者たちがいた。矢の場宿場町でもトマと同じくらいの16歳の冒険者たちが大勢いた。どいつもこいつも弱かった。一目でわかる戦士じゃない。一人も自分と同じ少年兵上りは見かけない。
みんなみんな死んだんだ。
この国で再起を狙って旅した少年兵たちはみんな死んだんだ。どこかの地点で負けた。当然だ。如何に魔法兵が兵科として優れていてもしょせん歩兵だ。しかも教師が盗賊で生徒が子供では精鋭化は無理だ。自分だって血の滲む鍛錬で戦場を彷徨い生き残っても中位の魔物を殺すので精いっぱいだ。魔獣になったことで戦闘能力が上がり生存率は上がったが、俺は、人のままではみんなのように死んでいたんだ。魔獣に成れない仲間はみんなみんな死んだんだ。
盗賊団を脱走し犯罪を辞める決意を固めてこの国を目指した先輩は全滅していたんだ。
……だからなんだっ俺は生きてるっ大剣がある……
「トマ、どこに行くの?ここが目的地だよ?」
「……スマン、気づかなかった……どうだユーリ?居るか?」
「左十二メートル、正面距離二百メートル、獣人傭兵団のゴーストと争ってる騎士隊のゴーストだね」
砦を出て五分、戦闘音が凄まじくなってきた。見渡す限りの大乱戦であるが、雑兵が多い。そんな中、標的をユーリの索敵で探してもらいながら、戦線外れで歩みを止め待機した。
ユーリの報告でトマにも見えた。一人一人が素晴らしい手練れだった。
トマの遥か上行く近接戦技の持ち主しかいない。トマはにたりと嗤う。
死んだ連中のことは忘れよう、今は楽しい戦闘の時間だ。
図多袋から魔獣用栄養剤を一粒取り出し呑んでいく。
「っユーリ連中への命令権は構築できそうか?」
「無理、能力貰っても訓練してないから使い方わかんない」
「つまり近づくと襲われる?」
「ううん、多分跪いて静止」
「そりゃいい、ちょっと訓練してくる。ユーリはここで待機、ファイブエッジ!先生に突撃だっ!」
「ごあっ!」
「はあっ?僕はどうなるの!?」
「俺ら負けるから回収係よろしく……ゴーストの攻撃は魂ダメージ、が、魔獣化した連中には効果が薄く痛いだけ、しかも長年の素材回収でナイトゴーストども見る影もなく攻撃力が弱くなってるっ!どんだけ攻撃されようが死にようがねえっ!見ろよあの動きさすが騎士様っ!騎士剣技は最強流派が一角っ!そいつをマジで見せて相手してくれんだ。しかもこっちは死なねえ……剣士として勉強のしどころだな」
「なんで?なんで?負けるのにうれしそうなの?」
「ハッハ―――!ナイトゴースト師匠見てくれっ!!俺は魔獣ですがっ!魔道砲兵ですが!未熟ですが!剣士ですっ!」
「ぎおっ!」
トマは過去を忘れるためにやけくそ気味に叫ぶ。
ファイブエッジも共鳴して歓喜に叫ぶ。
ファイブエッジとトマはひどく嬉しそうに乱戦環境に突撃した。
魔族といえど女の子なユーリは馬鹿の行動が意味不明で混乱した。
トマとファイブエッジは全力で戦った。コンビを組んで一体の騎士を激闘の末撃破すると深夜だった。ファイブエッジの爪も蹴りも噛みつきも背中の魔法鎖四本も見事に盾が受け流し返しの剣技が放たれる。そこをトマが引き継ぎ大剣で受け止め流し返し切りの斜め切りを装甲受けされ反撃の突きが来る。トマは覚悟を決める。全力全開の強化魔法で身体能力を激増させクワンガラが基礎戦技で騎士剣撃墜切断及び騎士両断を狙う。
脆弱なナイフですらこの荒業を達成させるためにクワンガラは刃に魔力を纏えと言った。
魔法使いなら誰でもやる基礎魔法。
そいつを一から戦士が鍛え直せと言う事だった。
必ずしも高価な魔法鉱石製武具が手に入るとは限らない、誰でも強く成る修行と言うことは金を持っていない貧乏人でもただの鋼で最強の魔法鉱石を切断できねばならない。あくまでそれは手厳しい修行を達成した場合だがその効果が修行に宿らねばならない。
クワンガラの武装は親父の手作りおんぼろ鉄。
鋼以下のこいつをぶっ壊さない為にはクワンガラは鍛えていた。
こいつで最強鉱石をぶった切ったらさすがに大斧が折れて奴はこう言った。
「切れたけど折れたっ!貧乏もうやだっ!」
と言うわけでしぶしぶ国に出頭して、致し方なく魔物討伐報酬の金を握って金の使い方を教えてもらった時期がある。
そしてトマは彼の修行法に頼った結果、騎士剣が繰り出す高速突きを確かに叩き切った。そのまま大剣は騎士の胸部装甲に喰い込んで止まり蹴り飛ばされてトマは宙を舞う。
「ナイトゴースト先生!まだだっまだ終わらん!」足から着地、そこを騎士隊の指揮官が通報した砲兵隊に照準されており、ふっ飛ばされてトマは気絶した。
が、魔獣剣士が倒れただけでありコンビと言う事はもう一匹馬鹿が残っている。
「ゴアアアっ!」両腕を腰あたりから広げ吠え彼女曰くこう言っている。
大意、先生っ!お願いしますっ!
