黄昏の語り第三章、十四話
「14」
本を開く、魔力を流し込む。
魔導書が起動エネルギーを得て優しく青く輝きそっと使用者に新たな機能を授けて行く。「ライトニングハンマー」
近接系攻撃魔法であり、雷属性中位魔法でもある。
ユーリは使い切った魔導書から目を離し魔導書をくれたトマを見つめる。
「ここらは闇が濃い、アンデットが多発し育っていくほどだ。暗黒系の魔法を使い続けると達人級魔法使いでも闇に呑まれ異世界に消えかねん……魔族ならなおさら闇は攫いたがる。対アンデット戦で火力が不足したらそいつに頼れ」
「頑張るよっ!」
「衛兵隊がそいつをくれたのは、お前が子供だからだ。出会ったらちゃんとありがとうって言っとけ」
「……トマ、下手な説教が最近多いよ?」
「じゃあ言い換えてやる。衛兵隊が怖い、連中怒らせると国から蹴りだされる。餓鬼の姿利用して媚びてこい」
「今度は僕に失礼だっ!」
トマは無視して歩き出す。彼は買い物について考えるので忙しい。
三匹合わせて三十万タット、こいつで買い物して冒険者装備を真面にしていく必要がある。黒色魔法鉱石装備は中位の魔物を通常戦士が仕留める最低ライン。赤色魔法鉱石性装備が中位の魔物を仕留める通常ライン。
そして黒色魔法鉱石性の剣が一つ百万タット。
なのに所持金は三十万タットで終わり。
つまり武装に金を支払っても標的が強いこの平原では役立たず。
まずは雑貨屋さん。
「……魔獣用栄養剤ありますか?痩せさせない奴です……」
「あるよう」
「お一ついくらですか?」
「二十万タット、魔獣品種から生み出した合成生命を太らせて強くする奴だから、魔獣に上げると大げさに太っちゃうよ?」
「それが欲しかったんですよ。俺はもうガリガリで……人の食事は栄養にならなくて……魔物の生肉はもう嫌で……魔石は嚙み砕かないといけないのにひたすら苦いし金にならなくなるし」
「へ?」
「すんません何でもないです。総量はどのくらいで一回の分量はどのくらいですか?」
「まあ中瓶一つで二万錠、四週間に一粒で、最高位魔獣が太っていく」
「おおっ!栄養があれば俺は鍛錬の続きができるっ!」
「変なお客さんだねえ、魔獣使いなのかい?」
「違う、売ってくれ」
「毎度」
「助かったぜ」
クワンガラ鍛錬法も結局、高性能・低燃費に成れても修行完成までに体の燃費は悪いまま、徐々にしか改善されない。修行完成までに当然、栄養が無きゃ話にならない、まあ飢え死に覚悟すれば栄養無くても強く成るが、トマは生きて居たいし才能ないが修行中、強く成る原資が欲しかった。
嬉しそうに邪悪な笑みを受かべるトマは小瓶を抱え、ユーリは苦笑し、ファイブエッジは大あくびを吐いた。そのまま一行は錬金術のお店に向かう。店内は他のお店と同じくこじんまりとしている。イオテル平原監視砦は大きいがその面積の多くが防衛戦力の滞在設備か砦の物流を担う大商会のために使われる。
自然、他の設備はこじんまりとする。
狭い錬金術のお店には多く神聖属性魔法のこもった魔道具や、魔法薬が在った。
トマは財布片手に店主にこう言った。店主は頬杖をついて眠たげな顔をトマに向けた。
「ヨンデ三式あるかい?」
「ないねえ」
「……じゃあ、二式でよい」
「……ごめん、ないよ……全部売れた」
「どうしよう?」
トマは一発で困ってユーリを見た。ユーリもワタワタ慌てて返事もできない。ファイブエッジは魔道具をじっと見つめる。トマが肩を掴んでファイブエッジを魔道具から離し商品への嚙みつきを防いだ。
「お客さん、ご予算は?」
「十万っす」
「諦めた方が良い、最新の少数製造モデル、ヨンデ四式ならあるけど百万タットだ。神聖結界発生装置は高いからねえ」
「衛兵隊じゃここで買えと……」
