黄昏の語り第三章、十二話
「12」
そこはイオテル平原監視要塞が囚人兵収容隊舎。
あんまりよい環境ではないが、結構善人しかいなかった。
要するに法律違反してしまうほど非常識だが贖罪意識強い無学者が多い。
建造物は頑丈ながら、臭い、汚い、狭い三種そろっていてトマは崇められた。
「先生、その……」
「二百タット」
「はい」
トマは一回浄化魔法を放つ事で二百タット稼ぎ生活環境を大幅に改善していた。魔獣になっても器小さくせこいようだった。稼がねばならない、強くならねばならい、そして今、ユーリと話せねばならない。
その思いと共に自分たちの部屋に向かった。廊下を歩み五分後いざと言う時アンデット襲撃から戦力期待され、此処も襲撃時には防衛拠点運用されるべく頑丈な装甲扉を開けて行く、頑丈な部屋をあてがわれた理由は拠点都合だけでなくトマたちが強すぎるので通常の牢では強度が足らないためである。
扉をくぐればそこには、ユーリが膝を抱えている。
そして虐めたファイブエッジが勝ち誇っていた。
「エッジ、あんまりユーリを虐めるな」
「が?」
「っ!虐められてないっ」
トマは荷物をどさどさ降ろす。食材が多かった。ほかにも国から支給された魔導書がある。ファイブエッジはユーリなどどうでもよさそうで、眠そうに体を揺らしベッドに転げ寝て行く。
「調理しながらで悪いがユーリ聞いてくれ」
「うん」
「最初はお前が一人前になるまで後ろ盾になるって話だが……」
ニンニクの皮をむき細かく刻む。
「まあ、俺ら人辞めちまったから国の管理下に入る。国の決定によっちゃお前とは分けられる」
「……僕も手伝う、玉ねぎ切らせて……」
「おう、でだ。お前の戦闘能力は金になったし学習能力も上がった。もとより勤勉だしな」
ニンニクを切り終わり肉野菜をトマは切っていく。
「生きていける金は稼げるようにはなったんだが、魔族ってのが厄介でな」
「……うん……」
「俺は、お前の魔法で配下魔獣になって人が食べたくてしょうがなくなったし、お前は新しい能力を獲得した」
「そうだね」
鍋にバターを入れ火にかけ溶かし伸ばすと肉をニンニク共に焼いて行く、次は野菜にバターと肉の香りを移すべく炒める。
「この間のワンダーフッドから魔法喰らっただろ?」
「立てなくなったやつ?」
「そう、それ、あれな魔族にアンデットの支配能力を付与する魔法らしい」
「なんでそんな事を……」
「ユーリこっちは良い、皿用意してくれ」
「……うん……」彼女は食器棚にかかりきりとなる。
「衛兵隊が教えてくれた話じゃ、アンデットはご主人様が欲しいらしい、で、魔族が常に主に君臨する。魔族は巨大なアンデット軍団を支配して国を亡ぼすそうだ」
「僕はそんなことしないよ」ユーリの手が止まる。
トマは鍋に水を入れ煮込んでいく。
「魔族は成長と美食に魂を欲しがる。こいつのために国も滅ぼす。ユーリ俺が死んだら魂やるから、あんまり人を喰うなよ」
ユーリは皿をテーブルに並べている。
「トマは死なない僕が守る」
「そのために国を滅ぼし世界を食らうってか?」
「僕はそこまで強くはない、きっと誰かが途中で僕を殺しておしまい」
「……言いたかねえが言ってやる……ユーリお前が死ぬまで俺はお前の傍に居る。だから変に俺を庇うな。お前は俺を守り俺はお前を守る。コンビだ相棒だ。冒険者の普通だ。金を掴んで幸せになる。国だの世界だのアンデットの軍団だのどうでも良い、そうだろ?」
「変だよトマ?」
「……まあ、性分じゃねえな……だが、お互い魔の物、長い寿命だ。面白おかしく生きようぜ……俺は金が余裕出来たら……酒に弱いが戦場伝説あやかった蒸留酒を集める。お前は?」
「……」
「紅茶が好きだったな、高くてハイソなものを集めて淹れ方から拘って楽しいだろうな」
「……うん……」
「ユーリこっちに来い」
「……」
彼女はエプロンつけたトマの隣に立った。
小瓶が渡される。中で黒い小さな炎が揺れていた。
「こいつは俺が持ち込んだ話だ。強い魔族の戦闘能力と勤勉さに惚れました。どうか、改めて相棒になってください、これが契約金です」
「なんか告白みたいだね?でも、この炎をどうしたらいいの?魔法触媒?装備の強化触媒?」
ユーリが微笑んで受け取った。
「主、契約を果たせ、俺を愛し仕えろ……瓶の封印を解き炎を飲め」
「え?体がっ!」
ユーリの手指が震えだし勝手に小瓶の封印である札を破きコルクを抜いていた。
ユーリはトマに魔族の主従契約を逆手に取られ体を強制され炎を飲んだ。
「……どうだ?」
「……」
ユーリはハラハラと涙を零す。呆然とトマを見上げる。トマの魂を食べてしまった。美味だった。自分が命を捨てても良いから求め続けた物を手にした歓喜で震える。そしてそれ一瞬で消費し二度と手に入らない事実に絶望した。もはやユーリは歓喜と恐怖のとりこだった。人の魂の残滓。魔獣化したことで剛強となった憎しみと恐怖に飢えに彩られた渇望が感じる。恐怖故に大剣を手放したくない男はせめて逃げないやつだと自分に言い聞かせ戦闘することでその証明を積み上げる。
