黄昏の語り、第二章、九話

                   「9」


 次の日の早朝、冒険者組合で依頼受注証書を発行してもらう。


 その足で依頼主イズオレフさんの元に向かった。


 都市の西、宿屋通り三番街エネルフの鳴き声亭は、冬の出稼ぎ職工たちの泊まり込む宿の様で多くの職人とその仕事道具見かけた。魔導具の大物工具もあり、ドリル迄見かけるが使い道が判らない。


 廊下まで仕事道具が溢れた安宿亭主猫獣人のイコさんに案内されイズオレフさんと面会。

 イズオレフさんは筋骨たくましい好青年であったが護衛を雇うほど戦闘はからっきしの職人らしい。


「トマ、ランクE、護衛依頼を受けに来た」

「ユーリですっ!Gランク冒険者ですっ!ヨらしくお願いします!」


 ユーリさんは緊張で少し言葉を噛むがぺこりゃんと頭を下げて、やる気十分・気合い満々を示す。


 イズオレフさんは、あちゃーと言った感じに自分の顔を叩く。

 依頼主のイズオレフさんはユーリに目線を合わせる。

 イズオレフさんはとりあえず、確認。

 装備は良い。

 だが……ちび助、儚げ、重いモノ持てなさそう美少女ユーリさんに質問。


「Gなの?しかも君何歳?」

「十歳ですっ!」

「……闘える?」

「無理ですっ!」


 その返事にイズオレフさんの精神がグンニャリ歪み奇妙な世界に入った気分を味わう。魔物と闘える人材に守って欲しいから護衛依頼にお金を支払ったら、見た目通りに戦えない子供がやって来たのだ、、、どうしよう?


「……ユーリ、一回黙れ……」トマが急いで介入した。

「はいっ!」


 ユーリさんは返事だけ良い、自分の口に両手を当てて黙り始めた。

 その間にトマは説得攻勢を混乱するイズオレフさんに仕掛ける。


「イズオレフさん、ユーリは索敵魔法が使えて訓練を受けています。無能ではありません」

「でも……十歳だよ?」

「……ユーリは水作成魔法が使えて種火魔法が使えて適温魔法が使えて暗視魔法が使えます。他にも料理出来ます。旅が格段に楽になり、夜の闇を見通し警告してくれます……」

「魔法使いか……なら、まあ、うん」

「ユーリの索敵魔法と暗視魔法で警戒。ユーリの報告で魔物を避け旅をつづけ、避けられない魔物が出たら基本的に俺が闘います」

「君の背中の大剣は使われているようだし……大剣の素材は赤色魔法鉱石?鋼じゃないよね?」

「そうです」

「……判った。護衛を頼むよ……疑って悪かった。道中には鋼を弾く強い魔物が出て怖くてさ」

「いえ、当然の事かと」


 どうやら実力を疑われた末の土壇場キャンセルは避けられたらしい。トマの差し出す依頼受注証書に依頼主イズオレフさんのサインが無事に乗り、護衛依頼が始まった。春風受けて宿を去り都市の東門をくぐり残雪残る都市の外、遠く見れば東へ街道が続き森がち。地図に在っては集落が点在し、食料を生産、森でしか取れない魔法植物の採集で生計を立てているとの事。第一目的地ドネフ村までの道のり一週間は平穏その物、都市ムフローネス周辺距離、約一週間の徒歩距離は中継地点が点在し、その集落を死守する為に無理を押して下級・中級冒険者が魔物討伐に明け暮れた成果である。


 森も多いが行きかう人も多く春の草花が風に揺れ平穏だった。


 移動途中、最下級スライムがぬるぬる蠢いていたが一匹でしかも遠ざかって行く。緊張しっぱなしのユーリは兎も角、お気楽な旅と野営が続き天候にまで恵まれ中継地点の集落ドネフ村に到着。


 ドネフ村から道は六個に別れそれぞれ別の村や街道へ続いている。


 故にドネフ村には別集落からの旅人情報が集まり、都市ムフローネスへ向かう東からの旅人が最後の休憩を入れていく宿屋村でもある。食事美味しく宿賃は安く、流行の酒、服、生活雑貨情報がそろい、ここで情報を仕入れ都市ムフローネスにお買い物へ出かけるのが一番の楽しみなんだとか、そんな話を依頼主、イズオレフさんは語る。


 旅と野営ではトマが戦力として警戒、ユーリが索敵報告・調理・水作成。

 イズオレフさんは手厚く守られて少し肯いた。

 仕事の真面目さが一週間かけて伝わったのだ。


 それで少しイズオレフさんの心がほぐれ宿の飯を契約通り奢ってくれた。契約には食事を出すとも書かれて居てユーリは少し楽しみだったのだ。クリームパスタとチーズリゾットと、カブの根菜サラダと牛肉のステーキとデザートにはエネルフが出た。エネルフは魔法植物で春の果実。鳥の鳴き声をまねて音を立てる奇妙な植物だが、実を房から取り出しパイ生地に混ぜて焼くと春の絶品となる地方料理だった。


