第10話 上陸
◇◇◇
――貿易都市「ガルテアーノ」
「じゃ、じゃあ、“レイの旦那”。オイラたちはこれで」
船長のキラーはヘラヘラと笑いながらペコペコして去って行こうとしている。
「ティキー、ルーエイムティガ、ルミノーゾ!!(キラー、もう悪いモノ、売るんじゃないぞ!)」
俺はキラーの背中に声をかけた。
キラーはクルリと振り返ると、「レイの旦那に目をつけられるのはごめんですわぁ!」なんて叫んで、ペコリと頭を下げ乗組員たちと街に消えて行く。
「旦那! またどこかで!」
「護衛してくれて助かりやした!」
「旦那のことは忘れません!」
「長旅、お疲れさんでした!」
乗組員たちと1人ずつ握手を交わす。
キラーたちは奴隷を解放して裏稼業からは足を洗うと約束してくれた。
まだ会話すら曖昧な時の話だが、
――怠けずにしっかりと目利きをして、全員が幸せになるような取り引きで大儲けしてやります!!
なんて、かっこいい事を言っていたのだ。
元よりキラー船団は、超一流の航海術を持っているらしく、そこに目をつけられ裏組織に懐柔されたようだ。
詳しいことはわからないが、キラーたちは根っからの悪人ではなく、きちんとした努力の上で培った技術を利用されていた感がある……と、お嫁さんが言っていた。
……うん。今回の旅でなにか心境の変化があったのだろう。本人たちにとっていい方向に進めたのであれば、俺が金貨1000枚分の仕事を潰してしまった罪悪感も少しは薄れるというものだ。
……も、もちろん、亡命の代金は多少は色をつけて支払ったぞ? キラーは「航海中の護衛代を思えば、そんなものは必要ないですよー」なんて言っていたが、ちゃんと無理矢理にでも支払ったからな!?
蓋を開ければ、あの船は悪くなかった。
一流の航海術と【通訳】のティアテラ。
グリーの心遣いを感じて泣けたよ。
本当に……。
「じゃあ、旦那! お元気で!」
最後の1人、副船長のドノバンと握手を交わす。
「また会おう! お互い元気で!!」
ドノバンはニコッと笑顔を浮かべ、「旦那もよく頑張りやしたね……」と言い残し、頭を下げて皆の背を追った。
パチパチパチパチッ!!
乗組員たちとの挨拶が終わった瞬間に、解放された奴隷たちは一斉に拍手をしてくれた。
「レイさん。本当によく頑張りました」
ティアテラなんて、眼鏡を外して涙を拭っている。
ジィーン……
本当にありがたい。みんなのおかげだ。
誰1人として欠けていたらきっと俺はダメだった。
「レイさん!! ほんっとぉーによくがんばりました!! 完璧の受け答えです……!!」
「ぃやいや、この3ヶ月……。バカな俺に付き合ってくれて本当にありがとう!! ティアテラ!! 本当に感謝する!!」
「一時はどうなることかと思いましたが、本当によかったです……。レイさんの努力の賜物です!」
「ありがとう! 本当にありがとう! こうして別大陸の言葉を話せてるなんて夢のようだ!!」
「……そうですね。今後わからないところはアリーシャさんに聞いてくださいね?」
「あぁ! ティアテラへの報酬も色をつけてるから! みんなもなにかと入り用だろう? 一枚ずつになるが、どうか俺の気持ちを受け取ってくれ!!」
俺は金貨100枚と50枚が入った巾着袋をティアテラに手渡し、解放された奴隷たちにも半ば無理矢理に金貨を配った。
「ありがとう、レイ様!」
「レイ様は神様です……!」
「ありがとうございます……!」
「本当になんとお礼をいっていいか……」
なぜなら、俺は乗組員の全員と会話し続けた。昼はもちろん、夜は見張りの奴隷や乗組員たちと会話し続けた。
夜はお嫁さんが横で通訳をしてくれた。
昼はティアテラがつきっきりで教えてくれた。
感謝してもしきれない。
金貨1枚だなんて申し訳ないくらいだ。
なぁに、心配しなくても全貯金はグリーが世界共通の価値を持つ金貨に換金してくれている。
数十人に配ったところでまだまだ余裕だ!
……多分!
なんてったって、俺はティークエン語をマスターしたのだ!! 新天地にて、必要最低限の教養を手にしたのだ!
ち、ちなみに……、読み書きはできない。
お、おまけに……、めちゃくちゃ眠たい!!
……体調は絶不調だ。
一度でも寝てしまうと、覚えたことが頭から消えて無くなってしまいそうで、俺は完璧に不眠症になっている。
このおかしなテンションと行動はそれも原因なのかもしれない。
だがっ! いや、だからこそ!!
