第6話「時間が動き出す音」
気がつくと、俺はどこか見知らぬ草原の中に立っていた。村の教会も、村娘たちの姿も、白い空間も、全てが消え去っていた。
「……戻ってきたのか?」
手の中にはもうポケットウォッチはなかった。だが、その音――カチ、カチ、カチという時計の音だけが微かに耳に残っている。
俺は草原の風に身を任せながら、胸の中にぽっかりと空いたような感覚を抱えていた。あの村で起きたことは夢だったのか、それとも現実だったのか。それすらも曖昧になっていく。
ふと、ポケットの中に何かが触れる感覚がした。取り出してみると、それは一枚の紙飛行機だった。
「リクさんへ」
それには細い文字でこう書かれていた。
「私たちの時間は動き出しました。あなたのおかげで、ようやく前に進むことができます。」
「ありがとう。そして……どうか忘れないで。」
俺はその文字を見つめながら、村娘たちの笑顔を思い出した。あの瞬間の、どこか儚げで、けれどどこまでも暖かい笑顔。
「……忘れるわけないだろ。」
紙飛行機をそっと空に放つ。風を受けて、飛行機は青空の中を舞い上がり、やがて見えなくなるまで飛び続けた。
草原を歩き始めた俺は、ふと気づいた。背後に小さな影があった。それは村の方向を示すかのように揺れている木のシルエットだった。
「あの村は、もう……」
呟いた言葉は風に消える。だが、何か確信があった。村は今もどこかで、時間を取り戻して動いているのだと。
俺は新しい旅を始めるために足を進めた。その先に何が待っているのか分からないが、あの村の記憶を胸に抱え、俺は一歩ずつ進む。
カチ、カチ、カチ――。
耳に残る時計の音が、風の中に溶けていった。
「もしも、もう一度出会えるとしたら……」
俺は微笑み、空を見上げた。そこには、変わらぬ青い空が広がっていた。
【もしも】死んだはずの村娘たちが僕に恋をしたら……? よっちゃん @baddoenndo
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