 バター薫(かおる)パイを齧(かじ)ればザクザク触感のすぐ後に濃くも甘酸っぱい美味が口に広がり、えも言えぬエネルフの香りが口から鼻へ抜ける。果肉は程よい硬さの小さい種が一杯で嚙み締める程プチプチ砕け気持ち良い。


 ユーリはエネルフパイが美味しくて泣きそうである。


 盗賊の里山育ちで春には食料不足で生エネルフと虫料理ばっかり食べてきたトマは、無表情で平らげていく。カミキリムシの幼虫よりは手の込んだ料理なので文句はないらしい。依頼主のイズオレフさんは冬の出稼ぎが成功して懐暖かく帰り道の三分の一が早くも終わりご機嫌でビールを飲み、ジャガイモとソーセージを齧り、自分も嬉しそうにエネルフを食べていく。


「いや~ユーリちゃん見直しちゃったよ。野営が本当に楽なんだもの、魔法さまさまだねえ」

「えへへえへ」


 ユーリは手も無く喜ぶ。

「でも、此処から先は魔物討伐が追いついていない、、、明日からもよろしく、、、」


 お酒が入ったとは思えない真面目な顔でイズオレフさんはユーリとトマに頭を下げた。

 トマも真顔と言うかヘルムの頭を下げて肯く、ユーリは少し食事を忘れるほど緊張したがぎこちなく返事を返した。

「がっ頑張りますっ!」イズオレフさんは苦笑してユーリに言った。

「無理しないでね?」

「はいっ!」


 宿屋、四季の倉亭で一晩明かし、料金を全てイズオレフさんが出し、お弁当まで奢ってもらえた。ここから先は命がけであり、金をけちって護衛に見捨てられ死んだら目も当てられない。


 それ以上にイズオレフさんが好青年だからの紳士的態度だった。風車修理工として勉学を積み、機械工としても勉強中なイズオレフさんは冬の出稼ぎをあと数年続けたら機械大学に通う夢がある。其処で工学知識を学び直し故郷の村を繫栄させたいのだ。幼いときからその道を走り続け気付けばひどいお人好しに成っていたが、周囲の人は彼を好いたので破滅するような運命ではない。火を使う機械仕事と勉学で視力を落とし、だが、少しづつ回りと自分を幸せに引き寄せていく幸運を掴みかけている職人だった。


 運命も彼に味方した結果今日が来て冒険者の護衛がトマで彼の背後を守る。


 前衛にはユーリが立ち索敵魔法を常時展開、魔物を探知しては迂回路を提案する二週間が始まった。ユーリは仕事する。魔物発見、魔物の強さを類推、地図を開いて迂回路構築、唯一戦力にして、リーダートマへの迂回路提案。野営時の索敵警戒、調理、トマと交代の夜間警備。


 獣人族の人より優れた体力ありきで旅を、何とかユーリは十歳ながら乗り切って行く。

 

 ただし、本日は戦闘発生。ユーリも動員された。道一杯に虫型魔物ワーカーアントが溢れていた。


 春の巣別れかも知れない、別の理由かもしれないが2メートル近い蟻の魔物が延々と無数にうろつかれては移動できない、発見されても近付いても食料と認識され襲われる。ユーリは索敵魔法を切り、簡易地図を開いてワーカーアントの範囲をトマに示し、トマの判断は撃破だった。


「切り抜けるぞ、殲滅だ」

「……でも……」

「ワーカーは下位の魔物、ソルジャ―の半分の体躯に装甲の硬さは十分の一、動きだってソルジャーよりずっと遅い。ユーリ、ライトニングバレット連射だ。お前がやれ」

「……うん……」


 戸惑うユーリに現場を任せトマはイズオレフさんの元へ向かう。

「イズオレフさん、ワーカーアントが出ました。俺の傍から離れずついて来てください」

「2~9匹くらいでしょ?俺も踏み潰し手伝うよ、、、弱点踏むと案外簡単に……」

「百近い群です。前に出ないでください」

「ひえっ!骨も残らないよっ!迂回しよう」

「周辺にホレストフッドが居ます。迂回すると鉢合わせして戦闘になり下手すると、ワーカーアントに気付かれ挟み撃ちです」

「あわわわわ」

「ユーリが殲滅するので落ち着いて、、、」

「無理無理無理逃げようっ!ユーリちゃんが危ない!」

「イズオレフさん、大丈夫ですから」


 トマが慣れない説得をしている時ユーリは訓練通りに両手を突き出し照準。


 道のわき、草原から延々と侵入してくるワーカーアントへ攻撃魔法の準備をする。


 ユーリはトマに教わった魔法訓練と買ってもらった魔法増幅発動体の御蔭で破壊力だけは一端だ。あとはワーカーアントを殲滅できるほど魔力が保つかどうかである。イズオレフさんを何とか説き伏せたトマがユーリの背後に立ち何時までも攻撃しないユーリに痺れを切らしわざわざ、射撃許可を出す。自分は周辺警戒、不意打ちに備えた。


