黄昏の語り第三章、十三話

                「13」


 イオテル平原監視要塞。


 そこには魔導書店があり武具屋があり防具屋があり錬金術のお店がある。


 宿屋があり書店があり教会がありパン屋があって冒険者組合支所がある。


 他にもこまごまとしたお店はあるが、基本的に兵士と冒険者の要塞だった。


 広い平原を固い防御魔法と防壁で真っ二つに割りアンデットの侵入を防ぎ砦の戦力がアンデットを間引く。間引かれたアンデットは換金素材としてバラバラにされ砦にいったん回収,そこから大商会ロワンドの繰り出す馬車に積まれ都市へ運ばれる。そんな砦にたどり着いて一週間、トマたちは要塞側から反乱の意思なしを認めてもらえた。


 特にファイブエッジ、彼女は生粋の魔物、人との相性は最悪。

 彼女の意思確認に費やした一週間と言っても良い。

 彼女曰く、トマが生きてるなら人の掟に従う。

 との事である。


 衛兵隊のために通訳に訪れた教会の神父は少し困った顔をした。ファイブエッジが、トマ以外の人間を完全に軽蔑していると見抜いたのだ。説得は元より無駄、最低限互いが不快な思いをしない為にそこから憎しみを育てないように読み書きルールを教えると神父様は去っていく。


彼女の爪を避け手首付近に筆記用具を刺して固定する装備を彼女は受け取った。


 砦側から下される命令で、教会の聖印騎士団が殲滅したアンデットの素材を山積した荷車を延々と引いていく。労働刑である。これをちゃんと安月給でも行える忍耐力と貧乏生活をできて犯罪を犯さない証明を一か月積み上げる。その時、十万タットがある場合、冒険者復帰に許可、十万タットで装備を買いそろえろと言われる。


 買いそろえられれば本格的な賠償金返済生活スタートである。


一か月かけて延々と荷車を引いて、要塞に帰還したら、積み荷を降ろし、商会の大きな荷車に積み込む。


危険なアンデットが出現したら戦力として動員され戦う。

教会で祈り、衛兵隊の囚人用教室でムサンナブ国法を3匹は学ぶ。


 が、トマは土下座して祈りだけは断った。元犯罪者にはこういう奴が多いので教会は気にもしない、ただ神の救いがない心の弱い罪人を心配するだけである。


 時間が空けば、ファイブエッジは山に消え、トマとユーリは鍛錬に明け暮れた。ファイブエッジはしかし、どんどん強くなりトマもユーリも実力を引き離した。


 燃費悪化さえ気にしなければ魔物は食べるだけで、どこまでも強くなる。

 が、大抵どこかで餓死に気づいて魔素や魂の過剰吸収を辞める。

 ファイブエッジも自分の強くなり過ぎが危険と知るが強くなる。


 強く成る事と比例するエネルギー消費上昇のリスク回避に成功していたのだ。


 理由はトマがクワンガラ修行法を彼女に試しに教えたらさっさと物にしたせいである。強くなりつつ強さの担保となるエネルギー消費を下げる技法、これにファイブエッジは感動したのだ。故に彼女は今、修行僧のように山にこもりたがる。


 そしてドでかい生肉をお土産にトマの前に見せる。


トマはうな垂れて、装備も服も取り込み高位狼型魔獣に変身し砦外に案内、そこで決闘する。もちろん毎回トマの負け、魔物は、人を例外として、その多くが、負けたら強い奴に従う、そして勝者のファイブエッジはトマに肉を喰えと言う、トマはまたぞろ自分が女に貢がれている事実に悲しみつつ齧りつく。


 ファイブエッジとしては恩返しに近い。


トマは惚れた雄と言うだけではなく、より強くなる技法を教えた大恩魔獣である。


 魔物の地位を決めるのは強さのみ、つまり、ファイブエッジは生存し修行するだけで、地球で言えば一兆ドル大金持ちにたどり着ける方法を教えてくれたようなものである。ここまで大きく貢がれてしまえばさすがのファイブエッジとしては惚れ直すより他は無い。どこぞの神の馬鹿たれがいきなり力をよこすのではなく徹底轍尾己の自助努力だけで強さを得て行く発想が素晴らしい。修行法の類はファイブエッジの中では論理学修行である。肉体修行の意味がない魔物には他に修行価値がない。