そして殺しの瞬間殺した相手に向かって、「お前より俺は上等だ」と確信し嗤う。
なんて浅はかな生き物であろうか。
魔獣化したトマの剝き出しの本心はそんな物しかない。
全霊で死にたくないと叫ぶ惨めな化け物の魂だった。
それを飲み干すサディスティックな愉悦的美味がユーリを満たす。
甘美であり悦楽であり、極上の麻薬も天国も生ぬるいと本能が囁いて確信する。魂の質では低いのだろうが愛しい男の魂である事実が言葉に成らない美味を生みユーリを魅了していた。
ユーリはじっと泣いたままトマを見上げる。
「おし、魔族に完全覚醒したな、どうだ?痛くないか?」
そこまで惨めな魂のくせに何故半分を切り裂い僕に渡したかわからない。
そんなユーリを置き去りに馬鹿は言った。
「これでお前は、アンデットの誘いも暗黒属性の誘惑も俺の命令権も、叩き潰す自由な強さを手にしたはずだな?」
「……魂半分割ったら死んじゃう……」
「人ならな、教会が手伝ってくれた」
「魔獣でも自殺するくらい痛い」
「生きてんだからいいじゃん……そろそろ煮えたな……」
鍋に固形調味料をぶち込んでグルグルグルとお玉で混ぜて焦げ付き防止、弱火で簡易シチューを完成させていく。
「パンは白パン、今日はごちそうだな、ああ、足りないか、サラダにドレッシングにデザートだ。飴垂れ蜜の良い菓子が売っていて、まあ、名前は覚えられんかったがお勧めだからきっと美味いはずだ」
ユーリはトマのエプロンを掴む。はっきりと現実をユーリは叩きつけた。
「―――、お腹が空いた。もっと貴方の魂をちょうだい」
なのに馬鹿は馬鹿のままだった。トマは事もなく言う。
「俺の魂喰ったら俺は死ぬからその後は、あんまり他の人の魂を喰うなよ?」
ユーリはトマのテスト不合格に激怒した。
こんな返事は人は愚か生き物として、いいや貪婪な狼魔獣として間違っている。気づけばダガーを抜いてトマの脇腹にぶち込んでいた。うつむき涙が止まらない歯を食いしばってユーリは言った。
「……僕は君の心が強くなるように設計図を引いたんだ。人のころの君ときたら戦闘は強いくせに心が弱い、強化しないと自殺しかねなかった。死なないように強い自己中になるように設計図を引いたんだ。魔獣となった変質した……今は僕に襲われている……僕に魂を捧げるな下僕っ生きる為に戦えっ!僕を殺せっ!僕を食べて魔獣として完成しろっ!誰よりも強くなれ……」
「ヤダよ、それより飯にしようぜ。人の飯が良い」
鋼のダガーをぶち込まれても高位魔獣にはどうでも良いことだった。
血を流したままエプロンを脱いでお玉を使い皿にシチューを盛っていく。
「それよりマスター返事がまだだ。俺はそれなりに強い剣士だ。西に冒険へ行きたい、そこには迷宮があってお宝ザクザク大儲けできる。だが、当面は強くなったり装備を買う金稼いだり、罰金を支払ったりで手が回らねえ、大回りだが最後は大儲けだ。相棒にならないか?偵察兵」
ユーリはトマが何を言っているかやっと判った。他に女の子の誘い文句を本当に知らない。これ以上女の子が喜ぶ言葉を知らない。儲けを語って夢を語って本人は興味ないお菓子を買ってご飯準備して、冒険と言う危険行為に誘う以上の「平和」を知らない。
トマはユーリに平和を教えようとしている。
大きなお世話だ。もっとましなことを言えっ!
ユーリは差別されたがトマよりは平和な都市で育った。
もっとましなやり方を知っているしセリフを山ほど十歳のユーリは知っているのに17歳のトマは知らない。この瞬間ユーリは世界が憎くなった。誰がトマをこうした?だが、ダガーを刺した手を握り三秒後憎しみ以上にトマを守りたくなった。どんどん気持ちが膨らむ、この馬鹿垂れには自分以外もしかしたら守るものはいない気がした。人はほだされたとでも言うのだろうか?うやむやに軽口をユーリを叩く気に成って居た。トマもその流れに乗った。
「トマ、ヘルムは……つけてないね、珍しい……」
「人前に顔をさらして不意に矢を射られてな、痛かった……で、怖くなったんだが……」
「それでいつもかぶってたんだ?」
「お前の面倒見るために都市で動いている時邪魔でな、脱いだら、平気になっていった」
「……そっか……」
「それより返事」
「顔近づけて♡」
「ヤダ、チューする気だろ?」
「ケチ」
「年喰って美人になってお前がその気なら抱いてやる」
「……楽しみにしている。逃がさない♡それまでは偵察兵やりますよ……」
「頼むぜ相棒、本当に、お前が暴れると借金がひどい」
「ファイブエッジがいなければ僕はトマの奴隷でよいくらいだ♡」
「アイツの事は言うな、そこで腹出して寝てるが悪口に敏感なんだ」
「彼女には甘いよね?トマ♡」
「強い奴には逆らわない、大自然の掟だ。そしてあいつは大人、責任感もある」
「嘘だっ!」
「別に信じなくてよいけどよ……お前を砦まで引き摺ったのは……」
二人は言い合いながら食事に入った。
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