ワイトビッグリボーン!

@paztaroimo

第1話 したい

 とても長いこと寝ていた気がする、そのおかげか体がとても軽い

あれ…何処だここ、真っ暗で何も見えやしない。

「魔力感知」


ここは…ダンジョン?の様な雰囲気がある広間であることが確認できた。

ダンジョンの中で寝更けるなんて事あるか?そんな危険な真似を私がするはず無いだろ、そもそも私は、あれ、ワタシ?は?誰だ。


異常事態だ。

ダンジョンの呪いで記憶喪失になっているのかもしれない。

ダンジョンの呪いはダンジョン内だけで発動する、この場に留まる理由もない為、警戒しながら進むしかない、ここでまた違和感に気付く。足音すらしないのだ。モンスターの出現に警戒して聴き耳を立てて初めて気がついた。

そういえば何の匂いも感じない、もしかしたら五感が奪われる呪いも発生しているのかもしれない、そうなるとなかなか上位のダンジョンに違いない、私は呪いに対抗する魔法は使えない、はず、だから今はとにかく脱出するしかない。

こんな呪いのかかっているダンジョンを私一人で入るわけがない、きっと仲間が居たのだろう、助けを待つ選択肢もあるが、自ら行動しなかった結果死ぬなんてごめんだ、まずは身の安全、全てを思い出してから仲間の捜索が必要であれば、解呪魔法が使える者とまた来るしかない。


脱出の手がかりも無い為、しばらくまっすぐ進んでいると大きな扉に辿り着く

けったいなオーラを放つ扉、ボス部屋ですと言わんばかりな

記憶喪失なのにボスと戦えるわけがないだろうと踵を返したその瞬間、扉は開かれる。

開いた扉の先は通路だった、一歩出ると両端には骸骨騎士の様な像が挑戦者を向かえるように通路向きに置かれていた。

そうか、今いるこのやたらと広い場所がボス部屋だったのか、そのボス部屋で寝ていたと言うことはこのダンジョンのボスを倒す事に成功したのだ、流石私だ。

ボス不在のダンジョンだからモンスターも現れない、安心材料にしてしまおう。


感知する魔力や髑髏騎士の像からアンデッド系のダンジョンだと推測ができる、

アンデッド系のダンジョンには宝物庫が付き物であり、このボス部屋の何処かには宝物庫に繋がる扉もあるはずだ。こんなに怖い思いをして収穫ゼロでダンジョンから帰るなんてあまりにも悔しすぎるからな。


見つけた、これまた如何にも宝物庫と言わんばかりの扉である。

どんなお宝が眠っているのか、呪いに耐性のあるアーティファクトなんてのも今の私には必要だ。

なんということだろう、魔力感知の視界だと物質の形を捉える事ができても、色が分からない、この宝石達が黄金に輝いているのか、鉛色に輝いているのか、判断がつかないのだ。だが、やたらとオーラを放っている大きな棺がある、きっとこの中には激レアな武器が入っているに違いない。

手をかけた瞬間、棺の蓋は弾け飛ぶ、驚く間も無く中から溢れる魔力に圧倒され声も出ない。


「嬉しいぞ、遂にこの時が来たのか。我が墓を荒らす愚か者よ、この黄金は私の大切な宝だ、貴様にはくれてやれん、代わりと言ってはなんだが、私からは永遠なる死をくれてやろう!」