「うん、さっきまであったけども、一足遅い、もっと早く来なよ。観光客が記念に買っていったよ」
「はあっ!?」
「時代の流れだねえ、飛行機械が人同士や魔物戦争に飛ぶんじゃなくて、観光客をわんさか乗せるんだもの、護衛に空中戦艦だよ?北のキフド連合国の最新鋭」
「……えええ?アンデット……見に来るの?」
「何が良いんだかねえ?おじさんには良くわかんない、大学院の教授連がぞろぞろやってきて調査してた頃は、まあわかんないでもないけど、お金持ちのツーリズムってのは意味が分からない、か弱い妖精さんを守りましょうだってさ、アンデットは危険だけど闇の妖精がアンデットを作る理由があるはずだってさ……自分たちの国から妖精が逃げだしてなぜか砂漠の国に集まってるから保護運動したいんだってさ」
「……妖精ってあれだろ?学問解析できなくて、凄い強いけど凄い馬鹿じゃん危険物じゃん……」
「まあねえ、優しいのが救いだけど馬鹿なんだよねえ……あっちの国でどっか知識歪んだんだろうねえ……観光客怖い……」
「俺も怖くなった」
トマは店主と一緒に溜息を吐き諦めて、石ころを買った。
こいつも結界を張ってくれるが効果が弱い、だが予算が尽きたので諦めた。
そしてお店を出ると少し坂道を上り砲塔を見上げる。
魔道砲で神聖属性の砲弾を放てるタイプだった。
そこにはふんぞり返った神聖属性の妖精が衛兵隊司令官ごっこをしている。配下の炎妖精が敬礼し炎妖精に乗り込まれた馬型の水妖精も敬礼したくて立ち上がったのでキャリバーごっこ中の炎妖精が転げ落ちて怒り、背中の水鉄砲を構え追いかけっこ開始。司令官ごっこ中の神聖属性妖精は「反乱軍確認っ!」と叫び、威厳をもって指揮棒を振ると大砲に化けていた闇属性妖精がドカンと撃って四発のひよこ豆を放ち炎妖精と水妖精をぶっ飛ばした。反乱軍鎮圧を祝して勝鬨を上げ制圧軍も反乱軍も皆で万歳三唱、そこに恥ずかしくて混ざれなかった風妖精がべそべそ泣き出し台風が生まれつつある。陰から既にたくさん遊んで今更遊びに興味がなくなったニヒルな土妖精が泥としてやってきて風妖精を捕獲、魔法で作ったハーモニカ楽器を吹けと無茶振りした。妖精皆の注目が風妖精一匹に集まりだして、そこから先は楽しいばかりで何がしたいか忘れたようである。台風は影も形もなくなり風妖精の腕前はなかなかで楽曲流麗浪々につき晴天である。
連中の大きさは、四センチほど、強さは皆、最新鋭空中戦艦越え、数は十万。
この砦の真の守護者である。
トマは首を振って冒険者組合を目指しその場を離れた。
妖精に遊び方を教えて居た暗命派が滅んだ以上、衛兵隊が教えるか、教会の仕事だった。泣かれると後が怖いので目が離せないように見えるが、妖精は我慢強いのでめったなことではわがままを言わない、おかげで手がかからなかった。
連中は人が好きだが人同士の戦争からは逃げる。
親分である巨人クワンガラから「そん時はどっちの味方もすんな」と言われたからだ。
つまり、戦争してない平和な国から妖精が逃げるという事は廃棄世界の場合、人同士の戦争より悪い意味がある事に成る。故に錬金術屋の店主親父が怖がったのだ。
邪神が作りし魔獣を捕獲して人が作ったのは合成生命。
魔獣より強く人に従順な新たな家畜品種、「合成生命」その生産運営販売で儲けて発展したのが北邦商業魔道国キフド連合国である。生命を操ることは皆良い顔をしない、特にDNAを科学解析して魔道で掛け合わせるのは酷く危険だ。
しかし、危険性を理解するには高等大学院の知識と技術と一神教系僧侶レベルの倫理・論理学を収めないと難しい。つまり大半の人に危険性が伝わらない。
無学ながらトマはかなり合成生命が嫌いである。危険性は理解していない。
何故嫌いか?
