黄昏の語り、十八話

                「18」


 少々時間を過ぎたが六日目に錬金術のお店に向かい預けていた鋼のナイフとダガーと赤色魔法鉱石大剣を引き取る。


 鑑定魔法には確かに魔法が込められていると表示が出て一安心。

 朝だが冒険者組合へ顔を出さず回れ右、借家に還る。


 家に帰ればユーリがトマのダガーで素振り中、勤勉な為に動きは徐々に良くなっているがそこまで戦闘の才能は無い様である。懐きやすく思いこみやすい孤児に戦闘の才能まであって付きまとわれれば刃傷沙汰になりかねない。ユーリが雑魚で良かったと内心見下す器の小さなトマはユーリに話しかける。


「少し、真面目な話良いか?」

「お仕事は?」

「それ含め話し合いだな」


 二人は食堂に向かい、椅子に座った、小さいユーリに、イスが大きく手足をプラプラさせている。

「お前の傷はほぼ治った。だが、長く冒険者やって行くには能力が低すぎる」

「……うん……」

「訓練は続けるとして、少しお前を強化したい、魔法でな」

「魔法で?」

「ああ、魔法だ。正確には体内に制御系、つまり、魔石を体内生成して魔法使いにし、攻撃魔法・支援魔法が使える冒険者となり、基本は索敵、物資運搬で働いてもらい、安全な遠距離から魔法攻撃、緊急時はダガーで自衛、普段は支援魔法で旅の補助……そんな冒険者ならお前もやれるんじゃないかと……」

「おおっ」

「獣人族は身体能力が人よりずっと高いから、長旅の荷運びでもへこたれない、魔法で索敵できるサポーターは稼ぎも良い」

「それで魔法使いに僕が成るって事?成れるかなあ?」

「その点はお前は運が良い。なんたって獣人族だからな」

「?」


 トマは説明に入った。


 ―――、獣人族の異様な身体能力の高さは、体内に既に魔石が生まれた時から心臓隣にあり、体内に吸収・生成した魔素を魔石に通し魔力に返還・身体能力強化魔法と成し、本能かつ無意識で使用する事で圧倒的な運動能力を獣人族は常時確保している。人族の場合、魔石が体内にそもそも無いから増設するんだがちと危険で、最も魔石化に向いた部位、つまり元からの制御系、脳を一部魔石化する。この施術は危険で、ワルツ盗賊団で成功率七十%、普通の魔法使いで百パーセント。失敗時には死亡、あるいは魔物化する、―――


「魔物化?」ユーリが思わず尋ねた。


 そう、魔物に成る。


 魔石があるかないか、それが人族と魔物を分ける根拠だが、魔石の体内成長をやり過ぎると本能が攻撃性で汚染され見境ない魔物に変身、目につく物を襲い食い荒す様になる。故に人族の場合一か月かけて体内に少しづつ新たな臓器「魔石」を精製して魔法使いに必要な性能まで新しい臓器を育てていく。

 

 此奴の術式を俺は使える。


 それに獣人族は生まれた時から魔石があり、しかも脳ではなく心臓隣、魔法使い分の容量だけ魔石を少し育ててやるだけで施術は終わり。施術時間は一か月かかる人と違い、成功率は129,7パーセント、所要時間十分、予後は経過観察二日で終わり。


 其処まで聞かされてユーリは質問した。

「ねえトマ、魔石が生まれた時からある僕たち獣人は魔物なの?」

「違う、変異を促す魔素は世界にそもそもなかった。そいつに適応したのが魔物で人族は適応失敗例。獣人族は適応成功例、魔物よりずっと上等で人より肉体が強く、魔法使いのポテンシャルも莫大。文化にあっては人族よりよほど家族と郷土を愛し、心と情の深い一族……つまり生まれながらのエリート様が獣人ってわけだ。誇れ」

「う~ん嘘くさいなあ」


 ユーリは首を振る。トマは話を戻す。


「リスクはあるが成功率は、百パーセント越え、魔法使いに成ればお前の将来はぐっと明るくなる。どうだ?試してみないか?」

「トマ、僕が……施術失敗で、魔物に成っても一緒にいてくれる?」真剣に尋ねた。

「殺してさよならだ」


気楽に言われた。

ユーリは俯くがそこに、こんな声が聞こえた。


――、だが、理性があって人型なら便利そうだ。そん時は相棒で頼むぜ、――


 ユーリは元気よく顔を上げて肯いた。止める者が居ない午前、ユーリは魔法使いになると決めた。トマは施術準備に入る。まずは鑑定魔法、ユーリの体内魔石容量、及びユーリの体力とメンタルを見る。「出来そうだな……ユーリ一回トイレ行ってこい、施術中に漏らされると嫌だ」