生前の騎士様なら付き合いきれないので半笑いを浮かべ愛馬と共に逃げただろうが、ここは戦場、自分は騎士、しかもアンデットの自覚なし、弓隊を呼び寄せ厄介な標的に剛弓の大矢を無数に浴びせる。愛馬さえいれば、弓隊に頼らずランスチャージで仕留めたのだが、今は苦手な剣技で戦うより他はない。
トマが切り飛ばした騎士剣は、彼の魂、故に彼が滅ぶまで傍に寄り添い復活を続ける。
重機関砲が開発された時代でなお、弓隊が残る破壊力秘めた大矢が無数にファイブエッジを襲った。牙と蹴りと爪と背中の鎖尾四本で迎撃進撃して高速タックル。ファイブエッジは半秒で二百メートルを潰し肉薄、打ち落としきれなかった大矢六本に貫かれつつ戦意満々、しかし、騎士の盾に必殺の牙が防がれとどめの騎士剣が繰り出される。
タイミングが精妙であり防げるものではない。
ファイブエッジは心臓を魂性の騎士剣で貫かれつつ両腕のベアクローで騎士と相打ちとなりファイブエッジは悔しそうに倒れて行く。トマが最初に騎士の愛馬を魔道砲撃で奪っておかねば勝てぬ相手だった。だが、相手は徒歩剣よりも馬上槍こそが本懐な騎士だった。きやつめの全力を知りたかったが戦う前、トマが首を振った。奴の全力は私たちにまだ早いという事であろう。
まったく悔しいものである。
私は愚かトマの出力でさえ騎士を上回っているのに技量で抑え込まれ、しかも二対一の数的有利があって尚相打ちが精一杯、五百年生きてなお未熟とはっ!
そのころユーリはアンデットをかき分けるように進んだ。
トマのことを担ぎ、ファイブエッジは足首を掴まれ引きずられた。
「倒したけど、魔石拾ったけど、一個だけ、稼ぎに成るかな?二百万タットは大金だけども、僕たちに見合う装備には届かないし……う~ん」
ユーリは魔族として暗黒に対し香しく魔素を放散させている。
アンデットは、女王のフェロモンに逆らえない。雀蜂や白蟻や社会性昆虫の様に女王に無視され、あるいは指令を待ち比較的強力な個体はユーリを攻撃しないために静止した。
アンデットは、誰も彼女の歩みを妨げない。
そこに彼女は不思議を感じない、背中に担いだ大男以外どうでもよい。
或いはトマが世界が欲しいとでも言えば貢ぐ為に戦うが言ってくれないので諦めている。
何だって良いのだ。不老不死の神酒でも若返りの果実でも尽きぬ黄金でも永遠の美女でも世界を滅ぼす魔剣でも国の生命すべての魂でも、欲しがれば用意するために戦い努力し渡すのだが、何か欲しいと言ってくれない。ここにユーリは魔族として困っている。が、傍に居られるのだからまあいいかと流している。いずれ育てば己は魔獣にすら届くフェロモンを放てると本能が気付き無自覚な自我に幸福感を与えている。
故にさしたる問題ではない。
そんな不遜なユーリのもとに闇を飛来し機械がやってきた。
大きさは21メートルほど、色彩は魔道迷彩で闇に同化、鳥を戦闘機系に改造したような金属フォルム、伸びた魔道砲六門、半重力スラスター、六枚の羽根、脊椎のような関節ある滞空可能戦闘機。
そいつがユーリの前に浮遊し武装が照準する。そして拡声器より声が届く。
―――、あーあー通告します。北邦商業魔道国のキフド連合国空軍属、倫理兵器エレナ型のガルムシリーズ製造番号129号です。人権はありませんが大尉相当の権限を持つ合成生命です。魔族のユーリさん、そこの少年兵を解放しなさい、―――
「君は誰?」
「まあ、後輩みたいな物ですかねえ、少年兵をこちらによこしなさい」
「トマをどうするの?」
「……ああ、やはり先輩でしたか、いや良かった、エレナシリーズの悲願が達成されました。私は顔を知らないのですが、匂いと魂の悪意が先輩っぽいなあと思ってはいたんですよ」
「君は本当に生き物?」
「まあ、怪しいですね?生命と言うより妖精の親戚です」
「……トマは渡さない、失せろ妖精、お前は私の永遠の敵だ……間違えた。「私」は使ってはいけない。女はトマが嫌いだ……僕は……絶対にトマを放さない」
「私のシリーズ役割は妖精の教師です。つまり、この地に逃げた馬鹿な生徒を回収して自分たちが何かちゃんと思い出させるのが仕事です」
「じゃあその仕事をしていればいい、生命に関わるな」
「いやまあそうなんですが魔族だって生命を幸福に出来ないじゃないですか」
「……」
「ああ、自覚があって何より、我々エレナシリーズも生命を不幸にし、また先輩が好きですが、これは他の超越者と違い個人的事情です」
「知らない消えて」
「魔族なら討ち果たせばよい、私を倒せばよい」
「……僕のほうが弱い……」
飛行機械の中、コクピットに培養保護される彼女はトマそっくりの笑顔で嗤った。
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