盗賊がかかわる合成生命の中には、略奪品の中に家畜が混ざり転売するのだが、そこに確かに美女と美男子が混ざっていた。明らかに人なのに家畜。こいつがきつかった。人を見れば懐き仕え愛し命を捧げる新たな生命、そこが気持ち悪くて仕方がない。
人間とは本質的に醜悪で凶暴だと確信するトマにすら懐いていく。
殺されてすら使い道を見出してもらえたと嬉しそうになる。
小さな鶏型ですらそうだった。
到底食べる気に成れないチキンフライ。心配して美女の合成生命がトマのもとに別の美食を準備する。少年トマの大好きな牛のワイン煮込みが作られる。好きなものと言っていないのに見抜いて嬉しそうだった。
急いでトマは補給を切り上げ前線の少年兵たちに混ざって騎士殺しの戦闘に逃げた。
あの時酷い空腹だったのに食えなかったから合成生命は嫌いである。
そんな悲しい合成生命はしかし、騎士団復権に大いに貢献した。
騎士戦闘能力の肝、騎乗獣の高性能化と従順化によって騎士の陸戦価値を大砲と小銃の時代に復権成功した。圧倒的な重装甲で砲弾すら弾き重い魔道槍と獣の牙で標的を打ち砕き、魔法使いの逃げ足では絶対に逃げられない超高速で騎士の軍団は突き進み魔道砲撃をすべて弾いて串刺しにする陸戦最強存在に復権した。
全ては重い装備を地形を選ばず平気で運び高速を長時間出す合成生命のハイスペックありきである。
各国が機械戦車開発に遅れるのは結局のところ騎士団復権が大きかった。
そしてトマは騎士を恐れない。
超戦闘能力は、重装備ありき、つまり装備をする時間がかかり、重い装備を保管する大きな目立つ拠点がいる。そして騎士が生き物である以上、不自然で生活効率を下げる武装を永遠に付けてはいられない。装備を外し生活し休む非武装騎士を夜間襲撃で滅ぼした。
そして、愛する主を失った大きな狼型合成生命は、命令が無くて戦えず、泣きながらトマを睨みつける。売ればよい値段に成るのだが、首輪を引っ張り、軍隊の詰所の位置を教えた事がある。奴は黒毛皮でトマに遠吠えすると消えて行く。
そして次の戦闘で猛反撃を食らい仲間は大勢死んだ。
これで裏切りが怖くなり、裏切った秘密に怯えた。
トマは自分の裏切りに怯え、もう盗賊仲間から逃げられなくなった。
だからトマは合成生命が嫌いで、合成生命で儲ける北邦国が怖くなった。
人の味方の強い妖精が逃げだす恐ろしい生き物を連中はきっと作ってしまったんだろう。
出会わないことを願い、トマはイドリ平原監視砦冒険者組合支所に入っていく。
夏の日差しから建物に入るとやや薄暗い受付窓口は三つ、一番空いた列に並んだ。
高位の魔物も出る平原で戦う冒険者なだけあり屈強で狡猾そうな冒険者が多い。眼光鋭く筋肉は膨らみ静かに佇む。装備は細かな傷と塗装の禿が見えるが実用性を保ちよく磨かれむしろ迫力がある。獣人自治都市が作った砦なだけはあり冒険者たちは獣人族が多かった。
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こんばんわっ!この時間に投稿することお許しください、見当違いかもしれないが読まれる努力の一環ですっ!色々データ取りたいので当面は十時以降に投稿しようかと思います。詳しくは近況ノートをよろしくお願いします。
ではでは皆様よいお年をハッピーニューイヤー!
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