第42話 美羽SIDE お兄ちゃんの正体は勇者
「お兄ちゃん、おはよう! 今日も美樹ちゃんと京子ちゃんが家に来るってさぁ」
今日は日曜なのに……来るんだって……本当にどうしちゃったんだろう。
美樹ちゃんなんて隙があればお兄ちゃんに胸押し付けようとするし、京子ちゃんも良く抱き着くし……本当に痴女みたいだよ。
「そう、それじゃおもてなししないとな」
「二人とも楽しみにしているって!」
「そう? 俺も楽しみだよ!」
お兄ちゃんが凄く爽やかだ......こんなこと言うお兄ちゃんじゃなかったよね。
「そう言えばお兄ちゃん、剣術なんて何処で習ったの? 馬にも乗れるんだよね?」
あれは、本当に凄かったよ。
なんで、あんな事が出来るんだろう?
「剣術は昔から隠れてコツコツと練習していたんだよ、馬に乗るのも割と得意だよ」
「そう、お兄ちゃんって努力家だったんだね」
おかしい。
サッカーなら兎も角、剣術に馬術?
おかしいよ。
「これからは少しは美羽が自慢できるお兄さんを目指すよ! 今迄ごめんな!」
「.....うん頑張ってね! この間の剣術、本当にカッコよかったよ」
爽やかすぎる。
あれれっ……私、わたし、何でお兄ちゃんの事……気持ち悪いなんて思っていたんだろう……え~と……
「あのさ、美羽、翼ってそんなに剣術が出来るの?」
「うん、お母さん、凄いんだよ。この間、はじめて美羽も見せて貰ったんだけど。凄くカッコ良かったよ。 そうだ今日は日曜日で学校が休みなんだからお母さんにも見せてあげたら」
「そうだね、じゃぁ美羽がご飯を食べ終わったら下で少しやってみようか?」
お兄ちゃんの演武? が始まった。
「いい、これが基本の型……」
体の力を抜いて、基本に忠実に木刀を振った。
「凄いわね。翼だけど、それ何処で練習して身に着けたの?」
「美羽も、聞きたいな」
「部屋で本を参考に身につけたんだ」
さっきは「昔から隠れてコツコツと練習していたんだよ」と言っていたけど、どう考えても無理だよね。
「そう、凄いわね」
それだけで、そんなに成れるのわけないよ。
「まぁね」
他にもこの間見せたリンゴを使った技も見せてくれた。
「凄いわ! 翼……」
これ、アニメの主人公じゃないと出来ないと思うんだよね。
妖しい、こんなの独学で出来る訳が無いよ。
あれれ、おかしいな?さっきから見ていたら、お兄ちゃんが偶にカッコよく見える時があるんだよね。
まるでそう、勇者様みたい。お母さんも誤魔化しているけど、首を傾げている。
だけど、今ようやく解った。
お兄ちゃんは多分『異世界に行ってきたんだ』
お兄ちゃんの部屋にある沢山本に書いてあったよ。
異世界に召喚されて勇者に成る話が、そして魔王を倒してまた帰ってくる話。
お兄ちゃんは夢を叶えたんだ。
きっと何らかの方法で異世界に行って魔王を倒して帰ってきたんだ。
それなら、カッコ良くなっているのも、剣術に馬術が出来るのも分かる。
少なくとも剣術は本物だもん......絶対にそうだ。
だけど、これは美羽だけの秘密。
誰にも言わないよ。
聞いてみよう?
「お兄ちゃん!お兄ちゃんってライオン倒せる!」
「図鑑で見たけど、どうだろう?ライオンか? ライオン位なら木刀1本あれば多分倒せるかな?」
その位の生物なら簡単な筈だよな。
ほらね、多分、やっぱり魔王やドラゴンと戦っていたんだ。
じゃなくちゃライオン位なんて言わないよ。
「そうか、ライオン位なら倒せるんだ。凄いねお兄ちゃんは!」
「もっと頑張るからね」
「うん頑張ってね! お兄ちゃん!」
うんうん、木刀でライオンが倒せるなら……勇者確定。
「どうしたの? 二人してコソコソと母さんは仲間外れなのかしら?」
「いや何でもないよ! お兄ちゃんは凄いな..そう思っただけだよ」
「そうね、頑張っているわね。本当に随分マシになったかしら?」
だけど、お母さん驚くだろうな。
お兄ちゃんが勇者だったって知ったら……
多分、偶に美羽に見える、あの凄い美形がお兄ちゃんの異世界での姿なのかな……いっそうの事、こっちでもあれだと良いのに……
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