黄昏の語り、第二章、十一話

             「11」


 イズオレフさんの救出後ユーリを追いかけたが、ブラッティーラーテルとユーリは高速戦闘で森を駆けたようである。


 トマが追い付くころには道に迷った。


 最悪過ぎて舌打ちするが、今は仕事中。


 イズオレフさんを庇いユーリに戦力復帰を促す。


 全然上手く行かない、目が虚ろだ。


 致し方なく、ブラッティーラーテルの頭を切り、ユーリの手指を取り出し牙で裂かれたグローブを外し治療。獣の牙は一般に雑菌塗れ、牙に傷つけられ手当が遅れれば傷が腐って命とりだ。


 急いで治療していくが途中でユーリが正気付いた。

 やっと索敵魔法が復帰してくれると安堵したら大声で泣きだした。

 しがみ付いて離れない。

 、、、ユーリが完璧に戦闘不能になった、、、


 全然真面な仕事が出来なくなり、トマの回りをウロチョロするだけに成ってしまった。ヤバい、そろそろ黄昏時である。道に戻って野営準備しないと魔物犇めく森で夜を迎える。


 明日の朝にトマたちの骨が残るかどうかの瀬戸際である。


 イズオレフさんの土地勘と、トマの天測で位置確認して急いで一行は道を探して走って行く。


 ユーリが正気なら地図読みを手伝わせたのだが愚図ついて話にならない。


 忌々しそうにユーリを睨んでも卑屈にえへえへ笑い、次に泣き出す。そしてしがみ付いて移動の邪魔をする。ぶん殴りそうになるがユーリが十歳の餓鬼と思い出し諦めた。戦闘が要求される冒険に適性を無視して連れて来たのはトマである。訓練目的だがユーリは最初から怖がっていた。其処で無理させてこの様、つまり、上手く行かないのは自分のせいである。


 其処に気付いてトマは、ユーリを睨むことを辞めた。


 道を見つけ一同安堵した。


 生き延びてイズオレフさんもユーリの慰めに入ってくれて何とかその日をやり過ごせた。


 次の日、ユーリはマシになったが、まだ硬い。索敵はしてくれるがそれ以外が無茶苦茶。足手まといになったままだった。トマは八歳ぐらいのころから戦闘員をやっていたが、ユーリみたいな奴を見かけた。才能はあるのだが適性が無く、徐々に心と肉体のバランスを崩し仕事に耐えられなくなり、逃げだすか死ぬ。トマは鈍く才能が無かったが、悪に適性があり頑丈で生き延びた。それを思い出しトマは溜息を吐く。


 ユーリが壊れる前に、一度落ち着いてもらい戦闘から遠ざけるより他はなさそうである。


 旅を続け、最後の道のりを越えると森の中、魔導具を見かける様になる。


 フトキギアリフロと言う妖精をかたどった魔道具で機能は魔物除け、稼働してる。薄く、小さく、囁くように何時までもリーンと鳴り響き魔導具の像は魔物を音で追い払っている。目的地ゼオラ風車村の防衛領域に入ったのだ。かすれた看板が近くにあり、そう書かれてもいる。


 それを見てイズオレフさんが大きな笑みを浮かべ、背後のトマに振り返る。

その時トマは大剣を抜きイズオレフさんに振り切る。


抜剣上段打ち下ろしが笑顔のイズオレフさんに迫って行き、見ていたユーリが目を見開く。イズオレフさんに向かって森から飛び出したブラッティーラーテルがイズオレフさんの首を食いちぎる前に頭部が縦に割られる。鮮血が飛びイズオレフさんは血塗れになった。そしてトマは左腕を伸ばし魔導砲撃、貫通型魔法弾は高速飛行してユーリの背後を狙い大樹の枝より落下する番の雌ブラッティーラーテル、その胴体を貫通型魔法弾で抜いた。


 ユーリとイズオレフさんが呆然とする中、トマは殺人機械じみて規則的に歩み、落下中に負った大怪我で混乱し暴れる雌ブラッティーラーテルの背骨を叩き切り止めを刺した。


「……イズオレフさん……魔物除け魔道具は魔物を追い払いますが防御結界じゃないんです。森に魔物が溢れて居たりしたら此奴らみたいに押し出され不快な音なんて無視、獲物を探します……危険な旅の途中です。思い込みだけで安心せず警戒を続けてください……ユーリ索敵はどうした?」

「……気付けなかった……」

「理由は?」

「……魔物が動かなかったんだ……索敵魔法は動体を検知し易いけど動かない待ち伏せに少し弱い……慣れない僕は見逃した……ずうっとここを狩場にして、魔物除け魔道具を見て油断した人間を襲ってきたんだと思う。魔物除け魔道具はこれが一個目、一個なら、ギリギリ中位の魔物でも不快感を我慢できる……ヨーゼフ教官はそう言っていた……」

