黄昏の語り第三章、十一話

               「11」


 古代の話はいったん終わり現代に戻る。

 トマは鍛錬に入る.新たな己に成る為熱心にこなす。

 クワンガラ鍛錬法、まず、魔法弾を放つ魔方陣を四つ描く。

 次に秒間五十発放つように設定。

 距離十メートル地点より武装を構える。

 気合を入れる。

 座学で覚えた微弱なディスペルブレードを武装の打突部位に纏わせる。

 走ってもジャンプしても寝ていても何時でも出来るようにする。

 マッハ13の魔法弾が撃墜できると己を信じる。


 魔方陣を起動したら、微弱なディスペルブレードで、自分に飛んでくる魔法弾を撃破していく。

「ぐがあっ!いだっだだだだだっ!糞がーーー!できるかーー!」


 重要なのは神経が真面な事。

 

 対痛覚対策訓練を積んで自分の神経壊した馬鹿は一回神経を治してちゃんと痛い思いする事。


 魔法弾はただ痛いだけでなく、改良魔法弾である、人体を改良してくれる。


 魔物・魔獣には高性能化と低燃費、人には低燃費と高性能化、老人には延命健康、病人には体力回復、でも、凄い痛い。特に痛覚耐性獲得訓練積むような自分の生命も大事にできない奴は一番痛い目見る。


この時感謝せねばならない。恥ずかしがってはいけない。どうしても感謝が恥ずかしく声を出せない時は心で感謝し大声でボケ糞と叫んでよい。痛みが消える。だが、心を偽ると見抜かれる。


「クワンガラの馬鹿野郎っ!糞がーー!糞糞糞糞糞糞!」


 あと俺の悪口もダメ、子分が罰を与える。俺じゃ止められなくなる。

「ギャアーーっ!なんで魔方陣が勝手に増えんだよっ!連射性能が上がるしっ!射撃位置が動いていくし!なんだこの鍛錬法はっ!」


 そう言う時は一回土下座、神様でも妖精でも精霊でも大地でも海でも空でも宇宙でも友達でも上司でもネズミにリスでも蜘蛛でもうんこでも良いからちゃんと声に出して謝る。俺もなあ、止めたいけど無理、子分が育ちすぎた。ゾックにくっついていた妖精なんてもっと怖い奴だった。手加減ゼロだもん。


「クワンガラ様ごめんなさいっ!」


 そういった場合誓いを立てなきゃいけない俺に謝ったら駄目。


 俺に悪口を真剣に言った自分を否定して反省とかしたら、俺の子分が図に乗る。凄い調子に乗る。イラっと来るほど乗ってくる。


「なんでだ?なんでだ?妖精が集まってくる……なんなんだこいつらっ!一体一体が化け物だっ!誓い?え?話しかけてくるっ!クワンガラに謝ったら戦士の誓いを立てろっ?はあっ!?」


 逃げてもいいけど、二度と俺の鍛錬法使うなよ?普通に殺されるから止めとけとしか言えない。う~ん、そうだな、戦士としての誓い、俺もよくわからん?でも、なんか、カッコ良いこと言うと俺の子分は納得する。


「ヤダヤダヤダヤダっ!命懸けで格好良い誓いを立てろとか無理っ!」


 そう、格好良い戦士の誓いって命懸けに成るんだよなあ。

 勘弁しろって話だな。でも子分は許さない、早目に言わないと拷問再開だ。


「……」大剣と共に生き大剣で死にます。


 心で誓っても駄目。大声大切、聞いている証人が大切、岩に水に空に全宇宙に恥ずかしいこと言え。永遠の黒歴史残せ、ゾックはこう叫んだ「チンコなんかいるかっ!」神が泣いたぜっ!実際にちぎったからな。俺?「かかってこいやっ!」そう、乗り越えちゃった。恥ずかしい事言うわけないじゃん。死にたくないもん。戦士が誓ったら本気でやらにゃならん、俺は暗命派だから、世界を滅ぼすと叫ばにゃならん。親父に誓って駄目、言っちゃダメ。でも親父を乗り越えたら、妖精が俺に惚れたぜっ!