「ユーリ、攻撃開始だ。良く狙え」

「うん」


 ユーリは初めての実戦と無数のワーカーアントに震える。ワーカーアントは最下級スライムに勝るとも劣らない雑魚魔物だが、数が多いと中位の魔物を時に打ち取り骨も残さず食べきる。自分より大きな蟻に捕まれればユーリの頭など一撃で食いちぎられる。怯えてユーリは思わずトマを見つめようとするがタイミングを読まれべしっと叩かれた。


「さっさと撃てッ!」トマの怒鳴り声が蟻の魔物より怖くてユーリは気付けば攻撃していた。


 ユーリの突き出した両手が丸く輝きライトニングバレットが連射されていく。命中率は悪く無い、ワーカーアント一匹に五発ほど放ち二、三発直撃弾が出ると次々照準をユーリは変更して標的の数を減らしていく。ライトニングバレットは高価な魔法増幅発動体、白色魔法鉱石製指輪の御蔭で凄まじい威力となりワーカーアントを一撃でオーバーキルしていくが、ユーリは加減が判らず二発も三発も浴びせないと安心できないようである。


 御蔭でワーカーアントの素材はほぼ全滅レベルで損壊していく。


 一分かからず掃射が終わり、死屍累々の有様、山羊獣人は戦闘員としては不適合でも魔法使いとしてはポテンシャルがかなり優れる様だった。ユーリの残存魔力はその証拠に大分残り疲れすらない。そして結果にトマは首を振る。


 無駄な射撃、戦闘躊躇(ちゅうちょ)、勝てる状況を見抜けない臆病さ、撃破した魔物の過剰損壊による利益全滅……。褒められるところがないかも知れない。


 だが初陣を生き残った以上褒めねば、恐怖からユーリが折れかねない。

 ユーリの育成に少し頭を抱えるが、トマは言った。


「良くやった。戦闘時間一分、消耗は魔力のみ、百匹殲滅成功、大戦果だ」

「ホントッ!?」

「ああ、だが素材が損壊したから回収不能、利益に成らん。戦闘員では無く冒険者なんだ。魔物の換金部位を壊さない魔法の使い方を覚えて行け」

「頑張るよっ!」


 戦闘の緊張が抜けない様だがユーリは健気に言う。

それから索敵魔法を使い警戒に戻った。

 その後も魔物の出る旅は続いた。


 ホレストフッドと言う魔物が厄介であった。植物の魔物で一見ただの樹木だが、足があり周辺を静かにうろつき獲物を背後から襲い根で絡め捕って吸い殺し栄養にしてしまう。ユーリの未熟な索敵魔法を掻い潜り深夜接近して襲う事がしばしあり、護衛対象のイズオレフを攫いにきた。


 索敵を掻い潜り、気配を消して近付き、弱い標的を見抜いて襲う。


 強さよりその狡猾さが厄介な魔物で普段、ただの樹木であり、発見が難しい、こいつの迎撃にトマは少し眠れなくなった。闘えば大剣の一撃で終わり、あるいは魔導砲撃でまとめて吹き飛ばし殲滅、だが、寝ている時に襲撃対応してユーリやイズオレフさんを守り切るのに苦労した。


 さらに数日歩くと今度はシュネーフロッグの群れに襲われる。


 ユーリの索敵が利いて奇襲は避けられたが魔法の雪を操り人を凍らせ、舌で絡め丸呑みしてしまう大きなカエル型魔物が八匹ほど、一度に跳躍してトマたちを目指した。相手の突進速度が速くトマは焦る。


「ユーリッ!イズオレフさん連れて距離取れっ!」


 叫んでトマは久しぶりに強化魔法全開・身体能力を激増させ相手の雪魔法を躱し、伸ばしてくる舌を避け駆け抜け様に大剣で急所を抉って行く、振り返り残敵を探すが居ない。動きが良くて警戒したが体が脆く、一撃で死んでくれたようである。トマは溜息を吐いて安堵した。


 相手の速度が速く、攻撃速度も早かった。


 未熟なユーリは愚か非戦闘員のイズオレフさんでは手も足も出なかっただろう。一匹でも後方に迂回されユーリたちを狙われれば、死者が出た可能性が高い。戦闘は一瞬だったが気の抜けない戦いだった。ユーリの訓練がてら一匹だけ素材解体してもらい素材回収すると旅に戻った。


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後書き、この後書きは読んだ人が現れた場合三日で消える謎の後書きである。いや~12月1日は修正祭りでしたよ。USBには完璧な文章を書いたつもりがコピー&ペーストで張り付けると崩れている部分が発生するとは思わなかったですよ。作品の質が低いと言う突込みではなく、文章位置が崩れるとはっ!そんなんで読んでもらえなかったら死んでも死にきれないでやんす。まあ、これからはちゃんと確認してからネットに上げますと誓い,

ではおさらば、、、

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