「次から気を付けろ」


 ユーリが泣き出しそうになりトマは無視していく。


 出稼ぎで村と都市を往復して毎回ここを通るイズオレフさんが今まで襲われなかった理由は、ブラッティーラーテルが雑食で何でも食べ、トマがそうであるように危険度の高い人間をあまり襲ってこなかった為である。つまり他の犠牲者で満腹な魔物にたまたまイズオレフさんは見逃してもらっていた。これも彼の幸運がなせる業だが九死に一生なのは違いなく、運とは偶然に過ぎないから、次は確実にイズオレフさんを殺すかもしれなかった。


 その事実を理解できないほど子供ではないイズオレフさんは血塗れで愕然とする。其処にトマは浄化魔法を一発放ち、護衛対象を身ぎれいにして旅の続きを促す。イズオレフさんは大人で勇気もあり、ぎこちなくだがスグに歩み始めた。


 三十分後森は急に開け、景色が良くなる。


 岩山の半ばから平原の途中まで広がる村が見え、複数の風車が回る。


 工作動力の風車が木工を続け木工絡繰りが組み立てられ倉庫に仕舞われる。


 魔物除け魔道具を定期的に見かけ道は土から石畳に成り防壁を見かけ橋には護神の彫像が彫り込まれる。畑と家畜小屋があり、衛兵塔が見え武装は槍と盾。小銃も、魔法鉱石製武具も、魔道具化武具も無く、只の槍と盾と鎧。


 春の風が一陣吹き、草原を撫で上げる絶景。


 看板が古ぼけて立ち、、、邪神エヴォディーカの遺跡あります。詳しくは、お食事処、紅花蜂蜜と書かれている。


 恐らくは観光案内であろう。

 村の入口までくるとイズオレフさんはトマに向かう。


「助けられました。特に最後の剣捌き、もう、俺が斬られて殺されるかと……」

「……悪かった……」

「何故ギリギリまで、迎撃しなかったんです。貴方なら攻撃魔法で遠距離から、、、」

「素早く、動きも良くてな、遠距離攻撃は回避される……引きつけてタイミングを待った」

「なるほど~そうか、最後の一匹は落下中で回避が出来ないから撃ち落とせたのか……」

「そんな所です」

「いやいや、俺、戦闘員に成れそうもないです。とっさでそこまで考えられませんよ」

「……はあ……ありがとうございますう?」

「敬語苦手?トマさんらしいねえ!兎も角依頼達成を認めます。こいつを組合支所に提出すればお金が入りますので無くさないように……」

「ありがとうございます」

「ユーリちゃん、守ってくれてありがとう。無理しないでね?この村は平穏だし弱い魔物しかいないから、安心して!この村の入り口にある酒場、紅花蜂蜜が美味しいお菓子を創るから食べて行ってね……じゃあ、元気で……」


 言い終えるとイズオレフさん好青年らしくにっこり笑い大好きなわが家へ走って行く。


 畑も風車も機械も森も人も景色もある故郷が好きなイズオレフさんは、大声で「帰って来たよ」と叫び小高い丘の自宅へ一直線。冬の出稼ぎ成功で、お金があるから今年も勉強を認めてもらい家族を呆れさせる気満々な農家な自宅へイズオレフは駆け込んだ。きっと来年の冬も魔物を掻い潜って旅をして出稼ぎに向かうだろう。機械工となり村を発展させる夢が熱を失うまで、あるいは道半ば、魔物に喰われるまでは止まらないだろう。もしかしたら夢叶え本当に機械工となるやもしれぬがそれはトマが興味を持つ話ではない。


 が、それは未来の話、今はユーリが問題だった。


 トマが買ったレザーメイルを冒険一回で破損させて俯くユーリを慰める方法が判らない。

 