「……大剣使いとして全力で修業しますのでどうかお許しください……」


 あちゃ~!懇願しちゃった。一番駄目。最初に俺の修行法に頼って、次に修行法開発者の俺を罵って、それでも痛いの怖くて誓いも言えず俺の子分の妖精に縋るとか、駄目、無理、お前落第、止められない。


「……痛くなくなった?」


 違う、子分が笑ってる。ほら来た。


 トマの前に魔で天空を割って一振りの大剣が訪れた。

 美しくも尋常では無いオーラを放ちそこに浮遊する。


「神々しい大剣?」


 時空が歪んで人払い、神剣と己の対話開始だ。天空より来たりし神剣フラガラッハだ。もちろんレプリカ、威力本物。形と能力は子分の好みで毎回違う。握った瞬間、お前勇者な、世界を救う仕事押し付けられる。完璧なロボット兵器になる。心は一応保存されるけど、戦闘が終わった時に一気に感情が吹き荒れる。辛いのに死ねなくなる。世界、つまり過去未来現在すべての宇宙を救う永遠戦争がお前を待つ。一国家の一時代は愚か惑星一つ分じゃすまなくなる。中世しか理解出来無い妖精の稚拙な倫理観に逆らえない終わらないこの世のドブ攫いが始まる。


 さあどうする?


「いっいりません」


半分正解、残り半分言え。

怖いぞ?怖くても言え、泣きながら震えて言え、悲しくても言え。


 トマの顎が強制的に動かされ喉が意思に逆らい動き発音していた。

 トマの体が神剣へ勝手に跪いていた。


「俺はっ勇気がないっお許しくださいっ!代わりに、マスター・ユーリをを守るっ!人を辞め魔獣として剣技を磨きますっ!魔族のあの子が生きていける場所まで守りますっ!人を食べ魔物を倒し神を殺し世界を喰らい勇者に殺されるとも彼女のために戦いますっ!だって、、、あの子の運命は、暗いからっ!俺がいる時だけ明るいからっ離れませんっ!俺は一万年生きるがっそこまでは耐えるがっ!後残りの時間1400億年の時!宇宙が滅ぶとも永遠に一人なんだからっ俺だけは生きている間っ!寄り添いますっ!でもっ俺はあの子を愛していませんっ!どうでも良いですっ!殺し殺され憎んでいられればそれでいいですっ!だが……あいつが……可哀そうだ……」


 ―――、そう、運命を強制的に言わされる、―――


 口も顎も喉も肺も勝手に動き己が己の運命を告げる。

 そしてお前は記憶を失う。

 脳内では、無かった事になる。


 子分の慈悲だ。だが、悲しみと確信が胸に残りどうしても覚えていない心の誓いに逆らえなくなる。ゾック鍛錬法は死んでもいいから守りたいものがある奴にしか読めない。お前は人として剣士の矜持を死んでも守りたかった。が、違えた己を許せなくなり俺の鍛錬法を読んだ。


 俺の鍛錬法は、強くなると誓う鍛錬法。


 誰でも読める。誰でも強くなれる。誰でも理不尽を殴り返せるようになる。

 善悪ではない、理不尽を殴るための強い体つくり。

 つまり戦士に成る為の準備、健康法だ。

 悪党だろうが魔物だろうが悪魔だろうが理不尽が起きたら一発ぶん殴る。


 女だろうが賢者だろうが培養層に浮かぶ手足のない兵器の脳みそだろうが理不尽あったら理不尽ぶん殴る。


そのための修行法だ。ただしちゃんと嘘つかず「ふざけんなっ!」と思えなきゃ、言えなきゃダメ。心の嘘つきには俺の修行法は読めない、見えない、感じない、気づけない、だからどこの国でも修行効果のない偽書として人を惑わすから、禁書のはずが、―――


 時代が変わったな、どこの書店にも売るようになった。へんなの……


 だが、子分は不満だ。開発者に敬意を示せと言う。宥めた。

 でも修行法頼ったくせに悪口言って誓いも立てられなかったら勇者の刑だ。

 こいつは宥められんかった。

 その勇者の刑も嫌な臆病者は、運命の刑だ。

 真実が告げられ覚悟が植え付けられ不幸になる。


―――、トマの横、クワンガラ修行法の載った本はページの中でクワンガラの口語説明的な文章が次々浮かんでは消えていくが、トマはぼんやりと空を見つめるだけで何を自分が口走ったか忘れてしまった。


「?なんで俺泣いてるんだ」


トマは鍛錬に戻っていく。ただの本に戻ったクワンガラ鍛錬法で基礎戦技を学び肉体改良を続けた。ただ、この日より少しトマはユーリに優しくなった。

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