第19話:焼肉でも食って帰ろう

 眩い光が収まると、俺たちは見慣れた芝公園の一角に戻って来ていた。

 異界の緊張感から一転、周囲は穏やかで、木々が風に揺れる音が耳に心地よく響く。目の前には、朝比奈と寧々の姿があった。


「先輩! みんな無事でよかった!」


 朝比奈が駆け寄り、三人の顔を一人ずつ覗き込む。その声には安堵と焦りが入り混じっていた。


「無事でよかったのじゃ。蒼汰よ、あの渦の先はどうだったのじゃ?」


 寧々が歩み寄り、俺に聞いて来る。


「異界だ」

「異界じゃと?」


 朝比奈も気になっているようで、話そうとしたところで黒塗りの車がやってきた。

 俺や美羽たちが不思議そうな顔をしていると、朝比奈が説明した。


「先輩が言ったんじゃないですか。連絡するように」

「そうだったか……かなりキレていたから忘れてた」


 その発言に朝比奈と寧々の二人が青い顔で呟く。


「先輩、ものすごく怖かったです……」

「本当に、恐ろしかったのじゃ……」


 キレて二人にキツく当たったことは覚えていた。怖がらせたのは本当に申し訳ないとおもっている。


「すまん……一杯一杯だった」

「なに。家族のことは大切に想うものじゃ。気にするなと言いたいところじゃが、正直怖くて、思い出すだけで震えが収まらん」


 そう言って寧々は思い出したのか、身を震わせる。


「いや、すまんて……お詫びと言っては何だが、俺にできる範囲でなんでもするよ」

「言質は取りましたからね!」

「うむ。忘れるでないぞ?」

「あ、ああ」


 俺は頷くしかできなかった。

 その後、霧島さんがやって来て軽く説明だけし、俺たちは来る前へと乗り込んだ。

 そのまま対策室へと向かい、風間さんと霧島さんを交えて、芝公園であったことを話していく。


「なるほど、ナイトメアズは異界からの偵察兵みたいなものだったのか。あるいは威力偵察」


 風間さんが何かをぶつぶつと言っている。


「まあ、その後に現れた異界の三王とか名乗る連中を殺したら――」

「待て待て!」

「ボス、なんです?」

「く、黒崎くん。こ、殺したのかい?」

「え? はい。人型ですけど異界の存在ですし。法的には問題ないかなって」

「……キミは法的に問題なかったら、人を殺すのかい?」


 どうやら俺が法的に問題なければ、人を殺していると思われていそうだ。

 心外である。


「心外ですね。今まで人を殺したことなんてないですよ? まあ、不良とかクズ相手は半殺しにしていますけど」


 隣で美羽が「え? お兄ちゃん?」と驚いている。


「まあ、そのくらいならいいか……殺したら、報告してくれよ?」

「後処理が面倒ですからね……」


 風間さんと霧島さんの二人はどこか諦めているようだ。

 俺の倫理観を変えようにも、もう手遅れだしね。


「で、報告を続けますね」


 その後、俺は報告を続けて行く。

 倒したと思ったら、美羽たちが光の渦に飲み込まれ、俺がキレながらも無理やり空間をこじ開けて助けに行ったこと。


「待って。空間をこじ開けた?」

「はい。こう、ガッと」

「ああ、うん。キミならできるよね。うん……」


 遠い目をする風間さんと霧島さんをよそに、俺は報告を続ける。

 そこに地球の意思を自称する世界樹が現れて、脅――話し合いをしたこと。そこで、異界との境界を遮断したこと。


「なるほど……しかし、それだけのことをした代償があるはずだ」

「世界樹が弱体化した。だが、問題が起きれば俺が対処することになっていますよ」


 俺がさらりと言うと、霧島さんが鋭い視線を向けてきた。


「まさか、軽い気持ちで引き受けたのですか?」

「俺が軽いとお思いで?」


 俺の返答に、霧島さんは小さく息をついて肩を竦めた。


「美羽たちの力もそのまま維持されています。次の問題が起きても、対応は可能ですよ」


 霧島さんが報告をまとめるように言葉を足すと、風間さんはようやく緊張を解いた。


「よし、よくやった。君たちの働きには感謝する」


 室長の言葉に、俺たちは軽く頷いた。


「ボス。一つの危機を防いだのだから、ボーナスは期待していいんですよね?」

「……みんなにボーナスを出すようにしておく」


 俺たちは大いに喜んだ。すると美羽が俺の服の裾を引っ張り、小声で聞いてきた。


「お兄ちゃん、あのことは話さなくていいの?」

「なんのことだ?」

「異能とか妖魔とか」

「あ、忘れてた」


 すると霧島さんが「何かあったの?」と聞いてくるので、世界樹から聞いた話をする。

 異能は遥か昔、それも最初の文明が出来た時から存在したこと。

 妖魔やモンスターは、人の業などによって生まれたものだということを。


「そうだったのか。しかし、対処のしようがないとはな」

「自然に生まれる個体もいるようだが、主な発生源は人間による業。人間がいなくなれば、妖魔が少なりますよ。人狩りですね」

「楽しそうなのは黒崎くんだけですからね?」


 霧島さんが呆れたように溜息を吐いた。


「とりあえず、黒崎くん。報告書を作っておいてください」

「めんどいっすね」

「それでもやってください」

「給料分の仕事はしますって」


 その後も色々と話し、解放されたのは夜だった。


「美羽、今日は焼き肉屋でも寄って帰るか」

「ほんと⁉」

「ああ」


 俺は母さんに、美羽と食べてから帰ると連絡するのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき&作者からのお願い】


最後までお読みいただきありがとうございます。

第3章『魔法少女編』はこれにて完結です!


本作ですが、一週間ほどお休みをいただきます。

次章からは『退魔師編』になります。

ストックがないので、プロットも一緒に作らないと……

13日(月)に再開する予定です!

……間に合うかな?


コメントを解放しておきましたので、よろしければ感想など残していってくれたら有難いです!


最後に、ここまで


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2025年1月13日 12:02

現代無双の異端者~異能バトルに巻き込まれた俺は、素の身体能力で無双する~ WING/空埼 裕 @WINGZERO39

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