 トマにはそっちの方が大変だ。


 護衛依頼が、トマとユーリ共同で達成された証書片手にゼオラ風車村冒険者組合支所へ向かっていくのだが、とにかくユーリが暗い、鬱陶しい、しかも話しかけて来る。


「……」

「あの」ユーリからとても小さい声がでた。

「なんだ」

「防具壊してごめんなさい」

「気にすんな、装備は必要経費。それよりブラッティーラーテルを仕留めるとはやるじゃねえか」

「……怖かった……」

「殺しに才能がある。お前くらいの時、俺はもっと雑魚に負けて苦戦した」

「怖かったんだ」

「怖いのは分かったよ。喰って寝ろ。そしたら気分もマシになる。そろそろ組合、護衛依頼達成で金も入る。正当報酬だユーリ喜べ」

「……捨てないで……」

「は?」

「捨てないでッ!何でもするっ!どんな命令も聞くっ!すてないでっ!」


 ユーリは強く心から大声で叫んでいた。

 トマはユーリの愛の真剣告白に感動する。心が動き感想を心で述べる。

 ~村の往来で人に見られる中~

 ~十歳のメス餓鬼様、俺にそんな事言わないでほしい~


 ユーリはそんな思い抱えるトマのガントレットに縋りつき抱しめて離れなくなった。トマは見なかった事にして進む。

 何も聞かなかったことにして、己のロリコン冤罪に怯え、組合内部に入ると、中はしんとしている。


 人は居てさっきまで酒盛りをして五月蠅そうな音で満ちたゆる~い田舎冒険者組合支所の騒音が途切れ視線がトマに集中した。あろうことか爺さん冒険者が酒の瓶を倒して凝視。叫び主のユーリと叫ばれたトマを見比べて静か~に大爆笑している。


「美少女だ……」

「……告白だよな?」

「……抱き付かれてる……」

「……ええっ?俺そんなこと一回も……」

「……言われてみたい……」

「でも餓鬼だぜ?」

「……餓鬼の内から育てて仕込む……良いなあ……」

「漢ロマンだっ!」

「……現実にあるとは……」

「山羊の角……孤児だな……美少女孤児を騙して侍らせてんだろ?鬼畜じゃねか?」

「都市じゃ山羊の混血は教会も引き取らない殴られ孤児だ。流れの馬鹿が助けたんだよ……」

「懐き具合みて察しろアホウ……山羊獣人の餓鬼は死んでもは悪党に懐かない、ビビって逃げだすか、弱いくせに逆らって殺される」

「……ちっ……そうだった……」

「……馬鹿が孤児助けてそれでも差別されて……田舎村に逃げ込む……か……泣かせるねえ」

「俺孤児上がり、実際に助けられて冒険者に成れちゃった」

「冒険者が孤児を助け、孤児は冒険者に成って、でも、魔物に喰われて、どっちも消えて行く……」

「……孤児あるあるなんだよなあ……」

「実は俺も」

「マジかよ?てっきり良い所の坊やとばかり……」

「な訳ねえ~冒険者の貧乏おっさんと教会の貧乏シスター婆が助けてくれた」

「……大剣使いって不細工でもあんな感じにどうしてモテるんだ?」

「近接兵は義理堅いから女が騙されるだけだ」

「魔物相手に白兵をする糞度胸で世の中が怖くなくなって、御金のために戦って命捨てる生き方だから、どうしても生きてる可哀そうな人に義理堅く成っちゃうんだよなあ~あいつら馬鹿だよな~儲け捨ててガキ引き取るとか、魔法使いの俺には貧乏籤にしか見えねえ~ついて行けねえ~」

「……しかも、女っていくらでも化けるから、最初の無能と不細工とか努力でどうにでもしちゃって、近接兵を死ぬまで追いかけて一緒に戦場彷徨って……片っぽ死んで、結局不幸になる……この村でそんなの止めて欲しいなあ……」

「来ちゃったんだから、しゃあねえよ」

「歓迎会開く?」

「まあ、いい奴なら、それもありかなあ?」

「バーカっバーカッデベソッ!唐変木っ!いいかっこしい!振られろっ!羨ましくなんかねえ!」

「止めとけ、俺らにゃ娼婦のイエオネちゃんと娼館メレンゲ亭がある」

「イエオネちゃん含め娼婦に三連続で振られてんだよこっちはっ!」

「……」


 トマは、酒の席の関係無い話と妄想含め好き放題ボロッカスに言われた。

 付き合い切れないので完全無視。

 トマは速足でつかつか進み受付に依頼達成証書を叩き付ける様に提出。

 報酬片手にゼオラ風車村冒険者組合支所の事情を受付から聴いていく。

 判明したのは村に冒険者用宿屋が無い事。

 組合支所が部屋を貸すので格安で泊まれるが食事は酒場で摂れと言われた。

 

 支所で泊まるために金を出し、トマは鍵を貰いユーリを連れて夕飯に食べに酒場、紅花蜂蜜に向かった。受付の毛が長い牛獣人の老人が行ってらっしゃいと言い、その場を辞する。


 ユーリの不幸と思い込みなど酒の肴でしかないゼオラ風車村は、かなりのんきな村のようである。だが、少なくともヨーゼフ教官がお勧めしたように、ユーリを差別したい者は居ないようだった。


 こうしてここに、初めての護衛依頼は成功裏に終わる。


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