「この恩は一生忘れない!! 君たちと出会うことができて……ぁっ、もちろん、キラーたちもぉお!!!! みんなぁあ!! ありがとうぉお!!」
俺は大袈裟に手を振り、背中が見えなくなるまで見送った。時折り振り返ってはペコリと頭を下げてくれるみんなのことは忘れない! いつかまた出会えたのなら、お酒の一つでも飲み交わしたいものだ……。
「早く積み荷を下ろせぇ!」
「これくらい1人で運べるだろぉ」
「おぉーい! こっちを手伝ってくれぇ!」
ガヤガヤと忙しない船乗りたちの言葉がわかることが、俺にとってどれだけ嬉しいことか……。やはり、努力が報われる瞬間というやつは何度経験しても良いものだ。
サァー……
振り返ると海面がキラキラと輝いている。
「無事……ティークエン大陸についたぞ……」
俺はポツリと呟きグリーとグラーに報告を済ませ、少し感傷に浸るが……、
ギュッ……
不意に手を握られる。その手の感触だけで、相手がわかることに胸が温かくなり、自然と頬は緩む。
「お嫁さん。ここが俺たちの新天地だ!」
「……はぃ。夢のようです。旦那様には感謝してもしきれません……」
「ハハッ、そばにいてくれればいいよ」
「……もっ、もちろんです。命尽きるその時まで旦那様の隣を離れません……」
お嫁さんは相変わらずの無表情を真っ赤にして、ギュッと繋いだ手に力を込める。
ボンッ……
頭を撫でると耳まで赤くして、長く綺麗な黒髪で顔を隠す。ここ最近できたお嫁さんの癖は、可愛らしさに磨きがかかっている。
「だ、旦那様……。早く休まれた方がよろしいです……。目の下のクマが……。旦那様の綺麗なお顔に……」
「ハハッ、大丈夫! あと1週間くらいは平気だぞ! 仮眠はそれなりにとってるから!」
「……人間は10分、15分の睡眠で疲労を回復できませんよ?」
「適度に回数を重ねてるから問題ない。それより、早く“身分証”を作りに行こう!!」
「……『冒険者ギルド』ですか?」
「あぁ! ずっと一緒にいられる夢のような職業だ! 早く行ってみたい!」
「……ッ!! し、仕方ありませんね……」
お嫁さんはキョロキョロと周囲を観察し始めるが、また耳まで赤くしている。白い肌だから余計に目立つのだろうけど、愛されていると目に見えるのは嬉しいものだ。
『冒険者』とは、傭兵や黄金探索家(トレジャーハンター)、賞金稼ぎ(バウンティハンター)から探偵業まで、あらゆる職業を合わせたような不思議な仕事だ。
ダンジョンと呼ばれる地下や塔に潜ったり、モンスターを狩ったり、護衛をしたり……。とにかく、困っている人の手助けや生活をよりよくする資源を集める職業らしい。
生活にはお金は切っても切り離せないものだ。
貯金にはまだ余裕があるとはいえ、早々に新しい仕事を見つけられてホッと胸を撫で下ろした。
と、いうより……、
――仕事内容は自由に選べるので、やりたくないことはしなくて構いません。すべてが自己責任でとにかく自由なのです。
ティアテラの言葉に胸が躍ったんだ。
――レイさんにすごく向いていると思いますよ?
この3ヶ月、俺のダメダメなところを見てくれたティアテラが言うのなら、きっと俺にもできる。
余談になるが、キラー船団のヤツらも元は小規模で利益すらないような貿易業と『冒険者』として日々を送っていたそうだ。
冒険者として金を貯め、広い海を泳ぐ。
単純に航海が好きな命知らずの男たちがアイツらだったのだ。
俺はそれをかっこいいと思った。
「あちらです。旦那様」
「ん? ああ、行こうか……」
2人で手を繋いで新天地を歩く。
潮の香りとカラッとした太陽。
きっと周囲には俺たちを知る者たちはいないが、不安なんて一切なく心が躍るのは繋いだ手が温かいからだろう。
俺はワクワクしながら新天地を歩いた。
ーーーーー【あとがき】
フォロー、☆、♡、ありがとうございます!
短編?は書いたことがありませんでしたが、
なんか序章だけ? これが正しいのかどうなのか?
とりあえず書いてみました!
ご一読いただければ幸いです!
〜吾輩は無敗である。勝利はまだない〜
『【3分間無敵】だが呪われてる俺、NTRたら前世の記憶が蘇ったので、Sランクパーティーの『実験体』を辞めて、本気で攻撃手段を探そうと思う』
https://kakuyomu.jp/works/16818093089589120663
という作品になります!
少しでも「面白そう」と思っていただけましたら是非! 色々とご教示いただければ幸いです。
【皆無】はバカで【雑魚】は笑えない〜最強の賞金稼ぎと天才暗殺者は、別大陸に駆け落ちして、初めて冒険者を知り、『新婚無双』を繰り広げるそうです〜 夕 @raysilve
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