 しかも論理修業は常に、人間の醜悪な側面「脳の化け物」に成る可能性を孕む。


 論理とはそれだけの力を持つ。


 正確には力の源を生む合理性と実験が可能になる。


 論理と実験の果て、何時でも殺せる脆弱な存在が凄まじい破壊力の兵器を生み出しうるのは明白。


 兵器でなくても人が増えるために畑を作ればほかの生態系も徐々に変化する。


 そこから先に至っては惨憺たる大量消費の果て、人まで滅びかける。


 論理と実験と合理を極め、星を食らい反省せず宇宙に飛び出て生き延びて広がっていくであろうことは明白。


 そうでなければ星を食らって自分も滅ぶ大馬鹿生命となる。


 人とは迷惑極まりない。それが魔獣の本音。


 が、魔獣も人に負け減った。


 今は魔物の時代、文明持つ魔物が邪神によりデザインされ人類を圧倒中だ。


 魔獣である自分も、いずれ文明持つ人か魔物に殺されるであろう。


ファイブエッジは魔獣として運のない時代に生まれたものだと嘆いていていたら、トマに生き残る術をもらえたのだ。ラッキーである。今となっては感謝しかない。だがトマは当時、こう言った。


「……頼みたい事がある。長生きしてなるたけユーリの友達でいてくれ、ついでに人にもあんまり敵対しないでくれ……そしたらこいつを教える……」


「ぐいごあが」

 ―――、大意、―――


 面倒くさい奴だ。


 あの山羊魔族なら真の闇に愛されている。つまり、生命を除く宇宙全てに愛されている。生き残れば誰も逆らえない完璧な存在に成れる。少しの間ピーピー寂しくて泣くだろうが、長い時を支配者として暴君として君臨出来てそれで幸せな存在となる。そこに思い出を送っても、暴君は混乱するだけだ。


 暴君がお前を思い出しては泣き虫に戻るだけだから止めとけ……

 暴君には暴君にしかできない仕事がある。子供の成長を邪魔するな……


「……そうなのか?」

「が」


 大意、知らん、そんな気がしただけだ。この惑星の生命品種はすべて神にデザインされた。

 つまり何らかの仕事の割り振りがすべての生命にあると考えるべきだ。


「……わからねえ……」

「ごあ」


 まあ、これも惚れた弱み、それに利益がある。

 魔獣は強欲だからな目先の欲に弱い……話に乗ってやる。


「助かったぜ」

「があっ!」


 寄こす物が詰まらんものなら踏みつぶすからなっ!

 そのあとでアイツの前で子作りだっ!


「……少し怖くなった……」

「ぎ」逃がさん。


 その後トマを抱き上げたファイブエッジはトマの読み上げるクワンガラ鍛錬法をトマとファイブエッジは一緒に修行・開眼。ファイブエッジはクワンガラ鍛錬法の書籍を読み込み、鍛錬に明け暮れるようになった。


 トマも鍛錬で血反吐を吐いて汗も小便も出し尽くすが、素質の差が出てくる。


 ユーリにもファイブエッジにも届かない戦技をひたすらに磨いていく。


 その実力差を埋める為に睡眠時間を削り、仕事を早めに切り上げて修行時間を捻出していく。しかし、働く行為がトマの成長を妨げる。働かねば社会との信頼を維持・発展できない、生きて行く金が手にはいらない。


 修行への渇望が生まれても泣きながら我慢して、素振りを辞め、仕事に戻る。


 それで得るものは物理的には僅か一人十万タット。

 たった一か月が無限に感じ、トマは荷車運びを終えた。

 クワンガラ鍛錬法ゾック鍛錬法双方が消せない致命的根欠陥がある。


 強く成るだけで社会性が養えない。

 故に二人の修行方法を他の人が完成させねば成らない。

 聖都ハルアルマルにては聖印騎士は教会の僧侶から正義の教え授かり学ぶ。

 大陸西方にあっては、最後の仕上げ倫理修行の後、戦士たちは蒼き魔法樹に誓いを立てて正義を違えた時死ぬ事を魔法陣にて誓約する。


 大陸東方、砂漠国が文化圏にありし冒険者の国ムサンナブでは、衛兵隊が教える。


 人が人に正義を教える。その際、軍隊が教えを説く。


 人族は世界大戦を起こし、敗北後、他の種族から砂漠追放された。


 何もない砂漠、魔獣ばかり、文明を持ち始めた魔物ばかり、深い森もあるが通常の生態系とは一線を画す魔法植物と魔法昆虫の巨体無数の妖魔生態系。精霊、悪霊、迷宮、自然環境の厳しさ、海には海魔が陸上魔物より遥かに大きく強く数が多く貪婪にさまよう。


 空には竜を筆頭に無数に生存競争を続けている。


クワンガラの助けがあっても尚死に行く人々を導いたのは彗星、落下地点で何かが焼き払われ、封印が解かれた。人族が生きていける環境が何故か生まれて行く。断じて奇跡ではなかった。何かの意思がそこに息づいている。しかし善なる神でも悪神でもない、もっと別の何かが人を導いた。か弱い妖精でも最強の魔素でもない。