室内全てに溢れるオーラが濃すぎて魔力感知では何も見えなくなってしまったが

体の芯まで威圧感を感じ、最悪を引いたことだけは分かった。


「なんだ貴様、既に死んでいるではないか、死んでいては私から与えられるものなどないぞ」


先ほどから、何を言っているのだろうか、聴覚が機能していない為、何も伝わってこない。


「興醒めだ、先程からパクパクするだけで、しょうがない奴だな」

「思念伝達」


「ほれ、貴様はユニークモンスターなんだろ?何か言うてみぃ。」


思念伝達⁉︎

「え、いや、あの私は人間ですが」


「ユニークとは言え随分面白い事を言うじゃないか、貴様の何処が人間なんだ?」


「何処って、全てと言うか、人間以外の何に見えるんですか?」


「ワイト」


「ワイト?」


「どう見てもワイトだな、凡庸ではない様だが」


「何を言っているのか分からないのですが…」


「見るか?自分の姿、本気で人間だと思っているなら面白いものが見れるぞ」


「仰っている意味がわかりませんが」


「視覚共有」「これが私から見た貴様だ」


「え、ワイトが見えますが、これが…私?」

体を動かし確認してみる、鏡のようにそのワイトは私の動きにピッタリついてくる

頭の整理が追いつかない、このモンスターが私に嘘をつき揶揄っている可能性もあるし、そうであって欲しいが、嘘つき呼ばわりした後は怖い…


「そもそも何故人間などと思ったのだ?」


「それは記憶が、いや多分このダンジョンの呪いか何かで記憶喪失になっているのですが、目覚めた時から自分が人間以外になっていることを考えもしなかったというか」


「そんな呪いは無いぞ、ちなみに五感を奪う呪いもない、貴様に視覚がないのは眼球すらないワイトだからだ」


思考が読まれている事にも驚きだが、こうも信じられないことが続くと何から考えていけば良いのかもわからない。

この怪物から見えているスカルフェイスな私は表情が変わらないため、落ち着いて見える、あぁ、不気味な顔だ。


「あの…、私は本当にワイトなのでしょうか?」


「間違いないな、魔力だってアンデッド族のものだ」


「そうですか…、人間がアンデッドになることってあるのでしょうか?」


「あるぞ、朽ちた生物を元にアンデッドが誕生することはよくある」

「自分を人間だと言い張る奴が生まれたのは初めてだがな」


私はこのダンジョンで、このボスに葬られ、死体に魂?が残った(授かった?)状態でアンデッドモンスターとして転生した、と言うことなのだろうか


「概ねそんな所だろう。訂正するとしたら、私は貴様を葬っていない、私は人間と対峙したことはないからな」


「そうなのですか?では私を倒したのは」


「さあな」


「そうですか…」

私が死んでから結構な時間が経過したのかもしれない、白骨化するくらいだからな

未だ、色々信じがたい所だが。

人間と対峙したことがない、と言うのはどういうことなのだろうか、ここまで辿り着いた冒険者は居ないのだろうか


「あぁ、人間は300年前には滅びているからな」


「滅びた?300年?」


「そうだ、貴様は少なくとも300年以上前の人間だったと言うことだな」


途方も無い、一つ一つ希望というものが失われていく

人間が滅び、300年経ち、私はワイトに。

何故半端な記憶を持ったまま転生してしまったんだ


「言葉も無いだろう、落ち着くまで時間を尽くせ、我らアンデッドの時間は悠久だ」


また思考を読まれた。あまり迂闊な言葉を浮かべない様に気をつけねば。

「その、ありがとうございます、そういえばお名前を聞いていませんでした、私から名乗るべきなのでしょうが、記憶喪失なもので…」


「ほほう、それは仕方ないな名も無きワイトよ、耳も無く聞くが良い

我が名はアンデッドの王 黄金帝レギア・ミカエリス 冥府からこの世界を支配する者だ」


自分に誇りを持ち名乗りを上げる。なんかカッコ良い、気がする。

レギア・ミカエリス、聞いた事はないな…


「ミカエリス殿、それではこの後について考えようと思いますのでお時間をいただけますか」


「自由にするがよい、私も久しぶりの目覚めだ、ダンジョン内を見回りでもしてこよう。


そう言うと影となり消えていってしまった。


受け入れられない事ばかりだ、夢だと決めつけて自決した方が楽なのではないか、しかし今の私はアンデッド、骨身を砕かれようともまた復活してしまう。

こんな体で何を成せと言うのだ、もう仲間と共に旅に出かけることも、体を鍛える事も、美味しい飯を食べることも、温かいお湯に浸かり落ち着いた時間を過ごすこともできないのだ、よりによってワイト、アンデッドでも上級の魔物であれば肉が付いて感覚も持ち得ていただろう。


唯一、アンデッドを屠る光魔法は加護を与えられた人間のみが使える魔法、だが300年も前に滅んでしまっているとのこと、生き残りはいないのだろうか、完全に種族を根絶やしにする事は難しいはずだが、生き残りがいれば光魔法を使えるものもきっと居る。今存在してい居なくてもいつか生まれる、私の希望はそこにあるのではないか。


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