第4話 中間テストでThe Choice

 昨日、夕食の後、「少し寝てから勉強するか」とベッドで横になった。

 目が覚めると、なぜか朝になっていた。


 ヤベ、オワタ……。


 一限目は現代文。まぁ、なんとかなるだろう。そう思っていた。


 甘かった。



「現代文 中間テスト 


〔問題一〕次の文章を読んで、各設問に解答しなさい。


 四川省の山奥へ入ったときのこと。そこにはいないハズの家畜の鳴き声が聞こえてきた。

 (  ア  )。

 私は思わず首を傾げた。隣を歩く現地の案内役の李さんに『あの鳴き声は何の動物か』と尋ねると、意外な答えが返ってきた。発情期のパンダの鳴き声だという。


【第一問】文中の(ア)にパンダの鳴き声を入れなさい。(配点5点)     」



 問題文を読んだオレは、鼻っ面に拳を食らったような思いがした。


 は? なんだコレ? パンダって鳴くのか?


 そう思った瞬間。


 ドクンッ! と心臓が跳ねる。

 世界の時間が止まった。


 なっ、ここで!?


 発情期パンダの鳴き声のせいで、オレは人生の岐路に立たされていた。


 人生の岐路って聞くと、一大イベントみたいなイメージだ。

 案外、なんでもないところでも人生の岐路に立っていて、気が付かないうちに通り過ぎているのかもしれない。


 いつの間にか、破滅に向かっているかもしれないってことだ。

 コエーな、人生の岐路。


 オレの目の前にChoiceが出現した。


 ①解答せず、つぎの問題へ。

 ②知らんわ! と解答する。

 ③あきらめて寝る。 


 おい、正解は? この問題の答えが選択肢に現れるんじゃねーのかよ。


 ……知らなければ選択肢に現れないというワケか。

 そういえば、選択者自身の経験・能力を超える選択肢は現れないって縛りがあったな。


 オレは①の「解答せず、つぎの問題へ。」を選択した。

 あきらめたら、そこで終了って名言もあるからな。


 止まっていた時間が動き出す。


 けれども発情期のパンダが、どんな声で鳴くのか気になって仕方がない。後の問題をフワフワした心理状態で解答するハメになった。


 二限目は英語リーディング。

 現代文の問題を英訳した文章が出題された。

 絶対、AI 翻訳しただろアレ。第一問目まで現代文と同じ。


 発情期パンダの鳴き声を英語で答えろという問題。


 じつは現代文のテスト後、オレはスマホで発情期パンダの鳴き声を検索した。

 ヤギのようにメェーと鳴くらしい。


 だから英語リーディングの第一問を見たとき、オレは「イエス!」と小声で呟いて口角を上げた。

 ふっ、オレも刻々と成長しているのさ。

 で、「Mee」と解答した。


 しかし、これが誤りだとテスト終了後に知ることになる。


 クラスメートたちが、


「あたし、うっかりメェーって書きそうになった」


「あははは。英語で解答するからBaaだよねー」


 なっ!? 


 その会話は、オレを絶望の淵へ追いやるのに十分だった。

 英語圏のヤギは「メェー」と鳴かないらしい。


 ってか、キミら何気にスゴくね? 


 つまり今日のオレは、発情期パンダの鳴き声に振り回されて合計10点以上失った。

 

 のおおおぉぉっ!


 きわめつけは、三限目の古文。まずは問題文を見て欲しい。


「今は昔、竹取の大熊猫ありけり。野山にまじりて竹を食ひつつ、よろづのことに使ひけり。その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。あやしがりて、寄りて見るに、筒の中光りたり。

 それを見れば、三寸ばかりなる熊猫、いとうつくしうてゐたり。大熊猫言ふやう『いと萌える。推すほかなし』とて、手にうち入れて家へ持ちて来ぬ……」


 おお、竹取物語かと思って読んでみれば、なんだかちょっとオカシイ。


 竹取の大熊猫……。大熊猫て何だ? パンダか? いや、まて。翁じゃねーのかよ! 

 もう話が変わってんじゃねーか!


 そして、なんだよ「いと萌える。推すほかなし」て。

 ウチの古文教師、アタマ大丈夫か? 



 わかっていただけるだろうか。

 中間テストで、まさかのパンダネタ三連発。

 くそ、ウチの教師どもは、いったいどんなノリで問題作成してんだ。


 そしてChoiceの効果も期待したほどじゃなかった。


 というワケで、オレはふて寝する。おやすみなさい。


 スヤァ……。



 その夜、ベッドで寝落ちしたオレは、「メエェ~」と鳴きながら大型車両のタイヤを転がして爆走するパンダに追い駆け回される夢を見た。

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