 悪魔だった。


 邪神では無い。


 何かメッセージを込めたようだが、当時の技術力では解析不能、調査に向かった国際合同空中艦隊が、樹高二百メートル級魔法樹の森ギガースツリーの木々の果て丘を見た。エルフの神官ミイラだ。


 何かを封印していたようだった。


 微弱な結界もまだ生きて居る。


 空中艦隊は調査のために進む結論を出すまで三日かけ、当時最強の艦隊を前に進めた。


 結界を破り突破した先、そこには何もなかった。しかし、微弱な結界が破れた時、聖都ハルアルマルの一神教系聖典と多神教神殿総本山の壁面教示が雷で追記されていた。観測時間三十秒、文字は消えた。


 そこからは国際機密である。


 ただ艦隊は、帰還せず、現地の難民救助に降り立ち、船を拠点に国つくりを始めた。


――、廃棄されるべき人たちの末裔は、冒険者として冒険探索し財と成し繁栄を経て賠償を成せ、これをもって多種人類よ人族を同胞に戻したまえ、――


 これが悪魔からの聖都へ送ったいかづち文字。

 連中が害意の塊なら話は早いがここは兵器実験場。

 廃棄すべき巨悪どもに最後のチャンスを与える慈悲の実験場。

 兵器とは、決して主の操作に逆らわない。


 手の施しようがない暴虐だろうが貴様らは兵器に成るのだ。神の兵器だ、,、もっと強い高性能なものは他にもあるがお前らはそんな物にしか成れないらな、完成させてやる。俺たちと戦え、廃棄世界。せめて悪魔の憎しみを受け止めるほど強く成り我らと戦争しろ。俺たちは簡単にお前らを滅ぼせる。そんな簡単な復讐など許さない、さっさと強く成れ……殺し合おう……何もない世界に生み出された我らが憎しみを知れ……神に守られるお前らが勝つのは知っているが、育つまで待ってやる……我らが憎しみで貴様らに忘れられない時代をくれてやる……人の乗り越えられる試練として滅ぼされてやる……だが……我々はお前らを完璧に呪ってやる……さっさと強く成れ……我ら滅ぶ時人は倫理を失い、我らが勝つとき生命は終わりだ……勝てば生命は見逃してやる……我々に用があるのは人だ……狂わせてやる。


 そんな悪意を悪魔は込めて文字が贈られた。


 神が生命に完璧な倫理を与えるまでの生存環境作り、その道具の作成実験場である魔界が、悪魔完成を持って第二ステージに入っていた。


 聖都も神殿も悪魔の悪意を隠し人族を救命するように神のお告げありと偽った。理由は戦力不足、人族のもつ低燃費性を持って兵器化できれば素晴らしい戦力となる。


 自分たちより遥かに強大な悪魔に付け狙われる現状否応はない、少しでも戦力化できる集団は何であれ欲しかった。遠い未来悪魔との決戦に備え人族と言う世界大戦を起こすポテンシャルを期待され脳の化け物たちは救援に感動し愛に目覚め、そして冒険者となって悪魔軍団撃退戦力の財源或いは新兵器素材となる物を求め世界を放浪した。


 そして時は流れ、悪魔来たらず。


 大陸東方砂漠地帯は人族の聖地、大昔の世界大戦で族滅に近い攻撃を受けしかし流浪の果て残存者が復興した土地こそ砂漠のほとり。世界大戦を起こした人族は各国からの救援物資をもらい人族には対悪魔軍団戦力としてしか期待されてないと真実を告げられる。真実を知っても人族は生き残るために誓った。


老いて死に行くクワンガラに誓った。


「悪魔軍団襲撃時には王を捨て民を捨て家族を捨て故郷を捨て文明を捨て国防を捨て最前線に立ちます。どこの戦場も突撃します。小銃で戦い抜きます。銃剣で戦います。ですから、銃剣で悪魔を貫ける筋肉をください……世界を滅ぼしかけた罪を許してください」

「未熟者それは誓いじゃなくて懇願だ……それに足りない」

「?」

「幸せになりたいです。そのために幸せな生きる時間をくださいと言え」


 その時、答え吠えてから砂漠の他の国の兵士と同じくムサンナブ衛兵隊は鬼になった。鬼の衛兵隊は、魔族も魔獣も魔物も盗賊も抑え込んで開拓を進め冒険者を育て続けた。


 冒険者が迷宮から何か救いの品を見つけるまでは衛兵隊は倒れるわけにいかず今があった。故にトマやユーリやファイブエッジは化け物ながらムサンナブ国に歓迎されている。

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