「デリカシーゼロっ!」怒ったが素直に従った。


 次に、帰ってきたユーリにトマは言った。

「施術を始める。椅子に座ってじっとして居ろ」

「何でロープで縛るの?」

「痛いから」

「へ?」

「痛くて暴れられるとやり辛いから固定する」

「痛いんですか?」ユーリはゴクリと唾を飲む。

「体内の魔石、つまり内臓を十分間で急に育てて神経を通して脳まで繋げる。痛くない分けねえだろうが」

「……止めない?」

「止めない、さっさと戦力になってもらう」

「……」

 

 トマは鑑定魔法でユーリの体内魔石を詳細に見つつ、ユーリの服を胸からハダケさせ儀式魔法の魔法陣を三つ、ユーリの胸に書き込むと右手を伸ばし胸の中央左寄り、つまり心臓の上に手を当てた。魔力を浸透させていく、ユーリの魔石が受け取りやすい様に、免疫系を過剰反応させないように調整した魔素を流し込んでいく。「オエ~、なんか気持ち悪い~」ユーリは敏感に体内変化を報告、トマは構わず出力を上げる。ユーリはさらに悲鳴を上げた。


「げえ~~目が回る~、止めて~おっぱい触られてるのにロマンチックじゃない~」

「何がおっぱいだ糞餓鬼、ガリガリじゃねえか……魔石余剰容量三%から七十%に増殖成功……出力を上げる」

「ハイちゃう~ハイちゃう~もう無理~」


 トマは無視した。鑑定魔法では、ユーリの体内で変化あり、体内魔石は余剰容量が二百%に届いた。初心者魔法使いとして十分……魔石の成長を一旦ストップ。痛いのはここからである。魔力を編んで疑似神経系を作りユーリの体内に封入、魔力ハンドを作成して体内へ浸透、疑似神経系を持たせ魔石と繋ぎ接続確認、反応良好、脳まで疑似神経の魔力を伸ばしていく。


「ギョエ―――ッ!!!痛い痛い痛い痛いっ!無理―――っ!!」

「安心しろこの作業で死ぬ奴は、赤ん坊でもいねえ、ただ痛いだけだ」

「暴力反対っ!幼児虐待反対っ!国際法違反っ!人権無視っ!助けて――!虐待されるっ!」

「体罰と虐待の違いは、受益者の違い、たとえぶん殴られてそいつの性格がひん曲がっても、教育の結果きちんと働けて生きて行けるなら、それは教育。教育を受けたはずが利益は子供に行かず成長に成らず教育者に利益が向かい子供が真面に育たなかったら暴力が使われずとも、それは虐待だな、魔法使いになれれば社会的にも金銭的にも名誉的にもメリットは絶大……ユーリよかったな、これで死んでもお前は教育を受けられたんだ」


 ユーリはロープ固定され逃げられないまま吠える。

「そんな理論聞きたくないっ!」

 トマが応えて曰く、

「因みにこれは施術だから虐待とも教育とも実は関係ない」

 

無慈悲な宣言と施術はきっかり十分続き施術は成功だが結果は酷い物である


 痩せこけた山羊獣人の女の子が胸を晒し床に倒れ椅子ごとロープで縛られ動けない、痛みにさらされ涙の痕は深く、時折痙攣するばかりで反応がない、まるでまな板の上に乗った痩せ魚である。


 施術終わりにトマは言った。

「おめでとう、施術成功だ。ユーリさんは今日から魔法使い見習いだ」


 言い終えたトマは、武士の情けでロープを解き雑に胸を服で隠してあげた。


 ユーリはしくしく泣いて拗ねてしまった。意外と元気、本当にただ痛いだけだったようである。

「まあ、ゆっくり眠れ、飯を作っておく、それから今日から魔法について説明するので体力を使い切らず備える様に……」


 言い終えたトマは、サンドイッチを大量に作り、トマトとレタスときゅうりとマヨネーズとハムとチーズを使い切る。お次はサラダを作りドレッシングで和え、鶏ガラだしの固形スープの素で安っちいスープをたっぷり作る。


 調理後の後片付けを浄化魔法で終え、出た生ごみを暖炉にぶち込み燃やして処理。


 振り返ればばユーリが此方を睨んでいるのでガントレットを装備し直した硬い手が伸びゴリゴリ撫でて行く、そう言えば自分は撫でられた事なかったな……羨ましい……そんな感想をユーリに照射してふと正気に戻りトマは手を引っ込める。愚かしい幼稚な感想を捨て食事にユーリを促す。まだ早いが、急激に体内臓器、魔石を成長させられた病み上がりユーリには多くの休息と食事が必要だった。


 トマが促しユーリにたくさん食べさせた。

 その後魔法についてトマは少し説明した。

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