異世界転生

いつものように8時55分にチャイムが鳴った。


教室に入ると、みんなが座っている席から顔を上げた。本来なら、ちょうどの時間に来るのに、今日は少し遅れて教室に到着した。僕らの担任は山岸やまぎし 聡太そうたという。そこそこイケメンであり、先生の中では人気が高いほうだ。髪は短く整えられ、いつもスーツをきっちりと着こなしている。学生たちからの信頼も厚く、授業中は真剣そのものだが、休み時間には親しみやすい一面も見せる。そんな山岸先生が、今日は少しだけ遅れて教室に入ってきた。


教室のドアが開くと同時に、山岸先生が入ってきた。クラスの生徒たちは一瞬で静まり、視線が先生に集中する。先生が遅れた理由はすぐに分かった。彼の後ろに、新しい生徒が立っていたからだ。


「みんな、おはよう」


と先生が挨拶する。教室内は一瞬の緊張が走り、その後ざわめきが広がった。


「今日は、新しい転校生を紹介する」


と先生が続ける。その言葉に、クラスの注目がさらに集まった。新しい生徒がどんな人なのか、みんな興味津々だ。


先生が一歩後ろに下がり、転校生に視線を向けた。「それでは、自己紹介をお願いしようか。」と優しく言った。


新しい生徒は少し緊張した様子で一歩前に出た。彼女は深呼吸をし、教室中の視線を一身に集めながら、ゆっくりと話し始めた。


「皆さんこんにちは」

佐々木ささき さくらさくらです」

「よろしくお願いします」


彼女の声は落ち着いていて、自信に満ちていた。教室内は再びざわついた。佐々木さんは、林田と並ぶほどの美人だったからだ。


彼女の長い黒髪は陽の光を受けて輝き、その瞳はまるで星のように輝いていた。彼女の笑顔は一瞬でクラスの心をつかんだ。男子たちはその美貌に見とれ、女子たちも興味津々な様子で彼女を見つめた。


皆が、彼女に注目した直後、彼女は自己紹介を続けるのかと思ったが、突然、空を見上げながらこう宣言した。


「天の神々よ、我が契約のもと、この者たちを導き給え!」

超高次元ディメンショナル空間転移トランスポート!」


皆がざわつき戸惑っている最中、彼女の体は突如として眩い光に包まれた。次の瞬間、窓の外は漆黒の闇に変わり、、床には赤い光で描かれた壮大な魔法陣が浮かび上がった。その直後あたりが白い光で覆われ何も見えなくなった。


目を開けると、そこは見たこともない巨大なホールのような場所だった。天井は信じられないほど高く、煌びやかなシャンデリアが光を放っている。その光は、周囲の大理石のようなものでできた床や柱を照らし、場所全体を荘厳な雰囲気で包んでいた。ホールの中央には円形の魔法陣のような台があり、僕達は全員その上にいた。


「ど、どこだここ……?」


誰かが恐る恐る口を開いた。教室の生徒たちは全員無事のようだが、全員が混乱した様子で周りを見回している。山岸先生も額に汗を浮かべながら、必死に状況を把握しようとしていた。


「みなさま、落ち着いてください」

「ここは、ルミエレーナ王国です」

「みなさまにはこの国をお救いいただくために召喚させていただきました」


その言葉に、教室だった場所が突如消え去り、異世界に転移させられたという事実を理解し始めたクラスメートたち。


「おい、どういうことだよ。なんで俺たちがそんなことしなきゃならないんだ?」


クラスメートの一人がそういった。その言葉を合図に他のクラスメートも口を開いた。確かに、突然こんな場所に連れてこられて「救え」と言われても、普通は納得できない。しかし、目の前に立っている人物は、冷静に答えた。


「まずは、一旦皆様別の部屋に来ていただけませんか」

「そこでじっくりお話させていただきます」


目の前の人物の言葉に、皆が沈黙した。


案内された場所は、食堂のような場所であった。しかし、食堂と言っても自分たちの学校のような食堂ではなく、まるでお金持ちになったかのようなすごく立派な食堂であった。テーブルはものすごく縦長で、椅子も30脚ほど設置されており、テーブルの上にはフォークとナイフ、スプーンのようなものが置かれていた。


着席すると、日本で言うメイドのような格好をした人たちがお茶らしきものを入れてみた。飲んでみると、かすかに酸味のある水であった。あまり美味しいものではなかった。僕達が一段落していると、先程の人物が話し始めた。


話によると、その人物は「クアラル・ジーニ」という名前らしい。その人物はこの国、つまりルミエレーナ王国の騎士長だそうだ。騎士長とはこの国の兵の中のトップクラスの人らしく、この国ではこの騎士長を筆頭に騎士団というものが存在し、国の治安を守っているそうだ。


なお、我々がこの国に召喚された理由は大きく2つあるそうだ。


1つ目は人間族が滅亡の危機に瀕していること。


この国には大きく分けて4つの種族があるそうだ。この人たちの種族は人間族。我々もコレに相当するそうである。残り3つの種族は魔族、魚人族、亜人族というそうだ。しかし、この中で近年人間族は弱体化し、絶滅の危機に瀕しているそう。


2つ目の理由は、勇者の血筋を持つ者が、存在しないということである。


かつて、この世界には、選ばれし者、すなわち『勇者』が存在していたそうである。勇者はその強大な力と智慧で世界を救い、人々に平和をもたらしていた。しかし、幾多の戦争と災厄の中でその血筋は絶え、現在では勇者の力を継承する者がいないそう。


ジーニが話を続けた。


「このような理由で皆様を召喚させていただきました」

「皆様には大変身勝手かもしれないが、この世界を救っていただきたい」


そうジーニが続けるとクラスメートのイケメン、小倉がこう答えた。


「つまり、俺たちが選ばれたってことだろ? なんかカッコいいじゃん。俺、やるよ。世界を救うとか、悪くないだろ?」


その言葉に教室中がざわついた。女子たちは、感嘆の声を上げ、男子たちは、困惑の声を浮かべた。しかし、小倉は動じない。彼の自信に満ちた態度は、妙に周囲を引き込む力を持っていた。


ジーニは満足げにうなずきながら、こう続けた。


「勇気あるお言葉、ありがとうございます」

「では皆様にはまずステータスを確認していただきます」


この時、僕はまだ知らなかった。この後、僕たちを――いや、僕自身を待ち受ける波乱の日々を――。




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弱者と呼ばれた転生者 〜天才スキルで成り上がる〜 さすけ @sasuke_org

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